アフリカ・ルワンダの教育に革命を起こした一人の若者がいる。中学2年まで日本で育ち、13歳で単身渡英した牧浦土雅さん(どが・20)だ。将来は、国際的なネットワークや行動力を生かし、ITでアフリカを拠点にソーシャル・ビジネスを起こすことを考えている。(オルタナS副編集長=池田 真隆)

科学の実験を見たことがないルワンダの子どもたちに映像で実験の様子を届けた牧浦さん(写真中央)

牧浦さんがルワンダで起こした革命の内容は、教育現場にDVD教材を導入したことだ。現地政府と交渉し、科学の実験を収録したDVD教材を700人ほどの子どもたちに届けた。その行動力には関心するばかりだ。牧浦さんがこの教育革命を起こした時期は、2013年8月から11月末にかけてのわずか4カ月間。若干19歳でのことだ。

2014年1月には、GDP年8%成長を続けるルワンダの経済状況や犯罪率が少ない治安の良さ、IT立国に向けての動きなどを調査した電子書籍を発行し、日本企業のアフリカ進出支援も行う。同国の印象は、100日間で80万人ほどの犠牲者を出した「ルワンダ虐殺」が強いが、今は急速に経済成長を続け、治安も良くなっていることから「奇跡の国」とも呼ばれている。

■「ソーシャル・ビジネス」に興味

現在牧浦さんは、ブリストル大学に通い2016年5月に卒業予定だ。卒業後は、アフリカを拠点としたソーシャル・ビジネスを起こしたいと言う。牧浦さんが社会的課題を解決する事業に関心を持ったのは、高校2年生の夏休みに、インド・デリーで教育系NGOのスタッフとして働いたことが大きく影響している。

貧困の現状を見て、ビジネスの力で解決できる方法を模索していたときに、ソーシャル・ビジネスにたどり着いた。親の影響で、効率的に利益を生み出すビジネスモデルは幼い頃からよく勉強していたが、社会的課題を解決するビジネスモデルの存在は珍しく感じたという。本やネットでソーシャル・ビジネス関連の情報を調べていると、日本の若者たちが立ち上げたある教育系NPO法人を知る。

それは、DVD教材を利用し、途上国での教育格差の解消を目指す「e-Education Project(イーエデュケーションプロジェクト)」だ。同団体は、バングラデシュやヨルダンなど7カ国9地域で活動を展開している。特徴は、学生が単身で現地に飛び、悪戦苦闘しながらもプロジェクトを成し遂げる点だ。

2014年1月、TEDの選ぶ「世界の12人の若者」にも選出された

■「早く行きたいなら、一人で行け。遠くに行きたいなら、みんなで行け」

2012年6月にスコットランドのボーディングスクール(寄宿生中高等教育学校)を卒業し、日本に一時帰国していた夏に、同団体の税所篤快代表と出会った。

この二人の出会いを仲介したのは、リクルート出身の民間校長として知られる藤原和博さんだ。牧浦さんは渡英するまでの中学時代を、藤原さんが校長を務めた杉並区立和田中学校で過ごした。日本を出ることに対して、藤原さんから後押しも受けていた。

藤原さんと写る牧浦さん(和田中学2年時)

税所代表から、「ルワンダでプロジェクトを起こしたと考えている。やらないか?」と打診され、牧浦さんは即決した。こうしてルワンダでの教育革命が起こったのだ。

異国の地で学んだことは、現地に入り込んで相手を理解する力だという。「早く行きたいなら、一人で行け。遠くに行きたいなら、みんなで行け」というアフリカの諺を体感した。「日本では、スケジュール通り進むことも、ルワンダではそううまくは進まない。そのときに、遅刻してきた相手にただ怒っても仕方がない。まず相手を見て、考えを理解してあげることが大切」と牧浦さん。

将来は、国際経験を生かし、アフリカと日本をITでつなげることを目指す。「寄付に依存していたボランティア活動から脱却し、新しい形のソーシャル・ビジネスを起こして、社会を変えていきたい」と意気込む。

牧浦 土雅(まきうら・どが)
Needs One ltd. 共同創業者・e-Education Projectルワンダ代表
1993年東京都生まれ、英国ボーディングスクール出身。ルワンダを中心に現在は、東アフリカのベンチャー企業のアドバイザーを務める傍ら、ITから農業と、幅広いプロジェク トも受け持つ。日本企業のアフリカ進出へのコーディネートも行なう。国際協力機関と農民とを繋げるビジネスなどにもこだわっている。2014年1月、TEDの選ぶ「世界の12人の若者」に選出。著書『アフリカ・ルワンダの『今』からの新たな可能性』