タイトル:電園復耕~大通りからそれて楽しく我が道を歩こう
なぜ人を押しのけて狭き門に殺到するのか?自分を愛し迎えてくれる人たちとの人生になぜ背いて生きるのか?
この書き下ろしは、リクルートスーツの諸君に自分の人生を自分で歩み出してもらうために書いた若者のためのお伽話である。(作・吉田愛一郎)
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◆日本沈没
月曜日になっても時折ビルはゆらゆら揺れた。
啓介が昼食をとるためビルを出ようとエレベーターに乗ると吉田相談役が乗っていた。
「ご無沙汰しています」
「昼飯かい?隣のホテルで一緒にどお?」
「有難うございます。お供します」啓介はペコリと頭を下げた。
吉田相談役は70近くの洒落者で、元プロ野球の選手だ。昔、アメリカ系の保険会社は、プロスポーツ崩れを入れてその人の顔を利用したものだった。
一通り利用すると用無とばかり捨て去るのが常だが、この吉田一朗だけは人づきあいがうまいのか役員から相談役になっていまだに禄を食んでいる。
二人は皇居の掘りが迫っているパレスホテルの一階のコーヒーショップでアメリカンクラブサンドとコーヒーを頼んだ。吉田は春らしいグレーのスーツに少し濃いピンストライプのスーツを着こなし、極端に広いワイドスプレッドの真っ白いシャツがまぶしい。光るように新しいブルーのネクタイにそれより濃いブルーのポケットチーフを胸ポケットからのぞかせている。
「ケイちゃん」息子と孫の間くらい年の離れている啓介に吉田はいつも野球仲間として気軽に声をかける。啓介も吉田のプロ時代の活躍を聞きかじっているので彼を特別な思いで尊敬している。
「はい」
「会社は日本から撤退するぞ」
「えっ」
「アメリカは日本列島が活火山化したとみたらしいんだ」
「じゃあ、これから次々と地震が起きるんですか?」
「俺は専門家じゃないから知らないよ。だけど次は5年後、その次は3年後、その次はその翌年といったみたいに、東北から九州までの太平洋側は東京を含めてめちゃくちゃになると見てるらしいよ。グリーンバーグなんてもういないぜ」
「CEOが居なくてどうなるんですか」
「俺なんか年寄りだから、別に働きたくもないが。若い人は直ぐに身の振り方を考えたほうがいいよ。もう東京には居ないほうがいいかもしれないな。政府も霞ヶ関を地方に分散すると思うよ」
啓介の頭にすぐ八ヶ岳の山々が浮かんだ。
「リニアの駅も品川の次が相模原だろ?品川がやられても相模原起点にすればいいってことだ。東海道新幹線がダメでもリニアで勝負ってとこだ。これからどんどん工事は前倒しになるよ。ケイちゃん東京が沈没する前に山の方に逃げろよ」
啓介は眩暈がしたような気がした。しかしそれは急な変化のためではなく、また余震が来たからだった。
目の上のシャンデリアがゆらゆらと揺れていた。
文・吉田愛一郎:私は69歳の現役の学生です。この小説は私が人生をやり直すとすればこうしただろうと言う生き方を書いたものです。半世紀若い読者の皆様がこんな生き方に興味を持たれるのであれば、オルタナSの編集スタッフにご連絡ください 皆様のご相談相手になれれば幸せです。
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