タイトル:電園復耕~大通りからそれて楽しく我が道を歩こう
なぜ人を押しのけて狭き門に殺到するのか?自分を愛し迎えてくれる人たちとの人生になぜ背いて生きるのか?
この書き下ろしは、リクルートスーツの諸君に自分の人生を自分で歩み出してもらうために書いた若者のためのお伽話である。(作・吉田愛一郎)
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◆山の仲間達
末広が家の中に入ると、ふさがれていた入り口からヘッドライトの明かりが家に差し込まれ、廊下が銀色に光った。
「地震で水道管のどこかがずれたんだな」末広が呻いた。
啓介がドアの脇のスイッチを入れると廊下と廊下に続く板の間の部屋が氷で覆われていた。スリッパがいくつも舟の様に氷の上にくっついていたり、フェルトの部分が氷に沈んで砕氷船のように明かりに浮かんでいた。啓介は靴箱の上で難を逃れたスリッパを履くとスピードスケーターの真似をして廊下を進んだ。後ろで末広の声がした。「ふざけていないで水が吹いている場所を探すんだ」。啓介はUターンして玄関の横にある洗面所に入ってみた。陶製のシンクの上の蛇口の首から霧のような水が吹き上がっていた。
末広は蛇口につながる水道管を揺らしたり、叩いたりしていたが「ダメだ明日水道屋に頼もう」と言って外に出た。
それから「こっちに来てくれ」と言う声が闇の中から聞こえてきた。声は満月が残雪を白く浮き上がらせた白樺とカラマツが混ざっているは林の向こうからだった。
木々が白い地面にバーコードのような模様を作っていた。
東の空に上がったオレンジ色の月は見たことのない大きさ
で、末広の歩く背中が無彩色だがくっきりと見えた。
ブルブルという馬の声が聞こえた。馬が馬房から首を精一杯伸ばして末広を迎えている。
末広は地面から草を引く抜くと馬に与えた。馬がこぼさないように両手を器に様にして草を乗せている。「グーリ」と言って掌で馬の口を覆うようにして草を与えると
隣の馬房に足を進めた。今度は「イースタ~」言うとしゃがんでさっきより長いなにかイネ科みたいな草を引き抜くと左手に持って,葉の方を二番目の馬に与えた。右手で馬の首を叩きながらぶつぶつ何か話している。
それから納屋に行った。バケツを水で一杯にして二人でそれぞれ水をやった。末広がグリと呼ばれた馬に水をやる間に啓介はイースターの長い鼻先にバケツを掲げた。イースターは馬房の窓を白い息で一杯にしながら首を伸ばすととめどなくバケツの水を吸い込んだ。
バケツがどんどん軽くなる。馬は一息ついて残りの水を飲みほした。啓介が末広の方を向くと月明かりに黒い影が地面を突進してきて末広のバケツにぶつかってガウーンと言う音を立てた。
「バース」末広が嬉しそうに大声を立てた。
中型犬がもう一度末広に跳びついてから雪の上を転げて腹を見せたと思うともう一度末広に跳びついた。
「帰って来ちゃったのか」
文・吉田愛一郎:私は69歳の現役の学生です。この小説は私が人生をやり直すとすればこうしただろうと言う生き方を書いたものです。半世紀若い読者の皆様がこんな生き方に興味を持たれるのであれば、オルタナSの編集スタッフにご連絡ください 皆様のご相談相手になれれば幸せです。
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