就職活動で、「ソーシャルビジネス」を決め手に会社を選んだ若者がいる。企業の知名度や規模ではなく、社会問題の解決に挑みたいと門を叩いた。彼/彼女たちはなぜ社会問題に関心を持ったのか。期待と不安が混ざった社会起業家の卵たちの素顔を追う。

世間が社会起業家に抱くイメージと言えばどのようなものだろうか。社会問題の構造を熟知し、高度なビジネススキルを持ち、人としての魅力にあふれた「次世代型リーダー」だろうか。

この特集では、ソーシャルビジネス業界で売上高トップのボーダレス・ジャパン(東京・新宿)に就職した若者たちにインタビューしていく。同社は、「ソーシャルビジネスしかやらない会社」と宣言し、9つの事業を展開している。若手社員の育成にも力を入れており、新規事業へ最低3000万円の投資を行う。

この取材では、社会問題の解決を志し、ソーシャルビジネスを行う急成長ベンチャーを就職先に決めた若者に、志望した理由や入社後本当にやりたいことはできているのか、そして、プライベートな質問まで投げかけた。社会起業家の卵たちの素顔をお届けしたい。

■入社後、何を学んだ?

一弾は、新卒1年目の松浦由佳さん。彼女は、「アフリカの物乞いをゼロにしたい」と意気込み、ボーダレス・ジャパンに入社した。前半では、彼女がアフリカの貧困を問題視するようになったきっかけや、入社の経緯を聞いた。後半では、「入社後」について尋ねた。

社内では、「ジャクソン」の愛称で呼ばれている松浦さん

社内では、「ジャクソン」の愛称で呼ばれている松浦さん

――入社直前の2月には、自分の志と問題解決のビジネスプランを発表する「内定者研修」がありますね。そこでは、どんな話をしましたか?

松浦:「タンザニアに靴工場を建てて障がい者を雇用する」プランを発表しました。私のタンザニアの友人は障がいがあって、物乞いしながら生きています。仕事についても、解雇されたりして続けられずに物乞いに戻る。

このサイクルを、断ち切りたいです。あと、年間5,000万足の靴がタンザニアに輸入されていると知って靴工場に目をつけました。わざわざ輸入するほどなら国内製の靴の需要はあるし、売れるはず。タンザニアには「他に服がいらない」という理由でスーツを着る文化があるので、それに合った靴を製造して雇用をつくろうと考えました。

――その「内定者研修」では各社リーダーから直接、プレゼンへのフィードバックがありますが、どうでしたか?

松浦:5人のリーダーにボコボコにされました(笑)。中国など他国からの輸入品に勝てる理由は?靴を生産する難易度は?ハンディキャップがある人のどんな強みを活かしたビジネス?物量を出せるようになるまでにお金も時間もかかるけど耐えられる?―1つ1つ掘り下げて質問されて、未熟な部分がたくさん見えました。

実は、研修前にも違うプランを個人的に2回、鈴木に見てもらったんですが、その時も一蹴されました。瞬殺ですよ、瞬殺(笑)。でも、少しでも早くアフリカでやりたいから、入社前からこういう機会があるのはありがたいです。

――この発表をふまえて配属が決まりましたが、どう思いましたか?

松浦:バングラデシュに工場を持ち、革製品の生産・販売を行うBusiness Leather Factory社に配属が決まって嬉しかったです。自分のプランと近いことを既にやっているのでたくさん吸収できそうですし、「最もハード」と聞いていて、そういう環境で揉まれたいと思ったからです。

ちなみに、その時までボーダレス=ファンタジーで裏がある会社と思っていましたが(笑)、研修と配属を経て、それは違うと確信しました。

裏があるどころか本当に1人ひとりを見てくれる会社だなと。リーダーがわざわざ集まって私たちの事業プランに真剣にフィードバックをくれたことと、配属理由の明確さがそう思った理由ですね。

――そして4月1日に新たな一歩を踏み出したわけですが、ここまでどうでしたか?

松浦:初日から現場で高い壁にぶつかりました。こんな速いスピードで物事を決めて動かしているのか…!って。それまで自分なりに走り回ってきた自負はあったんですが、全く歯が立たない感じでした。

4月はバングラから届いた2万点の商品の検品と、ECサイトの受注~出荷の作業をマスターしました。オーダーされた商品がミスなく最短で届くよう、ストップウォッチとにらめっこしながらタスク管理していたので、今もその習慣があります。

5月からは4つのプロジェクトを掛け持ちしています。カスタマー対応など裏方のものが主ですが、最近はWebマーケティングも始めて、まずリピーター向けのメルマガを担当しています。文章1つで売上が変わるので、読んだお客様が思わず購入する文章を書けるよう、色んな文章を読んで書いてみる練習を繰り返しています。

学生時代から国際協力活動を行ってきた

学生時代から国際協力活動を行ってきた

――4カ月間で、どんな力がついてきたと思いますか?

松浦:お客様に「迅速に届ける仕組み」をつくるため、人を動かすことも仕組み構築もやってきました。地道ですが、これがないとビジネスは回らなくてお客様に喜んで頂けないので、最初に担当できて良かったです。

JOGGO社(オーダーメイドの革製品を取り扱う。途上国で職人を雇い、雇用を生んでいる)の同期 市川も似たようなプロジェクトを担当しているので、たまに情報交換しつつ、良いなと思うものは盗んでいます。

――ちなみに松浦さん、休みの日は何をしていますか?

松浦:読書したりビジネスプランを書いたり、ですかね。

この前、CORVa社(親子、兄弟のお揃いをコンセプトに持つアパレルブランド。バングラデシュの貧困家庭の親を積極的に採用している)のWeb広告専門の先輩に勧められた本を読んだんですけどこれが…

―いや、真面目な話ではなくて...

松浦:え!(笑)

それ以外だと、友達と遊ぶとか、アクセサリーをつくるとか…。

あと、着付け教室に通い始めました。おばあちゃん先生がめちゃくちゃ厳しいんですけど、休日を和服で過ごしたくて鍛錬中です。

同期にやたらと「ジャクソンはやかましい」って罵られるので、これを機に日本人女性らしい「おしとやかさ」を手に入れようかと。(笑)

それから、月に1回、東京に住む彼氏に会いに行くのも楽しみです!吉祥寺はよく行きますね。最近はポケモンGOに夢中な人だらけですが…。なかなかの遠距離ですけど、こっちも頑張りたいですね。

―ご馳走様でした(笑)。さて、松浦さんが最終的に目指すのは「アフリカの物乞いをゼロにする」ことですよね。それを実現するために、今後どうしたいですか?

松浦:ビジネスを立ち上げるため、お客様に速くかつ期待を上回るサービスを提供する仕組み・チームづくりと、商品の魅力を伝えてお客様が思わず買うようなマーケティング、特にWebマーケを徹底的にやります。

どれだけ良い商品ができても、この2つができないと結局ビジネスは大きくならないと分かってきたので、まずここに注力ですね。

研修では靴工場で雇用するプランを出しましたが、より速く多くの人を雇用できるアイデアがあれば、そっちをやる可能性もあります。1つの事業で「アフリカの物乞いをゼロに」は非現実的なので、複数の事業をつくることを考えますよ。常にアンテナを張って、ビジネスアイデアの引き出しを増やしていきます。

私が目指すのは、ただ彼らが収入を得られる手段をつくることではなく、生きがいも感じられる場をつくることです雇用は最優先ですが、それだけではあまり意味がないと思うんですね。

働くメンバーが、自分の技術に誇りを持って、やりがい・生きがいを感じながら働ける場にしたいので、そんなボーダレス・アフリカを、遅くとも3年以内には立ち上げます。

――ありがとうございました。

 

次回は、「差別偏見をなくす多国籍シェアハウス」事業を台湾でゼロから立ち上げた、新卒入社4年目の青山明弘にインタビュー予定です。

入社2年目の秋にひとり台湾に渡ってから1年半が経過。その間に単月黒字化を達成し、プライベートでも「大事件」があった青山は、ボーダレスでの過去3年間をどう捉えているのか。「戦争をなくしたい」という理想に向かって何をしてきたのか。台湾統括としての顔、そして○○としての顔に迫ります。

聞き手:株式会社ボーダレス・ジャパン 採用担当 / 石川えりか

新卒では教育×ITのベンチャー企業に入社。営業→人事を経て、入社4年目の春、ボーダレス・ジャパンに転職した。1人でも多くの社会起業家を輩出するため、そして生き生きと働く社会人を増やすため、様々な会社を見てきたフラットな目線でボーダレス・ジャパンを伝える。

3度の飯より、ボーダレスとスワローズとロック。ひたすら追いかけて日本中を走り回る変態。結婚3年目、もちろん家庭が一番大切です。時間じゃない、気持ちだ!

【ボーダレス・ジャパンの社員紹介記事一覧】
「起業したい」だけだった僕が児童労働根絶に奔走する理由(中村 将人)
「有機農業で脱・貧困」 社会変革の旗手、ミャンマーへ(田崎 沙綾香)
「支援」から「ビジネス」へ 最貧国で奮闘する25歳(仲渡 春菜)
アジアに広がる「戦争なくす」シェアハウス 新卒4年目が展開(青山 明弘)

ボーダレス・ジャパンの会社サイト

◆「社会問題解決を仕事に」
ボーダレス・ジャパンでは、社会問題を仕事として解決していきたい、本当に社会を変えるビジネスをつくりたい人を新卒・中途ともに通年採用中。
あなたがビジネスの実力をつけ、入社後即~入社2年後の間に自分で事業を立ち上げられる環境を用意しています。
ソーシャルビジネスに共感する志を持った仲間、独自のノウハウ、事業展開に必要な資金が集まったこの場所で、「この問題をなんとしても解決したい」という強い思いを成し遂げませんか?
ボーダレス・ジャパン採用ページ

[showwhatsnew]