タイトル:電園復耕~大通りからそれて楽しく我が道を歩こう

なぜ人を押しのけて狭き門に殺到するのか?自分を愛し迎えてくれる人たちとの人生になぜ背いて生きるのか?
この書き下ろしは、リクルートスーツの諸君に自分の人生を自分で歩み出してもらうために書いた若者のためのお伽話である。(作・吉田愛一郎)

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◆氷の家

餌をやり終えた啓介が末広に次の仕事の指示を貰おうと家に入ると、入口の狭いタタキは割れた板ガラスのような氷の破片で一杯になっていた。末広が床の氷を割っては戸口に運び出していたのだ。
「社長、水道管の元を止めたんですか?」
「止めてねえが、それがどうした?」
「止めなければ水が出っぱなしでしょう?」
「そうか、、、」
「家の周りのどこかに元栓があるはずですよ」
「それを止めないで、馬の面倒を見る奴があるか」
「すみません」と言って見て啓介は噴き出した。馬の面倒を見ろと言ったのは末広本人じゃないのか。家の周りを回るまでも無く、玄関の外に四角い鉄の蓋が見えた、軒下だったので雪が被っていない。
月明かりに冷たく黒く見えた。啓介はかがみこんで蓋を開けて、中にあった鉄製の小さな船の舵輪のような輪を回して締めた。
洗面所に戻ってみると、果たして水は停まっていた。水が噴き出ていたパイプの向こうに窓があった。窓から見える月明かりに小さな動物が映っていた。

リスだった。よく逃げないものだと啓介は思った。近状の森に棲んでいる奴か、それともこの家のどこかに住んでいるのかな。明日になったら麓のコンビニでなにかナッツ類を買って来てやろうと思いながら、玄関の氷の板を放り投げたり蹴り出したりして表に捨てた。それが済むと、今度は廊下の氷を玄関に運び出した。

廊下の氷を運び出すと部屋の氷を廊下に押し出した。押し出す先から末広が氷の板を運び出してきた。バースデーと言う名の犬も氷を鼻ではがしたり、かじっていた。だんだん体が冷えてきた。
「ストーブ焚かないんですか」
「火を焚くと氷が溶ける。家が水浸しになる」
「じゃあ地震が3月11日でなくて夏に来ていたら、家は水浸しだったんだ」
「夏には人が居るから、それは無いだろう。でもあらかた片付けられそうだから、火を入れるか」
末広は部屋の南側のガラス戸を開けて、雨戸も開けるとベランダに出た。ウッドデッキの下に薪が置いてあるらしい。デッキの下でガタガタと言う音がして、末広がラグビーボールより一回り大きい薪の束を三つ抱えて帰って来た。ストーブは黒く小さい鋳物の立方体でブリキの煙突が屋根を突きぬけていた。啓介が板の間の隅の氷をはがしている間に、末広は束の中の比較的細かく割られている薪を3本抜き取とると、ポケットから出したいくつかの松カサと一緒にストーブの小さな扉を開けて屈んで手前の方に置いた。側のテーブルに置いてあった新聞を手ぬぐいのように絞ると台所に行ってガスで火をつけてから聖火リレーのランナーのように新聞松明をストーブにくべた。

リスⅢ

文・吉田愛一郎:私は69歳の現役の学生です。この小説は私が人生をやり直すとすればこうしただろうと言う生き方を書いたものです。半世紀若い読者の皆様がこんな生き方に興味を持たれるのであれば、オルタナSの編集スタッフにご連絡ください 皆様のご相談相手になれれば幸せです。

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