少子高齢化に伴う人口の減少、そしてまた地方の人たちは都市部に流れ込み、地方の衰退は今そして今後、日本が直面する大きな課題となります。そんな危機感をよそに、岩手県陸前高田市に、毎年1,000人の若者が訪れる小さな町があります。「広田町(ひろたちょう)」は、人口約3,200人の漁師町。かつては他の地方の町と変わらない、過疎や高齢化の進む小さな町でした。何がこの町を盛り上げたのか、「チェンジ」をキーワードにこの町で活動するNPOに話を聞きました。(JAMMIN=山本 めぐみ)
陸前高田の小さな町が、若者が訪れる町に
陸前高田市にある漁師町・広田町を拠点に活動するNPO法人SET。人口3,200人のこの町で、地域の高齢者と都会の若者をつなげるプロジェクトを数多く行っています。
代表の三井俊介(みつい・しゅんすけ)さん(29)は関東で生まれ育った、いわゆるIターン組。東京の大学を卒業後、東日本大震災の復興支援で携わった以外は縁もゆかりもなかった広田町へと移住しました。
「SETは僕が大学3年生の時、2011年3月11日の東日本大震災が発生した2日後に有志が集まって立ち上げた団体。最初は被災地へ物資の搬入・搬出をする活動をしていたが、その後避難所にいる子どもたちに勉強を教えたり、スポーツを一緒にやったり、防災本部の手伝いや地区の清掃をしたりしながら、地域の人たちからその都度困り事を聞いて解決のために動くという活動をしていた」
「大学卒業後、2012年4月には広田町に移住し、そこで復興支援ではなく、持続可能なビジネスをやりたいと思うようになった」と三井さん。2013年の3月には、SETの活動のコアとなる「チェンジメーカースタディープログラム」の第1回を開催。同年6月にはNPO法人化し、今日に至っています。
「若者と高齢者が一番多く出会う町」
「少子高齢化が叫ばれる中で、ここ広田町は、少子と言われる若者と高齢者が一番出会い、交流している場ではないか」と三井さん。
「町を訪れる若者の中には、東北と全く縁のない子も多い。しかしこの町を訪れて、自分がやりたいことを実践することで、町の人を笑顔にする実感や満足を得ている」と話します。では、一体何がそれを可能にしているのでしょうか。
学生たちが広田町を訪れ、「やりたいこと」を立ち止まって考えられる場を提供するプログラムとして、2013年にSETが始めた「チェンジメーカースタディープログラム」。SETの活動のメインの部分を担うプログラムです。
「『チェンジメーカースタディープログラム』は、全国から集まった大学生が1週間広田町に滞在し『やってみたいこと』を考え実行まで行う町おこし実践プログラム。事前・事後学習含め、期間中の心構えやマインドセットなどを、すべてSETのスタッフがサポートしながら、1週間の間にたくさんの地域の人と出会い、経験を積み、地域の課題を話し合いながら、実践までを経験する」
これまでに550名以上の学生、600名以上の町民が参加してきたというこのプロジェクト。「教育や漁業、人口流出やコミュニティー崩壊など取り組むべき様々な課題がある中で、それぞれの課題解決のために動くプレーヤーを育てられるという点が、このプログラムに力を入れている一つの理由」と三井さんはプログラムへの思い入れを語ります。
地方だからこそ、若者が「やりたいこと」に取り組める
若者がやりたいことをかたちにする。それは地方でなくても、都会でもできるのではないか?と尋ねてみると、三井さんからは次のような答えが返ってきました。
「広田町のように小さな町で新しいことに取り組むことの良いところは、皆の顔が見えるということと、競合他者がいないということ。地方には周りに競合他者がない。そうすると純粋に町のためになること、自分がやりたいことに注力しながら運営することができる。これが、地方でやれる面白さ。学生たちにとっては、『やりたい』を『できる』に変える原体験がつかみやすい場所なのではないか」
「最近は、自己肯定感が低い若者も少なくない。そんな中で、お年寄りの方たちが遊びに行くたびに笑顔で迎えてくれる。訪れることを楽しみに待っていてくれる。『自分の存在が、誰かのためになれた』という感動が若者たちの間で生まれ、それが彼らの成長にもつながっていく」
「お年寄りの方たちも孫が帰ってくるような感覚で『次は何を食べさせてやろうか』『何をさせてやろうか』と楽しんでくれて『家族が明るくなった』『話題が増えた』といった声もある」
「一緒に一つ先の未来を描く。それがまちづくり」
「行政が決めて、それに地域の人たちが従うというトップダウンのやり方ではなく、一つ先の未来を描き、それを皆で積み上げていくのが、僕らの思うまちづくり」と話す三井さん。少子高齢化や人口減少が進んでいく中で、これからのまちづくりのあり方について、次のように語ります。
「人口増加を前提に作られた価値観、そこから生まれた人づくり・まちづくりを変えていく必要がある。目の前にいる地域の方たちが喜んでくれることと自分がやりたいことをシンプルに掛け合わせた時に、それがどんな些細なことであっても、一つ先の未来を作っていくと思っている。人口減少にあるからこそ、豊かになるまちづくりを目指していきたい」
「僕たちのようなミレニアル世代(※1980年〜2000年生まれで、2000年代に成人や社会人になる世代)の若者は、高度経済成長期を知らない。『お金を稼ぐこと=豊か・幸せ』だとは思っていないし、不景気だと言われている中でも、特にそれを感じることなく、物質的な豊かさの中で生きてきた世代。多様性が身近にあり、『一人ひとり皆違うよね』という感覚があるから、一方的に『これが正しい』とか『こうしなさい』という価値観を押し付けられることには抵抗があって、誰かにいわれたからでなく、自分自身で幸せを定義したいと感じている、そんな世代だと思う」
「『誰かにためになりたい』という思いは大前提としてあって、その中で、一人ひとりが定義した幸せをかなえていくことができたら。互いの幸せを応援し合えるような関係性を築いていきたい」
広田町の地域住民と都会の若者をつなぐプロジェクトを応援できるチャリティーキャンペーン
チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は、SETと1週間限定でキャンペーンを実施し、オリジナルのチャリティーアイテムを販売します。
「JAMMIN× SET」コラボアイテムを1アイテム買うごとに700円がチャリティーされ、クリスマスに地元の中高生が主体となり、広田町全世帯にクリスマスプレゼントを手渡す「クリスマスプロジェクト」のプレゼントを用意するための資金になります。
「陸前高田の中高生とタッグを組み、地域の将来を考えアクションを起こすことで、中高生が自分たちの町の魅力を再発見したり、地域の課題を考えたりすることにつながる『高田と僕らの未来開発プロジェクト』というプロジェクトの一環で、今年で5年目の開催。地元の中高生が、プレゼントの内容から資金調達まで、すべて自分たちで決めて動いている。昨年は茶筒を、その前は手作りのクリスマスオーナメントをプレゼントした」(三井さん)
JAMMINがデザインしたコラボアイテムに描かれているのは、積み重なったスーツケースの上に描かれた一つの町。スーツケースは遠くの町からやって来る若者を表すと同時に、若者と地域に暮らす人たちのケースいっぱいに詰まった様々な思いの上に、素晴らしい町が成り立っていくことを表現しました。
チャリティーアイテムの販売期間は、10月29日〜11月4日までの1週間。チャリティーアイテムは、JAMMINホームページから購入できます。
JAMMINの特集ページでは、SETの活動について、三井さんへのより詳しいインタビューを掲載中!こちらもあわせてチェックしてみてくださいね。
・人口減少にあるからこそ、豊かになるまちづくりを。都会の若者と地域の人が出会い、共に幸せを目指す〜NPO法人SET
山本 めぐみ(JAMMIN):
JAMMINの企画・ライティングを担当。JAMMINは「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週NPO/NGOとコラボしたオリジナルのデザインTシャツを作って販売し、売り上げの一部をコラボ先団体へとチャリティーしています。2018年9月で、チャリティー累計額が2,500万円を突破しました!
【JAMMIN】
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