ボーダレス・ジャパン(東京・新宿)は3月17日、ジャパンソーシャルビジネスサミット2019(以下JSBS)を開いた。社会課題を事業で解決していく社会起業家を志す若者のピッチが行われ、最優秀賞には、若年介護者をつなげて、孤立化を防ぐプランを考えた宮崎成悟さんが輝いた。(オルタナS編集長=池田 真隆)
宮崎さんが目指す社会は、ヤングケアラーの孤立と不安の解消。ヤングケアラーとは18歳未満で家族の介護をしている人のことを指し、約20万人いるとされている。宮崎さんもその一人で、高校生の頃から難病の母の介護を続けてきた。
介護漬けの日々を送ったことで、一時は大学進学も諦めた過去を持つ。介護について周囲に相談できる人がいなく、一人で苦しんだ経験を原体験にして、若年介護者をつなげる事業を考えた。
宮崎さんは、「約10年間、母の介護をずっと行ってきた。苦しんだこともあったが、2~3年前から考えていた事業が認められて良かった」と喜びを語った。宮崎さんは約800人が集まった会場の投票数によって選ばれる「オーディエンス賞」も受賞した。
JSBSに登壇したのは、ボーダレス・ジャパンが主催するソーシャルビジネスに特化したビジネススクール「ボーダレスアカデミー」に通う8人のアカデミー生。
同アカデミーには約400人からエントリーがあり、選ばれた約50人が通った。5カ月かけてビジネスプランを練り合ってきた。当日は事前審査を通過した8人が「ファイナルピッチ」の登壇者としてプレゼンした。審査員によって、最優秀賞のほかに、審査員特別賞(2人)、オーディエンス賞、優秀賞(2人)が選ばれた。
優秀賞には、フィリピンで移動販売事業を立ち上げ、スラム街に住む貧困家庭の親を雇用し、貧困の連鎖を断ち切るプランを発表した坪田勝志さん、相互扶助の形で介護を行う社会を目指し、介護離職をなくすプランを発表した照屋和樹さんが選ばれた。
審査員特別賞には、黒毛和牛の持続的な生産と消費を目指した山地竜馬さんと服の生産体験を通して、環境破壊につながらない服を選ぶ消費者を増やすことを考えた植月友美さんが選ばれた。
■起業家の「裏方」にも目を向けて
クロージングセッションに登壇したボーダレス・ジャパンの田口一成社長は、「今日、一番感動したのは、このイベントを運営したスタッフの姿勢だ」と話した。同イベントには800人の来場者が集まったが、運営を務めたのは同社のスタッフ。
イベント運営会社ではないため、鈴木雅剛副社長を始めスタッフ全員で試行錯誤しながら、台本や構成、演出、音響、ライト、カメラ位置などを話し合った。始めから終わりまで、会場の外で受付をして、一切内容を聞けないスタッフもいた。
田口社長は、「人には役割があり、それぞれが役割を果たして、社会起業家は成長していける」と主張。同社では起業家を支えるバックオフィスづくりに力を入れてきて、20以上の社会的事業を展開してきた。この方針で経営してきたことで、田口社長は開口一番に、登壇者ではなく「裏方」を褒めたのだろう。
ウェルモの鹿野佑介社長は、「通常のビジネスコンテストでは、登壇者一人に光があたり、その登壇者を支えてきた裏方の存在は見えないことが多い。起業家は一人で成長してきた訳ではなく、多くの人に支えられてきたことをこの機会に知ってもらいたい」と話した。
eumo(ユーモ)の新井和宏社長も、「人は社会と必ずつながっている。視野を広げるとそのつながりが見えてくる。つながっているコミュニティーから社会を豊かにしてほしい」とした。