「薬物依存症」に対して、皆さんはどんなイメージを持っているでしょうか。「薬物=違法なもの」というイメージが強いかもしれませんが、決して違法薬物に限った話ではなく、向精神薬(精神安定剤・睡眠薬など)や市販薬(風邪薬・鎮痛剤)なども含まれます。様々な偏見と闘いながら、回復を目指し、毎日を必死に生きる人たちがいます。京都にある薬物依存症回復支援施設を運営するNPOを取材しました。(JAMMIN=山本 めぐみ)

薬物依存症の人の回復をサポート

「京都ダルク」施設利用者によるミーティング。月曜日から土曜日の間に1日2回、午前と午後に1時間ずつ行われる

京都市にある薬物依存症回復支援施設を運営する認定NPO法人「京都DARC(ダルク、以下『京都ダルク』)。ここでは、薬物依存症によって居場所をなくした人たちが安心して生活できる居場所を作り、薬物を使わずに生きていく手助けをしています。

「ただ断薬するならば、刑務所へ入れば物理的には薬は止められる。しかし物理的なアプローチだけではだめで、自分の欠点や悪いところを認め、薬を使う理由を突き止めなければ薬は止められない。自分自身の弱さを認めるところからがスタート」。薬物依存からの回復の難しさをそう語るのは、施設長の出原さん。自身も過去に薬物使用により逮捕され、完全断薬に至るまで、自己嫌悪に陥った空白の8年間があったといいます。

京都ダルクのスタッフは、その多くが過去にダルクで人生を変え、薬物依存症から回復した人たち。「今はつらくても、回復した仲間の姿が『人は変わることができるんだ』という希望になれば」と出原さんはいいます。

回復プログラムの要は「ミーティング」

ミーティングで利用するハンドブック。最初に参加者が順番にハンドブックを読み、ミーティングを進めていく

薬物依存症からの回復プログラムの中で最も大切にされているのが、当事者たちによるミーティング。京都ダルクでは、月曜日〜土曜日の週6日、午前・午後の1日2回に分けて実施しています。

私が取材に訪れた日は、午後からのミーティングを見学させてもらいました。14時からのスタートにあわせ、回復プログラムを受講中の利用者の方たちが一人、また一人と席に着きます。

この日は8名が参加。堅苦しい雰囲気は一切なく、皆さんマグカップなどを片手に、リラックスした雰囲気です。利用者の方があれこれと気遣ってくださり、私もすぐにその場に打ち解けることができました。

いざミーティングがスタート。プログラムに沿うかたちで、一人ひとりが発言します。

当事者Aさん:
「覚せい剤をやって捕まるなんて、世間からしたら本当にクソみたいな人生。だけど、そこに手を出してしまった。やっているときは楽しくても、その後には虚しさと後悔しか残らない。それでもどこかでやりたいという衝動にかられる自分がいる。でも、やったってまた後悔することはわかっている。毎日が闘い」

当事者Bさん:
「ここのところ薬物に対して以前のような衝動や執着は少なくなり、以前に比べてなんとなく日々が過ぎている。薬物には手を出していないが、今一度自分の目標や、モチベーションを確認したい。『自分にはできる』と信じて1日1日をやっていきたい」

当事者Cさん:
「引きこもりになり、精神薬が手放せなくなった。こんな自分でいてはいけない。少しずつ社会に出て、社会と関わる方法を見つけていきたい」

一人ひとりが話している間、他の方たちは黙って話を聞きます。

「それぞれが思ったことを話すグループミーティングは、反論も異論もなし、言いっぱなし、聞きっぱなしが基本。薬物は一人では止められない。安心して自分のことをさらけ出すことができる場を作り、それを重ねることで、生き方への考えが変わっていく」と語るのは、京都ダルクスタッフの石原雅子(いしはら・まさこ)さん。「病院や刑務所では、根本的な回復はできない。施設の中で、仲間と一緒にやっていくことが大切」と仲間の存在の大切さを語ります。

回復を目指すために必要なのは「本人の意志」

自由時間は、利用者がそれぞれ思い思いに過ごす。高校受験を予定している利用者と数学の問題を解くスタッフの石原さん

「薬物依存症は病気。何らかの治療をしないと、生きていくことはできない」と話すのは、京都ダルク施設長の出原さん。「ダルクは、薬物依存症によって行き場を失った方たちの最後の砦のような場所」と語ります。

「『止められるものなら止めたい』と本人も思っているが、人生から薬を抜いてしまうと、やることがなくなったように感じてしまう。日常に薬がないと、楽しいことも何もないように感じてしまう。僕自身もそうでした」と自身の過去を振り返ります。

お昼ご飯は毎日その日にメニューをみんなで決定し、買い物から調理、後片付けまでを分担する。「ダルク卒業後の自立生活に向けてのプログラムの一つです」(出原さん)

「体から薬が抜け切った後も、『何かあれば使おう』という気持ちがどこかにある。『余命宣告されたら使おう』とか『家族から一人残されたら使おう』みたいな気持ちですね。どこまでいっても、心のどこかで『使いたい』という気持ちは消えない。薬物依存症の人は、そこと一生をかけて向き合っていく必要があります」

「外部の人間が何を言っても、そこに本人の意志がなければ何も変わらない。一人ひとりの意志が何より大切で、そこを尊重しています。しかし、意識が変わるタイミングは一人ひとり異なる。前に進まない人を見て時に歯がゆく思うこともありますが、その人にとって本当の意味での回復はどこから始まるかわからない。適度な距離を保ちながら見守っています」

変われないことが咎となり、自ら命を絶つ人も

施設内は毎日笑いが絶えず、アットホームな雰囲気。「今日一日ベストを尽くし、今の自分に出来ることに取り組んでいます」(出原さん)

「薬物依存症の人は、真面目で考え込んでしまうタイプの方が多いのではないか」と出原さん。

「周囲から『薬に手を出す自分が悪いんや』と言われることもありますが、本人たちも薬物依存症になりたくてなっているわけではないんです。自己肯定感が低く、体や心の痛みから逃れるために薬に依存してきた人も多いです。薬を使って『使ってしまった』とさらに自己肯定感が下がり、負のスパイラルに陥る人も少なくありません」

「ダルクは全国に61箇所ありますが、関わった利用者の方が年に何人かは命を落としています。オーバードーズ(薬の過剰摂取)で亡くなる人もいますが、自分自身が変われないことが咎となって自ら命を絶つ人も多いんです」

「薬物依存からの回復=人とのつながり」

閑静な住宅街の中にある入寮施設「ネクサス3」。現在3か所に分かれている入寮施設を統合した新施設の建設を予定しているが、地元住民の反対により難航。「薬物依存症には、強い偏見や差別が残っている。当事者たちが普通に生活している様子を見てもらえたら」(出原さん)

「薬物依存からの回復」=「人とのつながりを持つこと」だと出原さんはいいます。

「孤独に追いやられれば追いやられるほど、薬が止められなくなっていく。誰も信用できず、家族に嘘をついてまで薬物に手を染めてしまう。僕自身、自分が薬を使っていた時のことを思い出すとすごく寂しい。自分も誰も信じることができないし、薬仲間も誰も僕のことを信じていないし、『こんなことがいつまで続くんや』と心の底から寂しかった」

年末には毎年餅つきを行う。「京都ダルクを卒業していった方が、ご家族と一緒に来てくれたりします」(出原さん)

「ダルクでは、一緒に回復を目指す人たちを『仲間』と呼んでいます。ここに来て同じ薬物依存症の人と出会い、話を聞いて初めて『俺と同じこと思ってる』『自分と同じや』と共感できた瞬間、『自分だけじゃなかった』とほっとして、居場所を感じることができる。ある利用者さんは、刑務所を出てここに来て、初めて『気持ちわかるわ』といわれ、それで安堵したと話してくれました。気持ちをわかってくれる仲間が周りにいること、そしてその仲間も共に回復を目指していることが大きな励みになります」

「他に行くところがなくても、ダルクはいつでも回復を目指す人を受け入れています。うまくいかなくてここを出たとしても、いつでもここに戻ってきて、人生を立て直すきっかけをつかんでほしいと願っています」

「正しく自分たちのことを知ってほしい」地域とも積極的に交流

地元で開催されたお祭りに、利用者の皆さんとボランティアとして参加。ゴミ回収を担当した

「社会の刷り込みもあり、薬物依存症は差別や偏見にさらされやすい。テレビドラマなどでも薬物依存症の人が現実とかけ離れた姿で描かれることがあり、心を痛めています」と出原さん。

「『こわい人たちなのではないか』とか『意味のわからない言動をするのではないか』と思われている方も少なくないと思います。だからこそ、身近なところで、僕たちを知って欲しい。薬物依存症の人が回復して戻っていく先は、それぞれの地域です。実際に接し、触れ合ってもらうことでしかわかってもらえないことがあると思っていて、そういった意味でも、地域の方たちと接点を持っていくことが差別や偏見を取り払う一助になると思っています」

薬物依存で苦しんでいる人へ、回復へのメッセージを伝えるチャリティーキャンペーン

チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は、京都ダルクと1週間限定でキャンペーンを実施し、オリジナルのチャリティーアイテムを販売します。「JAMMIN×京都ダルク」コラボアイテムを1アイテム買うごとに700円がチャリティーされ、薬物依存症により苦しみ、病院に入院したり、拘置所や刑務所に収監されたり、更生保護施設に入寮している人たちへ、回復へのメッセージを届けるための資金になります。

「失敗や絶望の中で『変わりたい』と一歩を踏み出そうとする人を私たちはいつでも受け入れているということと『回復はできる、未来はある』ということを伝えていきたい」(出原さん)

「JAMMIN×京都ダルク」1週間限定のチャリティーアイテム。写真はベーシックTシャツ(全11色、チャリティー・税込3,400円)。他にもボーダーTシャツやキッズTシャツ、パーカー、トートバッグなどを販売中

JAMMINがデザインしたコラボデザインに描かれているのは、ツギハギの旗。たとえ破れたりほつれたりしても、また縫い合わせれば正々堂々とはためくことができる。「人生はいつでもやり直せる」、そんなメッセージを表現しました。

チャリティーアイテムの販売期間は、2月25日〜3月3日までの1週間。チャリティーアイテムは、JAMMINホームページから購入できます。JAMMINの特集ページでは、より詳しいインタビュー記事を掲載中!こちらもあわせてチェックしてみてくださいね。

薬物依存により居場所をなくした人が人とのつながりを取り戻し、依存症からの回復を目指す〜NPO法人京都DARC

山本 めぐみ(JAMMIN):
JAMMINの企画・ライティングを担当。JAMMINは「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週NPO/NGOとコラボしたオリジナルのデザインTシャツを作って販売し、売り上げの一部をコラボ先団体へとチャリティーしている京都の小さな会社です。創業6年目を迎え、チャリティー総額は3,000万円を突破しました。

【JAMMIN】
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