持続可能な取り組みを行う29の先進的な都市に与えられる「SDGs未来都市」。その一つに岡山県真庭市があります。同市では、「世界への視野と真庭への誇りを持つ若者を育成すること」をミッションに掲げていて、このミッションの達成に向けてリバースプロジェクトは地域団体と連携して、ある事業を企画しました。一体どのような取り組みが行われたのでしょうか、レポートします。(寄稿・武井 朋美)
今回リバースプロジェクトが企画したのは、「ちがい」をテーマにした食イベントです。「ちがい」をテーマとしたことで、格差問題などについて気付くきっかけになり、未来をよりよくする糸口を考えました。
■学校給食で味わう今と昔
「一人ひとりが観光資源になる」をテーマに、地域おこし活動をおこなう地域団体まにわっしょいは、廃校となった旧遷喬尋常小学校を活用し、懐かしの学校給食を提供する活動を続けてきました。今回は、真庭コントラストホリデイの一環として「今と昔」のちがいに着目し、より学びを深めるイベントをつくりました。
元給食調理員の永田さんと、まにわっしょいのメンバーで八百屋を営む住田さんによる特別授業。
まずは、給食の思い出をみんなで話し合いました。そして「給食を一番先に食べる人は誰でしょう?」「給食に毎日必ず牛乳が出るのはなぜでしょう」「たまご1個の重さは何グラムでしょう」など、給食にまつわるクイズが出題され、永田さんによる解説を聞きました。
教室に集まるみんなの緊張がほぐれたところで、今日の本題である「給食の今と昔」について、昭和 39 年から現在までの学校給食を、写真を参照しながら「ちがい」に着目しました。
永田さんが実際に給食調理員として働いていた時には、地元の農家さんが規格外で市場に卸すことができない野菜や果物を小学校に持ち込んでくれて、その日の給食として提供することもあったそうです。
現在は規制が厳しくなり、当日にメニューを変えることや、畑から直送された野菜を使うことなどは難しくなったと話します。また、学校給食は、いのちに、つくり手に、配膳してくれる当番などに感謝する心を育む場であることなどを学びました。
今では、物流や保存技術の発達により、いつでも好きなものを食べられるようになりましたが、本当の豊かさとは何か、住田さんと永田さんによる問いかけを、教室にいるみんなで考えました。
給食調理員の皆さんの簡単な自己紹介の後に、給食をよそってもらいました。真庭の野菜がたっぷり入った、懐かしい給食メニューに、みんなの笑顔がこぼれます。
■ごちそうさまを表現しよう
「ごちそうさま」の由来は、遠くから食材を集めるために馬を走らせた「馳走」に感謝する気持ちを表現することからきているとのこと。
今日の給食の体験を振り返って、あえて「ごちそうさま」以外の自分の言葉で感謝の気持ちを表現してみる授業です。
まずはプリントを使って、授業と給食を振り返りました。そして、今日の「ごちそうさま」を言葉にし、真庭でつくられている「樫西和紙」を使って、習字をしました。同じ給食を食べても、みんなそれぞれちがう「ごちそうさま」が表現されました。
■TABIBITO SHOKUDO〜世界のカレー、真庭のお米と恋に落ちる〜
元地域おこし協力隊で、韓国出身のカン・ユンスさんは、外国人観光客が長期滞在できるゲストハウスの立ち上げや、外国人が故郷の料理を振る舞うことで地域住民との相互理解のきっかけをつくる「TABIBITO SHOKUDO」の運営をおこなってきました。今回は「真庭人と旅人」というテーマで「ちがい」と、その先にある「同じ」を伝えるイベントを開催しました。
真庭には「里海米」というお米があります。瀬戸内で採れる牡蠣の殻を粉末状にし、土壌改良剤として土にまくことで、良質なお米が採れるのだそうです。
このイベントでは、真庭里海米に世界のカレーをかけて食べられます。テーマは、船旅。船の形をした容器に真庭のお米が盛られ、参加者は旅を始めます。
ネパール、イギリス、マレーシア、セネガル、フランスなど、世界各国のカレーが並び、参加者は外国人スタッフに声を掛け、カレーをもらい、そのカレーの歴史やレシピ を聞くことから、会話を始めます。食を通じて話すことで、会話が盛り上がります。
カンさんは、「それぞれのカレーにちがいはありますが、カレーであることは同じ。ちがいの中にある共通点、共通点の中にあるちがいを楽しんだり、味わったりするきっかけになれば嬉しい」と話した。真庭市内から、高校の同級生と一緒に参加した方は「自分の家のカレーと友達の家のカレーも結構ちがう。国内外問わず、一人ひとりにちがいがあって、それを楽しめたら良いと思う。カレーを通じて、海外にも遊びに行ってみたくなった。」と話した。
■真庭のちがいを伝えるメニューコンテスト
真庭を拠点に活動する、地域学生団体「ゆーまにわ」。大学のない真庭市に学生の集まる場所をつくり、大学生の自己実現と地方の課題をむすぶ活動をしています。ビジネスコンテストの企画・運営や高校生の学習支援、農業など分野を問わず様々な活動を展開。高校生への学習支援やコンテストの運営経験をいかし、真庭の中の各地域(久世・落合・蒜山・勝山など)のちがいを表現するピザを開発するワークショップを開催しました。
*ワーク1:チーム会議
くじ引きにより「久世」「落合」「勝山」「蒜山」の地域ごとのチームに分かれ、それぞれの「ちがい」を考えるワークを行いました。ゆーまにわのメンバーが各チームに1名入り、みんなのアイデアを引き出しながら、会議をリードしていきました。歴史、文化、気候、人などの観点から、それぞれの地域についてチームごとに考え、まとめました。勝山は、ひな祭り、のれん、人力車などの伝統文化、賑やかな人、木材でできた建物などが上がりました。そして、まとめた内容を実際にピザで表現するにあたり、味や匂い、見た目などに「らしさ」を表現するにはどうしたら良いかをチームで話し合い、実際につくるピザのレシピを考えました。
*ワーク2:ピザづくり
各チームで考えたピザを実際につくってみました。揃えられた材料の中で組み合わせ、それぞれの地域らしさを表現しました。(ピザ生地は、バイオマス燃料のペレットで焼き上げるピザを提供する「Pizza Borsalino」より提供いただきました)
*プレゼン・審査
各チームがピザのタイトルと、制作意図などをプレゼンテーションし、審査員に伝えます。
審査員は3名。味・見た目・「らしさ」の表現・意外性・自分好み度の5つの観点で、それぞれ10点満点、計50点満点にて審査をし、フィードバックをしました。
久世チーム:「なでしこ」
久世は商人の町として栄えた歴史があり、美人が多いとも言われていることから「人」に着目したピザを開発。久世の特徴である「美人」をイメージしたスイーツビザを開発。
勝山チーム:「今昔ピザ」
勝山は古い町並みを残しつつも、木を活用した最先端の設備がある建物も開発されている。今と昔が融合するまちをイメージした、2つの味わいを楽しめるピザを開発。
落合チーム:「後醍醐天皇も絶賛!醍醐桜ワンダフルピッツァ」
落合には、推定樹齢1000年の大きな一本桜である醍醐桜がある。そのインパクトをピザで伝えるべく、いちごを大胆に使った桜色のスイーツピザを開発。
蒜山チーム:「蒜山といえばビザ〜四季〜」
蒜山は、冬は雪がたくさんふることで知られているように、四季によってさまざまな変化がある。蒜山の四季の変化を4つの味で表現したピザを開発。
*授賞式・懇親会
優勝は「落合チーム」。授賞式では、ゆーまにわ会長の橋本さんより優勝パネルが授与されました。閉会式では、橋本さんが高校生の参加者に向けて総括の言葉を話した。
このワークで「SDGsについてわかった!という人はなかなかいないと思う。でも、今回このように別の学校の人と一緒のチームで同じ課題に向き合い、楽しくピザ作りができたと思う。それが一番大事なこと。SDGsは難しいことではなく、この地球で楽しく生きていくための指標だと思う。まずは、今日みんなで楽しく一つのことに取り組めたという感覚を大切にしてもらえたら嬉しいです」と語った。