17歳で溶接工見習いとして社会に出た青年は、40年後に従業員136人、売上19億1000万円の人材教育コンサルタント会社の社長となった。アチーブメントの創設者青木仁志代表だ。資本金500万円からスタートした同社は、1億円以上の負債を抱えるなど数々の苦境を乗り越えてきた。過去を振り返ってもらい、青木代表にとって働くとは何か話しを聞いた。(聞き手・オルタナS副編集長=池田真隆)

アチーブメントの青木代表。経営哲学から、これまでの苦節などを聞いた

――入社して3年以内に辞める若者が増えています。やりがいを見出せずに、自信を持てないことが背景にあると言われています。青木代表は、2009年に著書『一生折れない自信のつくり方』(アチーブメント出版)を出版されています。若者が自信を持てなくなった背景には何があるとお考えでしょうか。

青木:自信が育つ方法は一つです。代償を払って何かにチャンレンジし、うまく成し遂げることです。この体験の中からしか、自信は育たちません。

自信を持てなくなった背景には、チャレンジをしなくても生きていける社会になってしまったこともあるのではないでしょうか。教育もゆとり教育が導入され、ワークライフバランスが求められています。

高度成長期を支えた猛烈な働き方が受け入れられなくなり、「自分らしさ」を求めるようになりました。今まで、誰も疑問を持たなかったことに対して向き合い、自分なりの生き方を模索しているのではないしょうか。

――人の価値観が変わったことで、企業も変わりました。

青木:企業が変化した点でマイナスな面ですと、まともな経営者が減ってきていると感じています。価値観の多様化が進んでいますが、本来経営は、社会のため、国家のために、価値を提供していかないといけないものです。儲けるためにするものではありません。

――労働問題や所得格差などの社会的課題が噴出し、社会では「儲けた者勝ち」という価値観は受け入れられなくなっています。しかし、実際は、その考えを持った経営者が出ています。どうしてでしょうか。

青木:「夢」というキーワードが「志」よりも上回っている社会だからではないでしょうか。あらゆる不幸の源にあるのは、不満足な人間関係の中にある葛藤です。これは、間違った外的コントロールをもとにして生きているから生まれてくるのです。

これらが原因で、相手の立場に立ってものを考えないことや、組織に属していることへの感謝が欠如していることなど、自己中心的な価値観を持った者が生まれてしまうのです。自己中心であるため、何かに代償を払うことをせずに自分の価値観のみで行動するようになります。


――価値観が多様化した社会では「良い」という基準もさまざまです。「良い会社」「良い学校」「良い人」を目指すためには、肝心の「良い」が明確になっていないといけません。「日本でいちばん大切にしたい会社大賞」の審査員も務めた青木代表は「良い会社」をどう定義していますか。

青木:良い会社とは、若いときに鍛えてくれる会社であり、成長させてくれる会社です。もし、良い会社がどうか見極めることに迷ったら、「成長」を軸に考えたらよいでしょう。良い上司に出会うことが、10年後、20年後の未来に良い影響を与えます。

ところが、目先のことを考えていると、厳しい上司に対しては、不満を言ってすぐに辞めてしまいます。怒られたら、グッとこらえて、この厳しさは、どこから来ているのかを推し量ることをしてみてはいかがでしょうか。

しかし、最近では上司も信念がなく、愛想の良い人と思われたいから、フィードバックも十分にできない者も見受けられるようになりました。私は、間違ったことを叱るのは愛だと思っています。

――御社では、22年間をかけて300000人以上へ研修講座をし、指導者教育に力を入れております。

青木:なぜ、弊社が指導者教育をしているのか説明します。私たちは、人は環境から影響を受けるという考え方を持っています。なので、子どもにとっての環境は家庭であり親です。そして、親の環境は職場です。だからこそ、元をたどると、職場の指導者への教育をしなければいけないと考えています。

――環境には左右されずに育つ者もいるかと思いますが。

青木:もちろん、環境に左右されずに成長し続ける者もいます。それは、息子とのやり取りで感じました。ある日、息子が友達と遊びに出かける際、「時計は持ったか」と聞くと、「アイフォンがあるから大丈夫」と返されました。

確かにアイフォンでも時間は見れるが、時計をするのはマナーだと思ったので、しつこく時計を持ちなさいと言いました。しかし、息子からとどめの一言を言われました。

「パパ、時計の機能は一つだけでしょ。ダサいね」

これには、ショックを受けましたが、的を得た意見に、腑にも落ちました。58歳になりますが、違いを認めるセンスを大切にしています。環境に左右されずに育つ若者がいるからといって、指導者が自分とは価値観が異なるから、間違っていると見てはいけません。いかにして、若者の良いところを伸ばせるのかに着目すべきです。

SNSが発達し、時代が急速に変わってきています。消費者が選ぶ時代になり、消費者の視点で仕事をしないと勝てない時代です。B to BでもB to Cでもなく、B to F(ファン)の視点を持ち、顧客を味方につける経営が一番強いです。

――世代間の違いを認められる人と、認められない人の違いは何だとお考えでしょうか。

青木:思考の柔軟さが持てるかどうかでしょう。突破体験のないキャリアなどをよりどころにしている上司などが典型例です。人は変えられるという思い込みを捨てることです。人を変えようとするのは、エゴイズムです。

自分が正しい、相手は間違っている、だから相手を変えなくてはいけないという考えを前提に持ったコミュニケーションでは、若者に反発されるだけです。自信がある真のリーダーは、えらぶる必要がないのです。

――20代の時期に経験した挫折で、今に生きていることはありますか。

青木:チャンレンジをすればおのずと苦境に立たされます。私のキャリアは履歴書のないところからスタートしています。17歳で溶接工見習いとして社会に出ました。

気にしてはいませんでしたが、偏見もありました。そのため、結果を出すことでしか存在を主張できなかったのです。だから、より結果を出すことにはこだわり続けてきました。

新しいことにチャンレンジするときは未知の遭遇です。そのときこそ、人の話をじっくり聞いて、その人の経験をも自分の経験に役立てる生き方をして乗り越えてきました。

子どものとき、新聞少年でしたので、10円でパンの耳をもらって食いつないだこともあります。しかし、若いときの苦行は進んで受け入れるべきものです。振り返れば全部感謝できているからです。今、壁にぶつかって悩んでいる若者には、逃げ出さないで、耐えてほしい。周りにいる大人たちは、「キミならできる」と応援してあげてほしいです。一言だけでも大きな支えになります。

――青木代表にとって仕事を続けるやりがいはどこにあるのでしょうか。

青木:働きがいは、全責任を取れることにあります。自由の代価は責任で、責任の代価こそが、やりがいだと思います。これに加えて、仲間を裏切ることはできないという思いが強いです。私の人生は恩返しと決めています。家族をはじめ、社員など、私にかかわる全ての人に恩返しして生きていきたいです。

弊社の企業文化を3文字で表すとすれば、「優しさ」「誠実さ」「仲間思い」です。この文化が若者に受け入れられているので、300人以下の企業で学生から日本一の就職人気企業として選ばれるのです。

人はお金だけで動く存在ではありません。心があるから、存在を認めてくれる人と働きたいと思うのです。認めることに、会社の規模は関係ありません。

世の中に選択理論心理学を広めて、不満足な人間関係を解消し、いじめと差別をなくしたいです。そして、本当の意味でのリーダーを育てていく会社を目指します。これを目指して、仲間たちと一緒に働き続けたいです。


青木仁志(あおき・さとし)
1955年3月、北海道生まれ。10代からプロセールスの世界に入り、32歳でアチーブメント株式会社を設立、代表取締役社長に就任。公開講座『頂点への道』スタンダードコースは講座開講以来22年間で565回開催、また研修講師として会社設立以来延べ300,947名を担当。2009年に発刊した書籍『一生折れない自信のつくり方』が15万部を達成し、就活生から社会人まで幅広い世代から支持を得ている。


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