世界一周をした後に全国をキャンピングカーで回る『世界一周学校』という活動をしている中村雅人さん。先日、世界一過酷と言われている南極マラソンを制覇しました。南極マラソン※への参加に至った経緯やマラソン中の気持ち、旅に対する思いなどを伺いました。(聞き手=林 大夢・慶応義塾大学)

南極マラソンを走りきった中村さん

*南極マラソンとは?
2年に一回開催されるマラソンで、世界 3 大砂漠マラソン大会(サハラマラソン・ゴビ砂漠マラソン・アタカマ砂漠マラソン)の内二つを制覇していれば出場できる権利がもらえる。一日に10時間×5日間で走るマラソンで、10 時間ずっと走り切れたら完走したことになる、耐久レース。船で周回するマラソンで、日によってコースが異なり、船で次のステージに移動して走る。

<挑戦はすべてのはじまり>

—南極マラソンも含め、過酷な環境の中でのマラソンに挑戦しようと思う人ってなかなかいないですよね。なぜ参加しようと思ったのですか?

大学卒業して3年間働いていたのですが、その仕事を辞めたときに自分が何者なのかわからなくなりました。それまで学校の名前とか、会社の名前で自分を説明できたけど、仕事を辞めてからは何も言えなくて。自分がどういう人なのかを説明できないってなったときに、自分で自分の価値を作らなきゃいけないんだなって思いました。

そうしたら、世界を出たときになんでもチャレンジしていきたい、自信をつけて自分を表現できるようになりたいって思うようになりました。チャレンジも色んな分野でしたくて、体力面では「世界一過酷」って出てきたからサハラマラソンに出ようと思って。他にも、精神面で言えばインドでヴィバッサナー瞑想もしました。色んな分野でどんどんチャレンジして自分の世界を広げていきたい。その中で、本当に大好きなものを選んでいきたいと思っています。

10時間×5日間という過酷な日程で走る南極マラソン

—世界一周したきっかけも、自分の価値を自分で見つけたいという思いからでしょうか?

そうですね。会社に勤めて昇進して良い給料もらって、結婚して子ども生まれて老後を過ごすって、自分じゃなくてもいいんじゃないかなって思ったんです。なんか、生きてるのも死ぬのも変わらないんじゃないかなって。その時に生きる意味について深く考え始めました。図書館に行って調べたりとか、生きる意味が分からないから次は死ぬ意味を考えようとか。

でも自分の中でしっくりくる「答え」みたいなのが見つからなかった。結局、自分がやりたいことをやるしかないと思って、やりたいことを紙に書きだしました。海外行きたいとか、綺麗な海がみたいとか、世界中に友達を作りたいとか。それで、大学3年の時にフィジーっていう国に留学を決めました。あんまりメジャーではないんですけど、自分にとって旅は未知の世界に行くことだと思っているので、フィジーってどんなところで、どんな人たちがいるんだろうっていう、その未知の世界を旅することにワクワクしてました。

フィジーには『ケレケレ』っていう言葉があって、「お前のものは俺のもの、お前のものも俺のもの」っていうジャイアンみたいな言葉なんだけど、ホームステイをしていたら、自分のものがなくなって子どもが着てるとか、バーとかでお酒を飲んでるときに隣に人が来て自分のお酒を飲んでるみたいなことが多々あったんですよね。

でも全然怒ったりしない。すごく面白かったのが、友達のフィジー人と一緒にバスに乗った時、見知らぬ人がお金ないですって言ってきたんですけど、そしたら友達のフィジー人が払ってあげた。え、なんで払ったの?って聞いたら、「自分がお金持ってるから」って。フィジー人自体もその人も、全然お金持ちじゃない。「お金なくなったらどうするの」って聞いたら、「そしたら誰かが払ってくれるから大丈夫」って言って。それって本当にすごいなって思いました。日本でも、こういうことって家族ならありえると思うけど、相手が知らない人だったらなかなか難しかったりする。

そう考えると、フィジーは国全体が家族なんじゃないかな。日本は発展してきた分、削ぎ落としてきた愛情とかがあったりすると思います。マンションの隣の人を知らないとか。そういうの、フィジーではありえない。何かが起こった時に見知らぬ人同士でも助け合える。そうやって、発展してないフィジーが羨ましく思えました。そこから、幸せってなんなんだろうってすごく考えるようになった。自分がこれから生きてく上でどうやったら幸せになれるんだろうっていうのを、世界を見ることで見つけて行きたいです。

人に会ったり、世界を見たり、色んなことにチャレンジして本当に輝いていける人生を送りたいなと思って変えられていったのが、21歳の時かな。

<きっかけとなる旅>

〜イラン

一年くらい旅した時にイランに行きました。もともと行く予定ではなかったんだけど、せっかくだし行ってみようと思って勇気出してイランに入りました。そしたら、人がめちゃくちゃ優しい。「今日昼飯食べたのか」って言われて、食べてなかったら作ってくれたりとか、「泊まるところあるのか、なかったら泊まってけ」とか。みんなすごく優しくて、よく笑う。僕の想像してたイランじゃなかったです。ニュースとか本とか、色んなメディアから自分がイメージしてたものとは全然違くて、その時にやっぱり自分が見た世界を伝えていきたいと思いました。

僕自身も実際に行ってみて、この景色よりもあの景色の方が良かったとか、こっち行ってもつまんないなとか思ったりすることもある。そんな時に、旅って自分で作っていくものなんじゃないかなと思いました。例えば、世界で何が一番美味しいんですかってよく聞かれるんだけど、それはもちろんサハラマラソンの250キロ走った後のコーラでしょって答えます。どんな景色を見ていてもそれ以上の感動ってない。感動は自分で作り出すしかないんだなと思いました。

〜キルギス

キルギスっていう国に行って、そこでロバが買えるっていうんで、ロバと旅することにしました。すごく安い値段で買ったんだけど岩のよう動かなくて、しかも逃げられちゃった。そしたら村のおばちゃんが助けてくれて、十日ぐらいその家に住むんだよね。今日からここの長男だとか言われて(笑)そういうことをしてた時に、「あ、これが旅なんだな」って思いました。やりたいことに挑戦して、作りたいものを作って、そこに飛び出してくっていうことが旅だって。

それで、自分が本当にやりたいことにチャレンジする旅ってどこにいてもできるなって思ったの。よく世界一周って人生の夏休みだっていう人がいるんだけど、じゃあ夏休み終わったらイコールつまんないってこと?それってすごくもったいない。楽しみを自分で作り出せるようになったら、それこそすごく楽しいなって思います。そこが結構僕の中でのターニングポイントで、人生を楽しめるようになったきっかけであり、安心できるようになったきっかけであり、幸せになれるきっかけです。

〜フィンランド

サンタクロースに会うために、フィンランドに行きました。中学生の頃、サンタクロースになりたかったんです。サンタクロースになれたら幸せそうじゃない?人を幸せにできるし、みんなサンタクロース好きだし。世界一周中にそれを思い出して、実際にフィンランド行って、サンタクロース村に行ってサンタさんに会って話をしました。いくつか質問して、最後に、サンタさんみたいに人を幸せにしたいんですけど、どうやったらできますか?って質問したら、「子どもと関わりなさい。子どもが未来に希望を持てるような世界を作れば幸せになれるよ」って。

その時に、じゃあ自分にできることって何だろうって考え始めて、世界一周学校っていうブログを始めました。「(名前が)まさとだから『マサンタ』になって、みんなに手紙を送ります」って書いたら、140人くらいからメッセージが来て、全員に手紙を出しました。それと同時に質問を受け付けていたんだけど、旅のことを聞かれると思っていたら7割以上の人から『どうやったら幸せになれるんですか』『どうやったらそんなに笑えるんですか』『どうやったら好きなことにチャレンジできるんですか』と聞かれました。その時に、みんな旅よりも自分が幸せになれる方法を見つけたいんだなってことに気がついて、この世界一周学校をそのまま続けたいな、色んな人が自分の好きなことにチャレンジできるきっかけとか、コミュニティを作りたいなって思い始めました。

<世界一周学校始動>

世界一周中に気づいたのは、自分がわくわくすることで誰かの幸せになるっていうそこの最大点を常に作っていけたら幸せになれるのかなっていうこと。その自分のわくわくする
ことと言ったらキャンピングカーで日本全国回りながら授業をすることで、それをみんなが喜んでくれるならやり続けたいなと思って、まずキャンピングカー買って始めました。

クラウドファンディングでお金集めたんですけど、すごく緊張しました。でも実際にやってみたら 3日か4日で集まって、やっぱり自分がやってきたことが誰かの喜びになってたことが分かったし、これからもみんなで一緒にやっていきたいなってもっと思ったし、そこで結構お金に対しての不安とかもなくなりました。あとはその人の役に立っていることが分かった瞬間に、このままずっとやっていけるんじゃないかなって本当に思いましたね。今は一緒にチャレンジしていく人を増やしたりとか、横のつながりをどんどん増やしていきながら、楽しい世界を作っていきたいなと思いながら活動しています。よくこういうことをしてると、いつも何してるんですかて言われるんだよね。

仕事なんですかとか(笑)実際に講演とか、海外に人を連れて行ったりとかもしてるんだけど、僕にとっての仕事って、人のエネルギーづくりだと思っています。その人が何かをやりたいっていう気持ちとかチャレンジする場所とかそういうのを作ることができて、その人が自分にエネルギーを灯すことができた瞬間に、僕は必要なくなる。その人自身にエンジンがついているから、好きなことにチャレンジできる。だから、何をしたいか分からない、好きなことに一歩踏み出せないっていう人たちのエネルギーを作り出せるきっかけに、自分がなれたらいいなと思いますね。そういう活動が自分の仕事かな。

—授業の内容はどんな感じですか?

僕の学校のテーマって、「生き方を知る」っていうテーマなんです。数学で公式を覚えるっていうよりも、農家の人を呼んで、なんで農家をしてるのかとか、蜂蜜ってどうやって作ってるのかとか、そういうストーリーを知るのが一番いいなと思っているから、それをどんどん伝えていきたいですね。

僕一人でやるときは結構旅の話とかが多いけど、何かを専門としている人とやるときは基本的には(その人の)生き方。政治家、歌手、美容師、農家の人の話って、学校の授業では聞くことができないですよね。だからそういうのを実際に知ることって楽しいだろうなと思ってやっています。

—学校とかに講演で行ったとき、子どもたちってどういう反応なのでしょうか?講演後に考え方が変わっているとか、まさとさんから見てあるんですか?

あると思う。全員がどうなっているかっていうのはもちろん分からないけど、講演した瞬間に、それを聴いた人に変わってほしいとはあんまり思ってないです。米沢で講演することが多いのですが、地域の人と仲良くなって通うようになってから、先生とも仲良くなって、その先生が僕のことを子どもたちに日常的に伝えてくれたりするようになったということもあります。

そういった形ってすごくいいなって思います。自分もできるかもしれないという自信を持たせてあげたり、彼らの世界を広げられると思っているから、僕はできるだけみんなの身近な存在であり、こんな夢をかなえているんだっていう憧れの存在の両方でありたいです。日常のどこかのタイミングで、誰かの勇気になってくれたらいいなと思います。

<これから>

—これからのまさとさんのやりたいことや夢を教えてください。

自分の中では3つの軸が必要だなと思っています。一つは冒険する軸。南極マラソンとか、今やっているキックボクシングとか、自分が本当に好きなことに挑戦するという軸です。二つ目は、貢献する軸、誰かの役にたつことをする軸です。これは世界一周学校ですね。三つ目は、自分が安心する軸。お金の受け皿になるようなものを作ったりすることです。

この三つの軸でそれぞれ挑戦していきたいと思っています。その中で今、日本や世界中の五円玉を100万枚集めて、世界で一番ピースな地図を作りたいと思っています。それを来年の国際平和デーに作って、世界は一つっていうことを伝えたい。そこでギネスにも申請したいと思っています。さらに東京オリンピックの時にも、日本中・世界中の五円を使って五輪を作ってメッセージを伝えたいです。

そして、(自分に)色んな繋がりや友達がすごく増えて来ているから、そういう人たちが集まれる場所を作りたいと思っています。待ち合わせ場所というか、ここに来たら面白い人がたくさんいる、夢を持ってる人がいる、そういう人たちと繋がれる場所を来年作りたいです。

—ありがとうございました。

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