「新型コロナからの経済復興に外国籍人材は欠かせない。だが、いまのままの日本のインフラ、人々のマインドで外国籍の方が一気に増えたら分断が加速する恐れもある」――こう指摘するのは、「世界から国境をなくす」をミッションに掲げる若手起業家の岡村アルベルトさん(28)だ。コロナ後の社会で共生社会を実現するには何が必要なのか。自身もビザに関する問題で苦しんだ経験を持つ岡村さんに日本の課題と解決策を聞いた。(聞き手・オルタナS編集長=池田 真隆)

外国籍向けの生活定着支援サービスを行うone visaを立ち上げた岡村さん(写真中央)今は分断の境目

国内の産業を維持するという意味でも、コロナ禍からの復興に外国籍人材の労働力は不可欠だ。経済が回復していくにつれて、外国籍人材の数も増えていくだろう。しかし、日本人と外国人の「共生」という視点で見たときに、いまの日本社会に外国籍人材が増えていくことに危機感を覚える。個人的には、共生社会になるか、完全に分断するかの分岐点にいると思っている。

分断を加速させているのは、SNSによる誹謗中傷だ。一部の人の意見が、メディアに取り上げられることで、まるで多くの人の声として報道される。そうなることで、世間は外国籍人材へ偏ったイメージを持つようになる。

「税金を払っていない」「治安を悪化させている」などと決めつけることで、コロナ禍などの有事に「外国籍を持つ人を支援する必要はあるのか」などという声が出てしまう。

イメージ先行で起きる分断をどう防ぐか、コロナ後の復興に欠かせないテーマである。その一つが、ファクトベースでの議論だ。

訪日外国人数は3倍に、検挙数は3分の1に

「犯罪率が上がった」――これはSNSでよく見かける投稿である。しかし、警察庁が公表している調査では、来日外国人の検挙件数は2005年の4万7865件が最多で、年々減っていき、2015年には1万4267件と3分の1まで減った。

一方、訪日外国人数は2005年の673万人から2015年には3倍増の1973万人まで増えている。このことから、外国人が増えると治安が悪くなるという情報が明確に間違っていることが分かる。

さらに、税金の支払いの有無についても誤解されやすい。正規の外国籍人材は日本人と同様に税金を支払っている。そのため、健康保険を利用して医療機関にかかることに問題はないのだ。

これらのファクトベースの情報を、「#日本から国境をなくすプロジェクト」では積極的に発信していくことを考えている。さらに、「医療費のタダ乗り」や「失踪問題」、「法外な低賃金」など、外国人との共生社会を実現する上で大切なトピックも取り上げていく予定だ。問題が起きる背景や解決策を提示していきたい。

日本人とペルー人のハーフで生まれた私は6歳のときに、ペルーから日本に来た。大阪や神戸で育ち、大学卒業後に入国管理局で働いた。幼少期に強制送還された友人を目の当たりにしていたので、ビザに関して問題意識を持っていた。

現場責任者まで務めたが、1年後には辞めた。自営業の両親のもとで育ったこともあり、子どもの頃から起業家になることを決めていた。入国管理局で働きながら、起業セミナーなどに通い、独学で知識を付けた。

辞めて半年後には、外国籍向けの生活定着支援サービスを行うone visaを創業した。ミッションは「世界から国境をなくす」だ。ビザ取得だけでなく、日本に入国した後の住居探しや銀行口座開設、クレジットカードの発行など、ビザ情報を基点とした信用構築、生活インフラも支援している。

[caption id="attachment_81428" align="aligncenter" width="425"] 「世界から国境をなくす」ため様々なサービスを展開する

100万円自己負担など「逃げ場」なし技能実習制度

外国籍人材との共生社会をつくるためには、「特定技能」がカギだ。特定技能とは、2019年に施行された新しい在留資格である。技能実習制度とは違い、来日する外国籍人材の経済的負担はない。技能実習制度では、実習生は来日にあたって、研修費・渡航費として仲介業者に35~100万円も支払わなければならなかった。

さらに、同一業界内では、「転職」が可能な点も魅力的だ。技能実習では原則転職は認めていない。職場でいじめに遭っていたり、法外な低賃金で働かされていたりしても、転職できなかった。特定技能で、転職を認めたことで、日本人同様、職場で不当な扱いを受けている人は「別の選択肢」をえらべるようになった。

「外国籍人材が日本人の雇用を奪う」という意見もあるが、日本人の雇用への影響は非常に限定的だと考えている。なぜなら、特定技能で受け入れが検討されているのは、「日本人からの就職希望が少ない業種、深刻な人手不足の業種」に限定しているからだ。業界外への転職はできないこともあり、日本人の雇用への影響が大きくないのは明らかだろう。

だが、特定技能にも課題はある。特定技能で採用する場合、100枚程度の書類や定期的な面談が必要だ。これらの管理に二の足を踏む会社は少なくない。特定技能が成功しないと日本の移民政策の成功はないと思っているので、いま、この管理を代行するサービスを考えている。(談)


岡村アルベルト:
one visa代表取締役社長
1991年、ペルーで生まれる。6歳で母、妹と父親の住む日本に移住し、大阪で育つ。大学卒業後に入管の窓口業務を請け負う企業に就職。2015年、ビザの手続きを簡単にするために起業

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