児童虐待やシングルマザー問題などをテーマに社会派なメッセージをラップとして発信するKダブシャイン(ケーダブシャイン)氏。311をきっかけに脱原発活動にも参加するようになる。自分の意見を自主規制することなく伝え続け「世の中に一石を投じたい」と話すKダブシャイン氏に、今の時代をどう感じているのか聞いた。(聞き手・オルタナS副編集長=池田真隆)
■311から日本の民主主義は成り立っていない
——Kダブシャインさんは音楽家として、はっきりと脱原発と叫んでいます。著名人はためらう人が多い中、恐怖心はなかったのですか。
Kダブ:もともと芸能界や音楽業界とは、相性よくなかったので、嫌われることは恐れてない。むしろ、一石を投じたいって想いの方が強かった。
——3.11がきっかけで脱原発活動などにも積極的に参加されるようになりました。大飯再稼働反対デモなど多くの市民が集まっています。Kダブさんはデモに参加する意義をどう感じていますか。
Kダブ:デモに参加することは、自分が関心を持っているということを示す意思表示だと思います。この国のデモクラシーを守りたいという気持ちを表す第一歩としてもいいのではないかと思います。
デモは、デモンストレーションという意味。他にも、プロテスト、ボイコット、ストライキなど、民主主義で適用できる手段をもっと行使していくべきだと思う。311以前から日本の民主主義は成り立っていないと思っていて、311でそれが露呈された。
ただ、デモだけで変わるとも思っていない。平和的なデモは大切だけど、生温い気もする。学生運動の頃みたいに、警察や機動隊がジェラルミンの盾を用意し出したら、やっと伝わっている証拠なのではないかと思う。
——確かに、警察の対応の変化がバロメーターのようなものかもしれませんね。311以降から日本の民主主義のあり方やマスコミ不信など様々な問題が噴出しましたね。
Kダブ:メディア不信は前から感じていた。だから、311でそれほど大きな変化はないけど、改めて確信した。原発は国策なのに、デモ抗議の模様は最初マスメディアではまったく報道されなかった。メルトダウンの件も同じ。
マスメディアのジャーナリズムが機能していないことに怒りを感じている。報道の果たすべき役割を捨てて、完全に政府公報として機能している。プロパガンダだよ。これはあるまじき行為だと思う。
最近の首相官邸前の再稼働反対デモを「報道ステーション」等が取り上げたが、それは当たり前のこと。当たり前の報道をして、誉めるまでに堕ちてしまったのではないかと感じている。
——多くの人はマスメディアの情報が加工されていると疑うようになりました。そんな状況の中、Kダブさんは信頼できる情報をどのようにして得ていますか。
Kダブ:信頼できる情報を得るためには、自分と反対意見も総合して、常により正しい、より新しい真実を探し求めないといけないと思う。昨日の真実は今日の真実ではなくなっている時代だからね。
若ければ若いほど時間があるし、まだ固定観念に縛られていない。だから、心が純粋な人たちの意見をたくさん聞いて自分の中で信念を持ってほしい。反原発の人は、推進派よりも心が純粋であると信じている。
■優しくしていたいなら、強くならないとね。
——現在日本は、消費税増税問題、原発再稼働問題など激動の時代を迎えています。今の時代に若者に期待することは何でしょうか。
Kダブ:正直、おれらより上の世代には期待していない。だから、おれたち40代が最後の砦だと思って動いている。
おれらも十分にバブルの恩恵を受けているから、同世代で動き出す人も少ない。
でも、唯一おれらが貧しかった頃と豊かな頃の両方を知っているから、教えられることがあると思う。
今はフェイスブックなどで拡散することを当たり前のように捉えている若者が多い。その感覚は上の世代よりも深く浸透している。これは若者の強みだと思う。
若者だけに限らないけど日本人は根本的に優しい。でも、もう少し強くならないと優しくもしていられなくなってしまう。優しくしていたいなら、強くならないとね。
——Kダブさんの怒りの感情の裏には、愛国心があるように感じます。
Kダブ:日本が好きだよ。文化も、国柄も歴史も美しく世界に誇れるものを持っている。だから、古来から大切にしてきたそれらをないがしろにする近代社会は気に入らない。天につばを吐くようなものだ。
技術力、文学センス、美的センスどれをとっても日本人は素晴らしい。近代化したスピードも早く、真似できる国はないと思う。それだけのことができる国民性や文化性があるのに、今のていたらくは何だ!と思っている。おそらく、この感情が原動力なのかもしれない。
古来からの自己認識を大切にして生きていかないと、日本人が日本人ではなくなってしまう。それは寂しいことだ。
Kダブシャイン(ケーダブシャイン):
東京都渋谷区出身のMC。「児童虐待」・「シングルマザー」・「麻薬」・「国家」・「AIDS」など様々な社会的トピックを扱う数少ないMCとして知られている。1997年には法務省主催の「社会を明るくする運動~HIP HOPを見て聴いて若者を語る~」にDJ MASTERKEY・DJ KENSEIらと参加。HIPHOPをほとんど聞かないような参加層の前でrapを披露し、HIPHOPと社会との関係性を語り、若者と社会(大人)、双方の歩み寄りを訴えることに成功。更に2001年には所属グループ、キングギドラの一員としてかねてからの念願だった少年院慰問ライブを行うなど音楽以外の活動も精力的に行っている。2001年には、「児童虐待」をテーマにした楽曲「SAVE THE CHILDREN」を発表、2002年には民放唯一のhiphop専門番組であるTX「流派ーR」と連動し、そのコンセプトを共鳴するアーティストらと共に更に推し進めたコンピレーションアルバム「Change the Game」を発表し、hiphopシーンのみならず様々な方面から反響を得る事に成功する。ちなみにこのアルバムの売上金の一部は、全国10箇所の児童養護施設に寄付され、パソコン、洗濯機、エアコン等の生活必需品を各施設により購入してもらう為の費用に充てられた。