社会の不合理の解消を目指すチョコレート店がある。京都市に本店を持つ「Dari K(ダリケー)」だ。カカオ豆の生産者が置かれている「努力しても報われない」不合理な状況を問題視して、サプライチェーンの改革に取り組む。(オルタナS編集長=池田 真隆)

京都市内にある本店、カカオの魅力が伝わるように工夫された商品や内装

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” open=”no” style=”default” icon=”plus” anchor=”” class=””]1994年から毎年開かれている世界最大のチョコレートの見本市「サロン・デュ・ショコラ」。世界中から名だたるチョコレートブランドが集結するが、その品評会で2015年から4年連続ブロンズ賞を受賞しているのが、Dari Kだ。

2011年に生まれたDari Kは創業してまだ10年経たないが、世界から優れた評価を受ける秘密は、チョコレートの独自製法にある。

一般的な洋菓子店ではクーベルチュールと呼ばれる、カカオ豆を挽いてできたカカオマスにカカオバターや植物油脂、砂糖を加えた製菓用の原料チョコレートを加工して製品に仕上げる。クーベルチュールは加工しやすいものの、カカオが本来持っているワイルドな酸味やナッツとしての香ばしさなどの味わいが、油脂や甘味料によって弱まってしまいがちだ。

サプライチェーンを一気通貫にしたことで、カカオ豆のトレーサビリティを管理した

一方、Dari Kはサプライチェーンの一貫体制を構築。カカオ豆の栽培から発酵、焙煎、そして、クーペルチュールにして製品にするまでの工程をすべて自社で行う。収穫ごとやカカオの木ごとにカカオの豆は異なるので、それぞれに合った温度と時間で焙煎でき、「油脂を入れない」という選択肢を取ることもできる。自由に調合できるようになったことで、カカオの風味を生かした製品に仕上げた。

カカオ豆600キロの自腹購入が開業のきっかけ

Dari Kを起業した吉野慶一社長は、パティシエでもなければ、菓子メーカー出身でもない。前職は大手証券会社に勤める金融アナリストだ。

Dari Kを創業した吉野社長

韓国に旅行したときに、インドネシアがガーナよりカカオ豆を生産していることを知り、なぜ日本はインドネシアから輸入していないのか疑問を持った。国別のカカオ豆の輸入量はガーナが8割で、インドネシアはわずか0.3%だった(2013年当時)。

調べていくと、日本に輸入されていない原因が「発酵」にあると分かった。「カカオ豆は発酵させることで、チョコレートにしたときに香りが格段に良くなる。発酵させていないと低品質のカカオ豆とみなされて日本に輸入されない」(吉野社長)。

発酵に原因があると分かった吉野社長は、同時に、ある不合理な問題も知る。それは、発酵の有無にかかわらずカカオ豆の買い取り価格は変わらないということだ。こうしたことが原因で、生産者は発酵技術を知らず、学ぶ意欲もなかったという。

当時は証券会社のアナリストだった吉野社長にとって、生産者の彼らに発酵の技術を教える義理も義務もなかったが、一度知ってしまったことで、性格柄、定期的に生産者のもとへ顔を出した。

インドネシアに行くたび独学で発酵について学んだ知見を生産者に伝えていった。吉野社長の熱心な指導もあり、ついに発酵したカカオ豆ができあがる。だが、ここで問題が起きる。買い手がいなかったのだ。

吉野社長はアドバイスのつもりで接していたが、生産者たちは発酵について詳しい吉野社長をすっかりバイヤーだと思い込んでいた。帰ろうとする吉野社長に向かって、「発酵が重要とあれだけ言っていたのに、なぜ買っていかないのか」と怒りをぶちまけた。

押しに負けた吉野社長はその場で600キロものカカオ豆を自腹で購入、帰国すると自宅の3分の2はカカオ豆の麻袋で埋め尽くされたという。こうして、何とかしてカカオ豆を処理できないか考えた結果、チョコレート屋を開業することに決めた。これが、Dari Kの創業秘話である。

京都市にある本店外観、Dari Kの由来は、インドネシア語のDari(~から)という意味と、カカオ豆の生産地であるインドネシア・スラウェシ島がアルファベットのKの形に似ていたから

努力と報酬のリンクへ

Dari Kを設立するにあたって定めたことがある。それは、不合理の解消だ。吉野社長は、「がんばった人がしっかり報われる仕組みに直したい」と述べる。

カカオ豆に関しては、「努力と報酬がリンクしない。これが大きな問題」と強調する。「どんなにいい品質のカカオ豆をつくっても、ロンドンやニューヨークの相場で決められてしまう。インドネシアで発酵技術が知れ渡っていない背景にも、がんばる人が馬鹿を見る構造があった」。

そこで、吉野社長が取り組んだのが、「生産者自らが勝ち取るフェアトレード」。一般的にフェアトレードは途上国の立場の弱い生産者や労働者が作る農作物や製品を公正な価格で購入して、所得向上を図ることが目的だ。だが、吉野社長はこう言い切る。

「全てのフェアトレードの取り組みが万能なわけではありません。フェアトレードのカカオ豆の価格は通常のカカオ豆より高く、これが生産者(カカオ農家)へすべて還元されるとすれば、彼らに対する寄付の役割を果たすでしょう。生産者が受け取る金額は増えましたが、消費者は多く払ったにもかかわらず受け取ったカカオ豆の質そのものに変わりはありません」

Dari Kが取り組むフェアトレード、高品質なカカオ豆を正当な価格で買い取る

そこで、Dari Kでは、フェアトレードとしてカカオ豆を通常のカカオ豆の価格よりも無条件で高く買い取ると約束するのではなく、高品質なカカオ豆を生産したらフェアトレード価格で買い取ります、と条件付で生産者に提案した。

農業と森づくりを同時に行う生産方法を推奨

ただ、「高品質なカカオ豆」と言葉で伝えても、チョコレートを食べたことがない生産者にとって、そもそも高品質なカカオ豆とはどのようなものか理解することが難しかった。

そこで、栽培や発酵、焙煎などの技術指導を行い、2016年にはインドネシアに現地法人を設立。駐在員を置いて、常に生産者と顔を合わせることで信頼関係を強固なものにしていった。現地生産者に会いに行くツアーも行う。

気候変動対策として、アグロフォレストリ―の導入・普及も行っている。アグロフォレストリ―とは、農業を通して森を再生させていく農作業の生産方法だ。カカオ豆だけでなく、フルーツやナッツの混植を実施することで、気候変動や異常気象により生産量が激減するリスクを多種作物の収入で対応した。

2020年に創業10年目を迎えたが、起業当初は2人だった契約農家も500人に増えた。よく、エシカルでモノは売れるかという議論がある。生産者や環境に配慮したモノづくりを追求するが、Dari Kでは、「聞かれたら答える」というスタンスを取っている。あくまで、エシカルは「押し出さない」方針で経営してきた。

Dari Kの売上高の3割は店舗とECサイト、残り7割は百貨店やホテルへの卸である。コロナ禍で外に出て購入する機会が制限されるため、店舗とECは明確に分ける考えだ。「お店では、ワークショップなど体験を売りにしていきたい。ECでは日常に根差した商品開発を行い、ハレの日ではなく、デイリーに組み込んだ商品の販促を目指したい」と述べる。

Dari K