新型コロナウイルスの感染拡大が長期化しています。外出が減って家にいる時間が増えたことでDV(家庭内暴力)の増加や学校の休校などによる家庭への負担などの問題が指摘されている中、仕事と子育てと大きな負担が一気にのしかかるひとり親家庭では特に深刻です。仕事を切られたり収入が減ったりと苦労を余儀なくされるケースが少なくないといいます。長年にわたりDV被害者のために神戸で活動してきたNPOに話を聞きました。(JAMMIN=山本 めぐみ)

困難を抱えた女性とその子どもの生活をサポート

「傷ついたりんごは より甘くなると聞きました」。「ウィメンズネット・こうべ」が運営するシェルター(緊急避難所)の利用者ノートから

兵庫県神戸市を拠点に活動する認定NPO法人「女性と子ども支援センター ウィメンズネット・こうべ」は、1991年より女性のために活動してきた団体です。30年近くにわたる活動の中で見えてきたのは、今回の新型コロナウイルスの流行などのように予期せぬことが起きた時に、平時でも弱い立場にある女性やその子どもたちがより大きな打撃を受けるという現実だといいます。団体代表の正井禮子(まさい・れいこ)さん(71)に、運営するシェルター(緊急避難所)を案内していただきました。現在は3LDKが2戸あるというシェルターの一室は整理整頓され、本やおもちゃの他、冷蔵庫にはたくさんの食材が入っていました。

「ウィメンズネット・こうべ」代表の正井禮子さん。神戸市内にある女性のためのフリースペース「WACCA」で

「いつ誰が来ても、食べ物に困らないように」と正井さん。フードバンクなどからも提供を受け、食材だけでなく調味料やお米もすべて揃っています。さらにクローゼットには、寄付で集まったという服がサイズごとに収納されていました。

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「何も持たずに逃げてくる方も少なくない。ここにある服は、自由に持って帰ってくださって良いものです」と話してくれました。

クローゼットの中には、女性の洋服だけでなく「ベビー」「幼児用」「中高生」の服も。子どもを連れて本当に何も持たずに出てこられる方がいるのだ、と緊迫感を感じました

「2004年に開設したこのシェルターは、DV被害を受けた女性とその子どもを緊急一時保護する場所です。配偶者からDVを受ける女性の6割が、子どものためや経済的に自立していないことを理由に、暴力に耐えているというデータがあります。また、周囲の女性から『私だったら子どものために耐えるわ』とか『子どもには父親が必要だ』と、やはり『我慢できない女性が悪い』というふうに仕向けてしまう現実もあります」

女性の権利を守るため、30年にわたり
様々な活動を続けてきた

世界経済フォーラムが発表した、各国における男女格差を測る「グローバル・ジェンダー・ギャップ指数2020」の日本の順位はなんと121位。120位はアラブ首長国連邦、122位はクウェート

1994年には女性のエンパワメントを目指して「女たちの家」を立ち上げた正井さん。DVによって行き場を失った女性たちを救いたいと家を開放したところ、次から次へと女性が駆け込んできたといいます。

「最初の頃に支援したのは、15年間助産師として働いてきた女性でした。3人の幼い子どもを連れてね。彼女は夫から『仕事をしているからといって、生意気だ』とDVを受けてきたそうです。『もしあなたが生意気だったとしても、それが殴られて良い理由にはならない。どんな理由であっても、殴られていい人なんて一人もいない』と伝えると、『初めて弁護士に相談する勇気が出た』と彼女はいいました」

「活動を始めた1990年代初めはまだ今のような支援がなく、相談を受けても『福祉事務所へ行ってください』とか『警察へ行ってください』と伝えることしかできなかった。しかし『女たちの家』という居場所が、新たな出発点になると希望を抱いていました。縁あってより広い家を借りることができることになり、リニューアルオープンを目前に控えた1995年1月17日、阪神・淡路大震災が起きたのです」

1995年3月に開催した「女たちで語ろう 阪神大震災」。震災後の困難について話し合った

その後、被災地の女性支援ネットワークを立ち上げ、被災した女性への支援を開始した正井さんたち。物資の配布から始まって「女性のための電話相談」「乳幼児を抱えたお母さんの集い」等、必要な支援を続けてきました。

「被災地での女性支援や電話相談など、必要に応じてさまざまな支援を行ってきました。しかし、相談を受けた女性たちがその後、どうなったのかはわからない。何とか自分たちで密な支援ができないかと2004年にシェルターを開設し、この16年で360組以上の女性とその子どもたちがここを卒業していきました」

困難を抱えた女性とその子どもたちのための居場所
「WACCA(ワッカ)」

木目調を基調とした温かな雰囲気の「WACCA♭(わっかふらっと)」にて、談笑するスタッフの皆さん。地域の方がふらっと気軽に立ち寄れる場所だという

「シェルターを出た後、彼女たちがすぐに自立するのは容易ではありません」と正井さん。2013年には、DVなどの困難を抱える女性とその子どもが孤立しないための居場所として、神戸市内に「WACCA (わっか)」をオープン。相談から講座の開催、資格取得をめざす女性やひとり親家庭の子どもを対象にした学習支援などを実施してきました。さらに2020年6月には、一人親の生活再建を支援する拠点として、同じビル内にふらっと立ち寄れる場所「WACCA♭(わっかふらっと)」をオープン。フードパントリー(食糧支援)を備え、地域の人たちとも関わりを持ちながら、ひらかれた支援を行っています。

「WACCA」を利用するひとり親家庭の子どもたちに、大型絵本の読み聞かせをしているところ

「少し話をした後、『来て良かった』『こんなに笑ったり話をしたりしたのは久しぶり』とおっしゃるお母さんも少なくありません」と話すのは、「WACCA」の茂木美知子(もてき・みちこ)さん(69)。

「関わりを続ける中で、DVによって自分や自信を見失っていた女性たちがふと『以前の私はこうではなかった』と気づく瞬間があります。その時、こちらも驚くぐらいに彼女たちの表情が変わるんですね。『エンパワメント』ってそういうことで、出口が見えない深いトンネルかもしれないけれど、その先にちょっと光が見えた時、『行ってみよう』という気持ちになれる。私たちはその辺をお手伝いできたらと思っています」

DVの忘れられた被害者は子どもたち」。
子ども目線の支援も

「WACCA♭」にて、左から園田さん、茂木さん、小畠さん、木原さん

「『DVの忘れられた被害者は子どもたち』という言葉がある」と正井さん。DVの危機から逃れてきた子どもたちもまた、さまざまな困難を抱えているといいます。WACCAでは、なんと週に3回も無料の学習支援を実施しているとのこと。学習支援事業を担当する小畠麻里(おばた・まり)さん(55)は「不安定な中で不登校になる子も少なくない」と指摘します。

「DVから逃れるために子どもたちもいろんなことが整理されないままに突然家を出て、遠く離れた知らない場所で新しい生活を始めなければならない不安を抱えています。普通の転校であれば『親の都合で引っ越してきました』といえますが、どこから来たのか、なぜ来たのかも一切周囲にいえないような状況やお母さんの浮き沈みに翻弄されて不登校になる子が、実は少なくありません」

学習支援の様子

「『大人の男性がこわい、嫌い』という子どもも少なくありません。ここでたくさんのボランティアさんに会って、『信頼できる大人のロールモデル』にたくさん接してもらうこと。また、お母さんの立場からだけでなく、子どもの立場からも家庭の状況を把握しておくこと。勉強をサポートしながら、未来ある子どもたちのために、居心地の良い場所を作ることができるように支援をしています」

女性がもっと自由に、もっと伸びやかに、
生き生きと輝ける社会の実現に向けて

活動の集大成、「夢のウィメンズハウス」。「屋上で椅子に座り、子どもと遊びながらゆっくりしているのが私です(笑)」(正井さん)

正井さんが、今後の夢を語ってくれました。

「いつか、長年の活動の集大成として孤立しがちな女性や子どもたちの生活の再建を支える『夢のウィメンズハウス』を実現したいと思っています。ここには、シェルターの他に子どもたちへ無料塾や子ども食堂、NPO事務局、放課後デイルームや保育ルームがあって、お母さんたちも安心。そして何よりも、家族で安心して暮らせる居住スペースがあります」

「これまで何度か海外のシェルターにも足を運びました。デンマーク・コペンハーゲンのシェルターはおしゃれで開放的で明るくて、日本のように住所を隠すこともなく、シェルター見学会を開催しては、その入場料を運営資金に当てていました。アメリカ・ニューヨークでは、各地区にあるシェルターのファンドレイザーの方が集まって『今回はこれでお金を集めよう、このキャッチコピーで行こう!』と生き生きと前向きに話し合っていました」

視察に訪れたデンマークのシェルタ―。「シェルターは公設民営で、お部屋の美しさにうっとりしました」(正井さん)

「日本はどうでしょうか。まだ『被害を受ける側に問題がある』という意識が残っているし、当事者やシェルター運営者が、胸を張って意見や情報を発信できる社会ではないと思います。国の施策が充実していなければ、災害などの非常時、弱い立場にある人がより大きな影響を受けます」

「今回のコロナの流行によって家庭で過ごす時間が増え、DVの問題も大きく取り上げられました。日本でもDVは見過ごすことができない問題になってきており、少しずつですが社会の変化を感じています。女性がもっと自由に、もっと伸びやかに生きられる社会の実現を目指して、今後も活動したいと思います」

困難を抱える女性を支援できるチャリティーキャンペーン

チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は、「ウィメンズネット・こうべ」と1週間限定でキャンペーンを実施し、オリジナルのチャリティーアイテムを販売します。「JAMMIN×ウィメンズネット・こうべ」コラボアイテムを買うごとに700円が団体へとチャリティーされ、DV被害女性と子どものためのシェルターや、居場所「WACCA」の運営、そしてまた彼女たちへの生活支援のために使われます。

「JAMMIN×ウィメンズネット・こうべ」9/14~9/20の1週間限定販売のコラボアイテム(写真はベーシックTシャツ(カラー:キナリ、価格は700円のチャリティー・税込で3500円))。他にパーカー、トートバッグやキッズTシャツなども販売中

JAMMINがデザインしたコラボデザインに描かれているのは、生活を彩るさまざまなアイテム。生きていることを豊かに感じさせてくれるようなアイテムを輪にして描くことで、「ウィメンズネット・こうべ」の温かなつながりと支援を表現しました。

チャリティーアイテムの販売期間は、9月14日~9月20日の1週間。JAMMINホームページから購入できます。JAMMINの特集ページでは、インタビュー全文を掲載中!こちらもあわせてチェックしてみてくださいね。

「つながり」通じ、困難を抱える女性とその子どもを支援、本来の力を取り戻すきっかけに〜NPO法人女性と子ども支援センター ウィメンズネット・こうべ

山本 めぐみ(JAMMIN):JAMMINの企画・ライティングを担当。JAMMINは「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週NPO/NGOとコラボしたオリジナルのデザインTシャツを作って販売し、売り上げの一部をコラボ先団体へとチャリティーしている京都の小さな会社です。2019年11月に創業7年目を迎え、コラボした団体の数は300を超え、チャリティー総額は4,500万円を突破しました!

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