労働人口が年々減少していくなかで、世界で一番はじめに高齢化社会を迎える日本。そんな日本で、「ロボット頼み」という改善策ではなく「人のぬくもり」を無くさない形での介護業界の労働力確保に挑む会社がある。事業で社会課題の解決に取り組むリジョブだ。同社が提案する「介護シェアリング」とは。(オルタナ編集委員・高馬 卓史)

リジョブの介護Div マネージャーの花木敬浩さん(左)と昨年新卒で入社した上妻潤己(こうづま・じゅんき)さん

介護シェアリングで豊かなつながり、孤立防ぐ

「介護シェアリング」は介護施設で働く職員の働き方改革や人材不足の解消につなげるものだ。介護従事者の業務を送迎や入浴介助、清掃などに細分化し、スタッフを雇用することで、働き方を改善する。

介護業界ではシフト制の勤務(早番・日勤・遅番・夜勤)が一般的だ。これにより、サービスは24時間365日途切れなく提供することができるが、一方で一人ひとりの業務が多岐にわたり、複雑化していた。

利用者に合わせた介護を行うため、介護職員には高度な専門性も求められる。需要も非常に伸びており、この業務の「複雑化」と「専門性」は、介護業界が慢性的な人材不足となっている主な原因とされている。

「介護シェアリング」が生まれた背景には、こうした課題があるのだ。従来の時間単位のシフトで分けた働き方ではなく、「送迎」「入浴」「食事の配膳・下膳」「清掃」「リネン交換」「口腔ケア」といった業務の塊ごとに細分化した。

それぞれを専門的に担うスタッフを雇用することで、今まで一人のスタッフが行っていた複雑な業務を、複数の人でシンプルに行う、という勤務形態に変えた。

花木さんはサービスを立ち上げるにあたって、介護施設に通い仮説の検証を繰り返した

複雑だった業務がシンプルになるため、集中して一つのことを覚えることができ、業務を行う上での負担が減る。また、細分化した業務は短時間で実行可能なので、今まで働くことが難しかった専業主婦、定年後のアクティブシニアなども、介護業界で働くことができるようになる。

まさに現在、唱えられている「働き方改革」を介護業界にも導入しようという考えだ。業務を細分化して介護従事者の個々の負担を軽くすることによって、利用者とより密な接し方ができる。

祖母への想いが業界課題・社会課題解決につながる

この介護シェアリングを、介護業界で初めて導入したのが、美容業界の求人事業においてトップクラスシェアのリジョブ(東京・豊島)だ。同社は、社会課題・業界課題を、事業を通じて解決することを目指している。

同社のビジョンは、「人と人との結び目を世界中で増やし、心の豊かさあふれる社会を創る」ことであるが、まさに介護シェアリングは、「人と人との結び目を増やす」試みだ。

介護業界における人手不足を解決し、介護に携わる人々の過重労働を軽減することで、「心の豊かさ」をもたらす取り組みと言えるだろう。

この介護シェアリングの事業を立ち上げたのが、現在、介護Div マネージャーの花木敬浩だ。花木は入社2年目に社長の鈴木一平へ、それまで温めていた介護業界の求人のプランを提案した。このプランを思いついた動機は、花木の祖母にあるという。

「介護施設に入所した祖母は、おむつをはいていました。しかし、おむつでの排尿には抵抗があったようで、トイレに行くために職員を何度呼んでも、なかなか来てくれなかったそうです。それで、ついには膀胱炎になってしまいました。そういう人手不足の施設の環境を何とかしたかったのです」(花木)

若手メンバーで構成される介護事業のチーム

花木の動機自体は非常に個人的なものではあるが、介護業界の人手不足は、業界課題であり社会課題ともなっている。そこで社長の鈴木のゴーサインが出た。そして様々な介護事業者にヒヤリングをして浮かび上がってきたのが、冒頭に述べた「介護シェアリング」の考えだ。

実際に介護シェアリングの求人広告を出したところ、想定外の反響があったという。通常の求人の応募者は30~40歳代がメインだが、男性の応募者の多くが60歳代で約34%。次が50歳代で約19%を占めた。つまり、中高年の雇用を生み出したわけだ。介護シェアリング求人への応募数は前年比1.8倍増(2020年と2019年それぞれの、1~6月の応募数を比較)と、世の中へ着実に浸透している。

「これまで全く介護の仕事に興味がなかった人が、清掃業務だけならば、やってみようと始められる方もいます」(花木)

さらに、介護の仕事を細分化し、業務内容をシンプルにしたことで、別の需要も掘り起こした。まずはシンプルな業務を手始めにしてみて、介護職の「入り口」として、活用するというものだ。

「人材不足を解決するには、働き方の多様性を受け入れることが、これからとても大事になってきます。求職者側のニーズが膨れ上がってくることによって事業者側も『どうやったら働き方の多様性を受容できるか」を考え、実践していかなければいけない状況になってくると思います。ですから、自分たちが率先してこの枠組みやサービス活用の成功事例を提供していくことで、業界を変えていきたいのです」(花木)

対馬で「高齢者の孤立」という社会課題に向き合う

この介護シェアリング・プロジェクトに飛び込んだのが、昨年新卒入社した上妻(こうづま)潤(じゅん)己(き)だ。上妻はリジョブに入社した動機について、大学時代にある離島に行った体験が大きいという。

上妻は大学を1年休学して、長崎県の離島の対馬の市役所で働いた。その時に部屋を借りるにあたって、昔、下宿をしていたというおばあさんの家に住むことになった。おばあさんは当時85歳で、歩行器や杖をつかないとなかなか歩けない状態だったという。

対馬で出会ったおばあさんと上妻さん

そのおばあさんがある日、1リットル程度の水を6千円で買わされたことがあった。「すごく元気になる水だから」と言われたそうだ。上妻が「それって、詐欺では」と訊いたところ、「嘘でも自分の健康を気遣ってくれたり、自分のことを気にかけてくれる気持ちが嬉しかった」とおばあさんに言われて、高齢者、特に独居老人は常に孤立を感じているのだと痛感したという。

「それからは、一緒に料理を作ったり、ドライブに出たりすることで、おばあさんは、杖を突かずに歩けるように元気になりました。人と接するだけで、変われることを目にして、人と人との出会いを通じて可能性を作れるようになりたいと思いました。その中で出会ったのがリジョブであり、介護の求人事業でした」(上妻)

上妻自身が解決したい社会課題は、高齢者の孤立をなくすことだという。対馬での体験がベースではあるが、深刻な社会課題でもある。介護施設で働く人は、常に高齢者と接してはいるものの、過重労働で心のこもった接し方をしていなければ、高齢者の孤立は解消されない。
シェアリングを発展させて、介護者、高齢者双方にとっての心の豊かさを実現していきたいという。

上妻さんは対馬での原体験から独居老人の孤独の問題には強い関心を持つ

その上妻が一緒に働きたい人物は、やはり志を同じくする人、同じ方向を向いている人だという。そうであればこそ、できることも増えていくし、パワーを発揮することもできる。誰かのためになりたい、社会課題や業界課題を解決したいという想いが根本にあれば、大変なことも乗り越えていけるという。

一方、花木は、社会課題を解決したいという人が多くいる中でも、それをどうやって実現させるか、本当にビジネスとして実現できるのか、社会課題解決欲とビジネスとして成功させたいという欲求を両方持っている人と一緒に働くことで、心の豊かさあふれる社会を実現したいという。

次回は、日本の「高齢化社会」到来による課題を海外の方の手も借りて解決していく取り組みも含め、リジョブのCSV事業に挑む新卒入社3年目のメンバーが語ります。(敬称略)

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