3月21日は、国連が定めた「世界ダウン症の日」。今年の「世界ダウン症の日」のテーマは「WHAT DOES INCLUSION MEAN?(インクルージョンって何?)」。「インクルージョン」、日本語に直訳すると「包括(ほうかつ)」。多様性を認め合いながら、それぞれが自分らしく主体的に生きられる社会とは。ダウン症のある方の暮らしを、二家族に伺いました。(JAMMIN=山本 めぐみ)

コロナ禍の出産・子育て。「ダウン症のある子をもつママたちが支えてくれた」

2022年2月26日に開催された世界ダウン症の日 キックオフイベントでの一コマ

愛媛県に住む井上舞珠(いのうえ・まいみ)さん(31)と、2歳になったばかりの息子の創太(そうた)くん。創太くんは昨年末から少しずつ歩くようになったといいます。

「最初に立ち上がってくれた時は、本人の『立ちたい!』という強い意思を感じて、特に嬉しかったです」と井上さん。

井上さん家族。「昨年の世界ダウン症の日に自宅で撮った写真です。創太は9か月くらいまでなかなか笑ってくれませんでしたが、最近では笑顔満載!この時初めて3人の写真をセルフで撮ったのですが、創太のいい顔が撮れました」

「おじいちゃんおばあちゃんたちも日々の成長をすごく楽しみにしてくれていて、毎日動画を共有しないと『体調崩したの?』と連絡があるぐらいです。コロナ禍の子育てですが、ありがたいことにたくさんの人に気にかけてもらい、大きな不安もなく日々を過ごさせてもらっています」

2020年、ちょうどコロナの感染拡大が始まった頃に創太くんを出産した井上さん。ダウン症であることがわかった時、不安はなかったのでしょうか。

生まれて間もない頃の創太くん。「産院で『ダウン症かもしれない』と言われ過ごしていた時の写真です。放課後等デイサービスなどでも働いたことがあったのですが、『私が今まで経験してきたことって、もしかして創太に出会うためか』と妙に納得できたのを覚えています」

「成長がゆっくりであるということは心構えできていたので、子育ての中で何かショックということはこれまで特にありません。ただ、生まれた頃がちょうどコロナが日本でも感染拡大しだしたタイミングで、その面での不安と、創太は心疾患があったので、そちらへの不安が大きかったです」

コロナ禍での子育て。しかし「ダウン症のある子の親である」ことが、たくさんの人とつながるきっかけをくれたと井上さんは話します。

ダウン症のある子どもを持つお母さんたちの集い。「月に1回ほど、タイミングの合うメンバーとオンラインでつながっています。それまではダウン症のある子の親になったという特別感をどこか感じていましたが、ここでのママたちと出会いによって、ダウン症のある子の親になったことは特別なことではなく、普通のことだと感じることができました」

「なかなか外出もできない中でママ友を作ることも難しいなと思っていたのですが、SNSでダウン症のある子を持つお母さんたちとつながれたことをきっかけに、今では毎日のようにおしゃべりしています」

「子育てに関する悩みや日々のたわいない話から、オンラインでつないで皆で一緒にパンを焼いたり、それぞれおでんをつくったり、裁縫したりする方もいました。息子がダウン症だったからこそつながれた出会いで、はじめての子育て、さらにコロナ禍で孤独に感じるかもしれなかったところも乗り切ることができています。

「好きなことを見つけて、楽しく健康に暮らしてくれたら」

2021年のクリスマスに。「何度見ても笑える、この笑顔がたまりません。これからも創太にはたくさん笑わせてもらえると期待しています。そして今日も、たっぷりの愛を創太へ…」

2歳になったばかりの創太くんのこれからの人生に、親として井上さんが期待することを尋ねました。

「遠い未来のことをあえて深く考えはしていませんが、本人が好きなことを見つけて、楽しく健康で生きてくれたらいいなと思います。きっとこの子が大きくなる頃には、社会も今よりもっと良くなっているだろうなという期待もあります」

「私はたまたま、ダウン症というスペシャルニーズが必要な子の親になることができました。だから、より良い未来に向けて、自分ができることがあったらやっていきたいなと思っています。彼がいてくれることで周りの人たちがやさしくなれます。皆から愛されながら、きっとこれからも、周りの環境が良い方向に変わっていけばと願っています」

陸上とボウリングが、世界を広げるきっかけに

もうひとかた、三重県に住む竹花和真(たけはな・かずま)さん(14)と父親の利郎(としお)さん(50)にもお話を聞きました。

和真さんと、お父さんの利郎さん。「2018年に行ったハワイ旅行での1枚です。ダイヤモンドヘッドの頂上まで登りきりました。どこかへお出かけすると必ず1回は『おうちへ帰る!』と言う和真でしたが、ハワイだけは1回も言いませんでした」

和真さんは、1年前に始めた陸上の短距離走で2021年の「全国ダウン症アスリート陸上競技記録会」に出場。幼い頃から体を動かすことが好きな和真さんは、陸上だけでなくボウリングも大好きなのだそうです。

陸上競技を始めたきっかけを利郎さんに伺いました。

「小学校の運動会のかけっこも、いつも最下位ではあるんだけどそれほど遅いわけではなくて、まあまあ良い感じでついていってるなというのがあったので、じゃあ一回走ってみるかなと思って。三重県の『みえ障がい者陸上競技協会』の練習に体験で参加したのが最初です」と利郎さん。

2021年に宮崎で開催された全国ダウン症アスリート陸上競技記録会に出場した和真さん

「本人も気に入ったようで、そこから続けています。協会の役員や大学生のボランティアが指導されていて、先輩会員のお兄さんお姉さんと皆でワイワイ練習するのが楽しいようですね」

「和真は言葉でのコミュニケーションが難しいのですが、先輩メンバーたちに暖かく迎え入れてもらっているおかげで本人が楽しみながら続けられているし、2〜3時間ある練習時間は弱音も吐かず、みんなと同じメニューを最後まで頑張っています。見よう見まねでかたちから入るので、フォームの見栄えはよくなりました」

もうすぐ始めて3年になるボウリングは、週3回教室に通うほど。最高スコアは233とかなりのハイスコアで、「今使っているマイボールは4つめです」と笑顔を見せる二人。

「ボウリングの練習は、プロボウラーの指導のもと1回6ゲームを投げます。投球フォームもだいぶカッコよくなりました」(ボウリング場の許可を得て撮影)

「有酸素運動で足腰も鍛えられるので、陸上のトレーニングにもなっているのではないでしょうか」と利郎さん。親として、どのような思いで和真さんのボウリングや陸上を応援しているのでしょうか。

「通っている特別支援学校の中学部には運動系のクラブや部活動がないので、その代わりに、体力づくりを兼ねて練習しています。本人は褒められるとますます張り切るタイプですので、自信をつけてくれればと思っています」

自宅での和真さん。「学校でテーブルの拭き方を習ってきて以来、テーブル拭きを頼むと頑張って完璧に拭きあげてくれます」

「ボウリング教室では地元の他の子どもたちに混ざって違和感なく練習していますし、ボウリング場の年配の常連さんたちも和真の顔を覚えてくださって、声をかけてもらったりお菓子をもらったりしています」

「たまたま陸上とボウリングが好きで続けていますが、自分の好きなことや得意なことを伸ばして、それがちょっと自慢できたり、何かいやなことがあった時にストレスの発散になったり、生活を豊かにしてくれたらなという思いがありました。趣味を通じて交流の幅がもっともっと広がっていけば、新たな出会いや可能性も広がるのではないでしょうか」

「自分に合った働き方をしながら、余暇として好きなことを楽しむ人生を歩んでくれたら」

「宮崎の大会に行く直前、新しいスパイクを履いて2人で自主練習をしました。和真は余裕の表情ですが、父は足がつる寸前です」

昨年、宮崎で開催された「全国ダウン症アスリート陸上競技記録会」には本格的なスパイクを履いて参加した和真さん。60メートル走が11秒04、100メートル走は18秒96という好成績を記録しました。

「最初はスパイクが必要ということもわからなくて、大会のプログラムを見て1ヶ月前に慌てて購入しました。大会前にスパイクに慣れるために二人で自主練をした時は私が和真についていけなかったですが、記録会ではもっと速いライバルが何人もいました」

「速く走る技術を身に付けられれば、もっとタイムを縮められると思います。ただ『ダウン症あるある』で、競技中にも優しい面が出るのか、突然周りの人に合わせてペースを落としたり、遠慮して進路を譲ったりするので、見ているこちらがハラハラしますね(笑)。記録会から帰ってきた後も学校や練習会で『すごいね、よくがんばったね』と褒めてもらい、自信がついたようです」

「宮崎の大会で最初の種目の60m走を走り終え、メダルをもらった和真です。満面の笑みで得意げに戻ってきました」

「和真がダウン症であるとわかった時はなかなか受け入れられなかった」と振り返る利郎さん。

「小さいころはいろいろと将来の心配をしたりもしましたが、ある程度成長してきた中で、彼が得意なことを楽しく続けていけたらいいなという気持ちが強くなっている」と話します。

「将来の選択肢も少しずつ見えてきました。支援学校を卒業した後は何らかの形で働くのだろうなと思っていますが、自分に合った働き方をしながら、余暇として、スポーツでも何でも、好きなことを楽しむ人生を歩んでくれたらなと思います」

「自分が好きなことや合うことを見つけて、どちらも楽しみながら生きていってくれたらなという思いがありますね。きっとつらいことも出てくるかもしれませんが、その時に好きなことがあれば、気分転換にも逃げ場にもなってくれるのではないでしょうか」

「我々もそうですが、皆何でも器用にできるわけじゃないですよね。それぞれ得意なこともあれば、苦手なこともたくさんあります。『個性』といえばありきたりかもしれませんが、良いところを伸ばしながら、のびのび成長してくれたらと思っています」

ダウン症啓発のための資金を集めるチャリティーキャンペーン

チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は、「日本ダウン症協会」と2/28(月)~3/6(日)の1週間限定でコラボキャンペーンを実施、オリジナルデザインのチャリティーアイテムを販売します。

JAMMINのホームページからチャリティーアイテムを購入すると、1アイテム購入につき700円が団体へとチャリティーされ、日本ダウン症協会主催の「世界ダウン症の日」キックオフ配信イベントの技術費、ダウン症啓発ポスターの印刷費、また全国にポスターを配布するための送料として活用されます。

「JAMMIN×日本ダウン症協会」2/28~3/6の1週間限定販売のコラボアイテム。写真はTシャツ(700円のチャリティー・税込で3500円)。他にもパーカー、バッグなど販売中

JAMMINがデザインしたコラボデザインには、いろんな靴を描きました。どこに行くのかな?誰に会いに行くのかな?…街の中に溶け込み、楽しく暮らす様子が伝わってくるようです。

23あるペアの靴のうち、一つだけ3つ描いたのは、「メダル」。ダウン症のある人たちの暮らしを周囲の人たちが温かく見守る様子、挑戦や社会参加に「ありがとう」を表す象徴として描くとともに、ダウン症の特徴である「21トリソミー(23対ある染色体のうち、21番染色体が通常より1本多い3本ある状態)」を表現しています。

JAMMINの特集ページでは、インタビュー全文を掲載中。こちらもあわせてチェックしてみてくださいね!

3月21日は「世界ダウン症の日」!今年のテーマは「インクルージョンって何?」〜公益財団法人日本ダウン症協会

山本めぐみ(JAMMIN):
「JAMMIN(ジャミン)」は京都発・チャリティー専門ファッションブランド。「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週さまざまな社会課題に取り組む団体と1週間限定でコラボしたデザインアイテムを販売、売り上げの一部(Tシャツ1枚につき700円)をコラボ団体へと寄付しています。創業からコラボした団体の数は390超、チャリティー総額は6,500万円を突破しました。

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