神奈川県茅ヶ崎市で、「もったいない」を活動の軸に、企業や個人が使わなくなったものを引き取り、国内外の必要としている人のもとへと届ける団体があります。大量生産・大量消費、使い捨てが当たり前の今、「『もったいない』という思いを、ものだけでなく人をも大切にする社会につなげたい」という信念を持って活動を続けてきました。(JAMMIN=山本 めぐみ)

「もったいない」物資を集め、必要な場所へ届ける

全国各地から届くさまざまな物資。「文房具や日用品、食料など数多くの品物が届いております

NPO法人「もったいないジャパン」は「みんなが良くなる」をモットーに、全国から「もったいない」物資を集め、必要な場所に届ける活動をしています。毎日届く物資は1トントラック1台分ほど。未使用の石けんや洗剤、歯ブラシ、トイレットペーパー、おむつといった日用品から毛布、タオル、おもちゃ、スポーツ用品、楽器、文房具…、その内容はさまざまだといいます。

「ご寄付は企業さんが6〜7割、個人が3割ほどでしょうか」と話すのは、代表の福田朗久(ふくだ・あきひさ)さん(51)。

「届いた物資は食器や日用品、雑貨などまずは大まかにざっくりと分類をし、そこからさらに細かく仕分けしていきます」

「自分は使わないけどまだ使えるもの、会社で廃棄されるはずだったものなどいろいろです。過去には一箱50枚入りのバスタオルを150箱送っていただいたことがありました。つまり7500枚です。すべて乳児院さんなどタオルが必要な施設にお送りし、『タオルの予算を他の必要なものに回すことができた』という喜びの声をいただきました」

ものと一緒に、人の思いも届け、つなげる

千葉県にある乳児院と児童養護施設にランドセルを届けた時の1枚。「もったいないジャパンは、個人の方に直接ものを届けることはしていません。支援のために間に入られている団体さんに届けることを基本的な理念としています」

「『(物資を受け取って)生活が改善した』という声をたくさんいただきますが、ものを届けながら、人の気持ちをつないでいると本当に感じます。社会に本当は、ごみなんてないんじゃないでしょうか」と福田さん。

「ごみなのではなく、ただ単に行き先がないか、あるいは行き先を知らないだけなのではないかな。この活動をしていると『もったいないけど捨てるしかない。なんとかできないか』という声をたくさん聞きます。『もったいないから、なんとかできないか』というその人の思いを生かすつながりさえあれば、その『もったいない』はごみにならず、再び生かされ、活躍できる道が開かれていくのではないでしょうか」

お話をお伺いした福田朗久さん

「いろんなものが安く手に入り、特に思い入れもなく大量に消費される今の時代だからこそ、ものを大切にしてほしい。ものを大切にする一人ひとりの思いやりややさしさも、大事にされてほしい。ものも思いも、無駄なものは一つもないから、生かされてほしい。そう思って活動しています」

「捨てたいと思う人からしたら、寄付するとか再活用するという発想にはなかなかたどりつかないかもしれません。でも、だからこそ知ってもらいたいんです。『捨てればごみだけど、それを必要としている人が必ずいるし、活躍できる場所がかならずあるんだよ』と」

団体を立ち上げ、37歳で亡くなった前任・山本さんの遺志を継いで

生前の山本さん(写真右端)。「人の良いお兄ちゃんというイメージが伝わってくるタイプの人で、『自分らしくいきましょう!』という感じの人でした」

もともと古本や古道具が好きだった福田さん。2016年にNPO法人「もったいないジャパン」を立ち上げ、2021年に37歳の若さで亡くなった山本高大さんの遺志を継ぐかたちで代表を務めています。

「山本さんは明るくて前向きな人でしたが、不器用なところがあって、自分は組織で働くことは向かないと思っていたそうです。本が好きだった彼は、ただ読んで終わりではない本の価値を生かしていきたい、特に小さな子どもが、良書を手にすることで豊かな心の育成にもつなげてほしいと、大学卒業後の2007年に古本を役立てるNPO法人『セカンドブックアーチ』を立ち上げました」

大手の古本屋チェーンでは引き取らないような本も引き取り、その販売で得た収益を地域に還元する活動をしていた山本さん。福田さんが山本さんと出会ったのは、NPOのサイトを通じてでした。

前職で介護福祉の職に携わりながら、趣味で古道具や古資料集めをしていた福田さん。「いらないと捨てられた紙くずの中から未発見の歴史の資料が見つかったりするのが楽しくて、古本に関する仕事に携わりたいと思うようになった」といいます。

「古本は回収・クリーニング・値段付け・販売という流れですが、福祉の仕事に携わりながら、この作業は分業すれば、障がいのある方や子育てしながら働きたいお母さんも、子どもをおんぶしながらでもできるんじゃないかと思って。好きだった古本を通して福祉の世界で感じた課題の解決につながればとNPOの運営を考えたのです」

「でも、NPOのことなんて何もわかりません。最初は誰かに教えてもらおうと思ってネット検索した時に、山本さんの『セカンドブックアーチ』のホームページがヒットしたんです。そこで山本さんに『NPOのノウハウを教えてください』と連絡を取ったのが、最初の出会いでした」

「最初は2年間だけの約束でしたが、その後『理事にならないと見えないこともあるから』と団体の理事をやらせてもらいながら、山本さんの『サポートするから、自分でもやってごらんよ』という後押しもあって、僕自身も2021年に『気持ちを届ける会』というNPOを立ち上げました」

2021年4月、もったいないジャパンの倉庫にて。「僕が手にしているのは、三陸沖地震の時に震災で流されたブイです。『俺もこれを持って頑張ってこられたのだから、福田さんもがんばれ』と生前の山本さんが言ってくれました」

「3年間という短い期間でしたが山本さんとは大親友で、週に3回、一緒に飯を食う仲でした。いろんなことを教えてもらい、僕もちょっとずつわかるようになって、いよいよこれからという時に亡くなりました。実は亡くなった日も、亡くなる3時間前まで一緒にいたんです。連絡がとれないと思った時には、彼はすでに亡くなっていました」

「山本さんは37年間の人生を、フルスイングで駆け抜けたんですよね。彼の死が惜しいとか悲しいというより何より、彼に会えないことが本当に寂しい。今まで当たり前にあった彼と過ごす時間が無くなって、見守ってくれる人がいなくなったことを本当に寂しく感じています」

「僕が今、こうしてインタビューしてもらってきちんと答えられるのも、本当に彼のおかげなんです。僕を先導してくれて頼ってくれて、とても頼もしい人でした」

「もったいない」は愛情

「箱がつぶれてしまい商品としては販売できないフライパンを、茨城の子ども食堂に届けました」

「ものを届けた先の人が笑顔になる。それはなんとなくイメージしやすいかもしれません。でもそれと同時に、ものを引き取りに伺う時も、皆さん本当にいい顔なんです。純粋な子どものような笑顔。『引き取ってくれてありがとう』と言ってくださいます」と福田さん。

「善意でつながって、ものを受け取る人も手放す人も、そしてそれを届ける人も、皆笑顔になる。こんな素晴らしい活動はありません。『もったいない』という言葉には、ものへの思いや善意、あらゆる思いが集約されていると思います。僕たちの活動は、それをエネルギーに回っています」

送られてきたものと一緒に入っていた手紙。「もったいない」「必要な場所で大切にされてほしい」という気持ちも切り捨てず、大切にしたいと福田さんは話す

「コロナ禍で日本の各家庭に配布された『アベノマスク』は話題になりましたよね。批判も大きかったですが、僕たちは全国から集まった4〜5000枚のマスクを、シリアの難民キャンプで活動する団体に届けました。難民キャンプの人たちは貧困のためマスクを買うことすら難しく、またマスクもなかなか手に入らなかったそうです」

「『うちはこんなマスクはいらない』だとそのままゴミ箱にポイですが、『もったいないな。どこかで活用できるかもしれないな。必要な場所に届けてね』と僕たちのもとに届いたマスクが、難民キャンプの人たちの暮らしの支援につながりました。愛ですよね。『もったいない』は愛情なんです」

「活動を通じて、自殺する人を一人でも減らしたい。あるだけで価値。必ず要する人がいる」

ウガンダの教会兼孤児院「エグゾダス養護施設」に、筆記用具などのほか、児童用シューズやボール、ラケットなどの運動用具を寄贈した時の1枚

「合理性を突き詰めるあまり、『いらなくなったら捨てて、必要になったらまた買う』ことがあたりまえの時代になりつつあります」と福田さん。

「でも、一見必要ないように思えるものも必要なんです。それはいのちも同じです。必要のない人、必要のないいのちなんていうものはこの世にはありません。僕は活動を通じて、自殺する人を一人でも減らしたいと思っています」

「僕自身、何回も落ちこぼれたし、ジェットコースターのような人生でした。つらくてしんどい時、『自分なんて』とか『死んでしまいたい』と思っていました。でも結局最後に、自分自身を大事にできるかどうか。『死んだ方が楽』と思った時に、『もったいない』と自分の価値を感じられるかどうかだと思うのです」

コロナの世界的な流行によりマスクの不足に困っていたシリア難民を支援するために、日本で活動する「富山ムスリムセンター(TMC)」にマスクを寄贈

「僕は、つらい時の心の状況とごみを捨てる時の心境は似通っていると感じています。つらい時はつらいことにしか意識がいかないし、ごみを捨てる時も『これはごみだ』という決めつけの意識になっている。でも『本当にごみなのかな、必要な人もいるんじゃないかな』って、一度立ち止まってみてもいいんじゃないかな」

「『自分なんてしょうもない』『大したことない』と思うかもしれません。でも環境が変われば、ほかの誰かや未来の誰かが、その人のことを必要とするかもしれないのです。人の心もいのちも、大切にして守ってほしい。自分のいのちを粗末にすることはもったいないし、悩んでいる時間ももったいない」

「生きていれば必ず未来は変わります。だから今がすべてと思わず、ごみだと決めつけて捨てずに、再び生きる道を信じてほしいと思うのです。ものもひとも、あるだけで価値なんです。必要だからあるんです。この活動を通じて、そのことが少しでも伝わり、循環してくれたら嬉しいです」

団体の活動を応援できるチャリティーキャンペーン

チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は、もったいないジャパンと2/21(月)~2/27(日)の1週間限定でコラボキャンペーンを実施、オリジナルデザインのチャリティーアイテムを販売します。

JAMMINのホームページからチャリティーアイテムを購入すると、1アイテム購入につき700円が団体へとチャリティーされ、全国から届いたものを必要な場所へ、思いとともに届けるための送料として活用されます。

「JAMMIN×もったいないジャパン」2/21~2/27の1週間限定販売のコラボアイテム。写真はTシャツ(700円のチャリティー・税込で3500円)。他にもパーカー、バッグなど販売中

JAMMINがデザインしたコラボデザインには、ものに宿る、人のやさしい気持ちをキャラクターにして描きました。一つの場所では不要になったものでも、新しい場所で、誰かの日々を豊かに彩る様子をクスッと笑えるタッチで描いています。

JAMMINの特集ページでは、インタビュー全文を掲載中。こちらもあわせてチェックしてみてくださいね!

あなたの「もったいない」が必要とする誰かに届けられ、ものだけでなく人の心やいのちも大事にされる社会を〜NPO法人もったいないジャパン

山本めぐみ(JAMMIN):
「JAMMIN(ジャミン)」は京都発・チャリティー専門ファッションブランド。「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週さまざまな社会課題に取り組む団体と1週間限定でコラボしたデザインアイテムを販売、売り上げの一部(Tシャツ1枚につき700円)をコラボ団体へと寄付しています。創業からコラボした団体の数は390超、チャリティー総額は6,500万円を突破しました。

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