映画レビュー「もったいないキッチン」

オーストリア人の映画監督で、食料廃棄や食品ロスを追い続けているダーヴィド・グロスさんの新作ドキュメンタリー「もったいないキッチン」が全国で公開中だ。舞台は「もったいない」という言葉が生まれた日本。実は日本では年間643万トンに及ぶ食品ロスを出している。(Lond共同代表=石田 吉信)

「もったいない」
元々は仏教思想に由来する言葉で、無駄をなくすということだけではなく、命あるものに対する畏敬の念が込められた日本独自の美しい言葉だ。

そんな「もったいない」精神に魅せられ日本にやってきたのは、食材救出人で映画監督のダーヴィド・グロス。

「もったいないキッチン」のアンバサダーには伊勢谷友介さんや斎藤工さんらもいる

ところがもったいない精神を大切にして来た日本の食品ロスは、実は世界トップクラス。
その量毎年643万トンで、国民一人当たり毎日おにぎり1個分を廃棄している計算だ。

一家庭当たり年間6万円のまだ食べられる食べ物が捨てられている。ダーヴィドはコンビニや一般家庭に突撃し、捨てられてしまう食材を次々救出!キッチンカーで美味しい料理に変身させる「もったいないキッチン」を日本各地でオープンする。

福島から鹿児島まで4週間1600kmの旅。ダーヴィドと旅のパートナーニキを助けてくれるのは、もったいないアイデアを持つ日本のシェフや生産者たち。フレンチシェフがネギ坊主まで丸ごと使うもったいない料理、野山が「食材庫」という82歳で医者いらずのおばあちゃんが作る野草の天ぷら、0円エネルギー、自然の蒸気を使った蒸し料理など、もったいない精神に満ちたアイデアに出逢う。

次第にダーヴィドは「もったいない」の先に、食品ロス解決のヒントだけではない、たくさんの幸せを見つけていく。さあ、2人と「もったいないキッチン」の旅に出かけよう!
〈もったいないキッチンホームページより〉

何故、ナスのヘタは食べないのですか?

緑泉寺の青江覚峰住職に監督のダーヴィドさんと旅のパートナーであり通訳のニキさんがそのように問われ言葉に詰まる場面があった。

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僕も料理をする中で、オクラやピーマンのヘタや椎茸の根の先を切り落として捨ててしまう(コンポストへ入れますが)のに対して、「もしかしたら食べられるかも?」と考えたことがなかったことに気がついた。

僕はヴィーガンなのでもう食べないけれど、「エビの尻尾を食べるか食べないか」は人によって違うんだな、というくらいはふと日常の中で気になった人は多いかもしれないが、そういった野菜の「食べられなそうな食べられる部分」について考えたことはみなさんありましたでしょうか?

食品ロスは企業の廃棄量が多いように思いがちだが、実は47.7%は家庭からである。野菜や果実の皮を剥きすぎた、作りすぎた、冷蔵庫に入れたまま使わずに廃棄したなどの理由で、金額にすると、一世帯あたり年間およそ6万円分も捨てていると言われている。

今一度、スーパーでの買い物の量、作る量、普段通り三角コーナーに捨てようと思ったもの、に対して再考してみよう。

映画の前半で出てくる食品リサイクル工場では、デパートや飲食店からの廃棄が毎日約35トン持ち込まれ、養豚の飼料にリサイクルされる。

映画では「廃棄のその先」が写し出される

弊社の共同代表と「ゴミ箱に捨てる、そして、業者が運んでいく、その先を考えたことある?」という話を少し前にしたことがあるが、廃棄物を発展途上国に売ったという話もあるが、この食品リサイクル工場も「廃棄のその先」が写しだされる。

この工場の内部を初めて観て、ダーヴィド監督やニキさんはその工場のゴミ箱にある廃棄されたものを問題なさそうに、美味しそうに、食べていたが、(許可を得て食べている)廃棄する必要のないものがそこにはたくさんあった。こういう特別な場所を見ることができることはドキュメンタリーの素晴らしい点だと思う。

たしかに、デパ地下のものが毎日どれだけ売れ残ってるのか、想像するだけで少なくはないだろうなぁと思う。デパートに入っているパン屋からだけでも、大きなゴミ箱3つ分の破棄が出るそうだ。(そのパンも劇中で美味しそうに食べていた)

冒頭のローソン役員とダーヴィド監督たちの会話の中で賞味期限の話があったが、食品を小売店に納品するには賞味期限の「3分の1」以内でないと納品出来ず、賞味期限の3分の2にあたる販売期限を過ぎると返品され処分の対象になると言われている。全国に6万店舗弱あるコンビニからどれだけの食品ロスが生まれるのだろうか、、、

このようにレビューを書くと、すごく社会性の強いドキュメンタリーに見えるが、食品ロスについての話は冒頭のローソンと食品リサイクル工場で終わり。

そこからの旅は一変し、日本各地の心を込めて「食」と向き合うそれぞれのプロフェッショナルへの密着だ。

3.11後の福島の農家とシェフ、大阪のゼロウェイストカフェ、昆虫食を自然の中で仲間と捕まえて食べる地球少年、野草おばあちゃん、コンポストで循環社会を作るlocal food cycling、鳥取県の里山で菌を愛しパンとビールで地域内循環を作るベーカリー、熊本県の地熱資源で作る郷土料理、鹿児島県で鰹節にモーツァルトを聴かせる職人、規格外野菜で楽しむもったいないキッチンパーティ、、、、

食品ロスを出さない5つのポイント

僕はこの映画が後半に向かうにつれ涙腺が緩んでいくのを感じた。

それは「生きる」というのは「食べる」ことが強く結びついていて、「食べる」というのは「命」を頂いていること、それをこの映画に出てくる人たちはみんなよくわかっていて、とても大切にしていた。

自然と向き合い、「再生」や「循環」を大切にすることは「美しい生き方」であると直感的に感じていたのだと思う。

劇中で、食品ロス問題専門家の井出留美さんが、「命じゃなくて、物だって思っちゃってるから皆平気で捨ててしまうけど、やっぱり食べ物を捨てるって、命を殺すことなんだって皆が気づいたら、そう簡単には殺せない、つまり捨てられないんじゃないかなって思います。日本では、年間643万トンが捨てられています。これは東京都民が一年間食べる量と同じと言われています。本当に悲しいし、情けないと思います。1日1人当たり139gの食べ物を全員が捨てています。139gというのが、だいたいおにぎり1個分に当たります」と言っていたのがすごく胸に残った。

青江住職が「スマホを見ながら食べるのではなく、食事に感謝して、丁寧に頂くことが大切です」と言っていたのは、現代社会を生きる我々は一人ひとり考え直した方がいいと思う。「ながら〜」が特に都市部ではとても多いように思える。

「もったいない」は食品だけじゃない、というくだりで「プラスチック問題」にも触れる。

ダーヴィド監督はコンビニの蕎麦を開けながらプラスチックの数を数える。
プラスチックのフタ、プラスチックのカップ、つゆの袋、海苔の袋、ワサビの袋、、、箸の袋、、、
これもプラスチック、これもプラスチック、と考えたことはあるだろうか?
この使い捨てられるプラスチック一つひとつのことを考えたことがあるだろうか?

ニキさんは果物一つをプラスチック袋に包まれたものを手に取り複雑な表情を浮かべる。
今のご時世、コロナの事もあり過剰包装の問題は難しいが、その先にある気候危機、海洋汚染も大きな問題である。

プラスチックは毎年800万トン世界で破棄されるという、それはジャンボジェット機約5万機分の重さだ。2050年の海は魚よりプラスチックの方が多くなると言われている。

「使い捨てること」も「もったいない」だ。
ペットボトルも日本で年間約250億本ほど、レジ袋も年間平均1人300枚消費していると言われている。

エコバック、マイボトル 、マイカップ、マイストロー、マイ箸、自分用のそれらを持ち運び「使い捨て」ってもったいないよね、って、昔は使い捨てばっかだったんだよって、そんな時代のほうが進歩しているように感じるのは僕だけだろうか。

もったいないキッチン

石田吉信:
株式会社Lond代表取締役。美容師として都内3店舗を経て、28歳の時に異例の「専門学校のクラスメイト6人」で起業。現在銀座を中心に国内外、計22のサロンを運営中。1号店のLondがHotpepper beauty awardで4年連続売り上げ全国1位を獲得。「従業員第一主義」「従業員の物心両面の幸福の追求」を理念に、70%以上という言われる高離職率の美容室業界で低離職率(7年目で160人中5人離職)を実現。また美容業界では未だほぼ皆無であるCSR、サステナビリティに向き合い、実践の傍ら普及にも努めている。instgram
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