世界のHIV陽性者の6割が暮らしているとされるアフリカ・サハラ砂漠以南にあるケニアとウガンダで、2005年からHIV陽性者のシングルマザーとその子どもをはじめとする生活困窮世帯の生計向上支援を行う団体があります。これまでに560世帯、2,500人を超える子どもたちに支援を届けてきました。(JAMMIN=山本 めぐみ)

HIV陽性のシングルマザーとその子どもを支援

団体の支援を受け、自分たちのカフェを開業したお母さんたちの笑顔

「エイズ孤児支援NGO・ PLAS」は、ウガンダとケニアで、HIV陽性のシングルマザーとその子どもをはじめとする生活困窮世帯への支援を行うNPO法人です。両国とも道路や上下水道、電気などのインフラが整っておらず、共通して「貧困」の課題を抱えていると話すのは、団体理事であり事務局長の小島美緒(こじま・みお)さん(37)。

「人口の多くが農業従事者ですが、近年は気候変動の影響を受け作物が育たず、より経済的に困窮しているという課題もあります。私たちが活動する地域の中には、HIV陽性シングルマザー家庭の年収がわずか2万円ほどであったり、国際貧困ラインである1日1.9ドル未満での生活にさえ満たない人々が人口の約6割という地域もあったりします」

お話をお伺いした小島さん

貧困から派生し、さまざまな課題が生まれると小島さん。「中でも教育の問題は深刻です」と指摘します。

「両国とも初等教育への入学率は80パーセント以上ですが、そのうち中等教育への進学できるのはウガンダで約35パーセント、ケニアでも約66パーセントです。多くの子どもたちが途中でドロップアウトしますが、その背景にあるのが家庭の経済的な理由です。満足な教育を受けられないまま、将来にわたって困窮した暮らしを余儀なくされてしまう人が少なくありません」

「安全な水にアクセスできる割合も少なく、汚染された水を飲み感染症で亡くなってしまう子どもや、水汲みのために毎日家と水のある場所とを何時間もかけて往復するために学校に通えない子どもがいたりもします」

「悪魔の子」、根強く残る、HIVへの差別や偏見

「HIV陽性者となるとさらに困窮した状況に陥る傾向が強くなります」と小島さん。

「治療薬の開発と普及で、HIVは共に生きられる病になりました。しかし私たちが活動を始めた2005年当時、親をエイズで失った子どもは『悪魔の子』と呼ばれ、差別を受けることもありました。そうしたいわれのない差別は少しずつ減っていますが、今でも現地では、差別や偏見を受ける人たちがいます」

「HIV陽性者が発症を抑えるためには日々の服薬が必須ですが、クリニックに入る姿を見られると自分がHIVであることが周囲に知られてしまうから行けないとか、それを恐れて遠いクリニックに足を運ぶという方もいます。私たちが主に支援しているのは、エイズで夫を亡くしたHIV陽性のシングルマザーとその子どもたちですが、一家の稼ぎ手を失って経済的に困窮している上に差別や偏見が重なり、より孤立してしまうということがあるのです」

HIV陽性のシングルマザーとその家庭の生計向上を支援する

カフェビジネスプロジェクトの研修の様子。「この日のメニューは牛肉のスープ、ピラウ、パスタ。ウガンダでもパスタを食べる人が少しずつ増えています」(小島さん)

PLASは経済的に困窮したHIV陽性のシングルマザー家庭を対象に、現地のパートナー団体と協働で農業や養鶏、カフェビジネスなどを通じた生計向上のための技術訓練や実習といった支援活動をしています。

「たとえばカフェビジネスのプロジェクトであれば、2年に及ぶ伴走期間で、調理や接客、会計、衛生管理や貯蓄の方法などをお伝えします。その後、最初は路上での販売からスタートし、最終的には実店舗での販売を目指します。その際に必要になる調理器具や食器、テーブル、路上販売で使うパラソルなどはこちらから提供していますが、すべてを無償で提供しているわけではありません」

フレッシュジュースの作り方を学ぶ。「はじめて手にしたミキサーに、少し緊張気味のお母さんたちです」(小島さん)

「お母さんたちの自主性が失われてしまうので、ある程度の売り上げが出た時点で、自分たちで少しずつ返済してもらうようにしています。そうすることで、自分たちのビジネスとしてオーナーシップや責任感を持つことができるようになります。

現地のスタッフが伴走し、困ったことがあればアドバイスしつつ売り上げを伸ばす努力をしながら、貯蓄をして教育や栄養ある食事など、子どもたちの未来や暮らしに必要なところにお金を投資できるよう後押しします」

「カフェプロジェクトでどんな風に人生が変わったのか。一人のお母さんは『貧しい一人のHIV陽性者から、ビジネスウーマンになれたのよ』と堂々と語ってくれました」

子どもが教育を受け、将来を描けるよう
カウンセリングも実施

カフェビジネスプロジェクトから自立するお母さんたちを祝う修了式。全員が無事に卒業し、満面の笑み

さらにケニアでは、生計向上のプロジェクトとあわせ、子どもと保護者を対象に、子どもが前向きに人生を計画できるように、お母さんたちの子どもの成長や発達、教育に関する理解を促す「ライフプランニング」プロジェクトも行っています。

「生計向上のプロジェクトに参加するお母さんは、いわば保育園に子どもを預けて働き出したお母さんと同じような状態。一生懸命に働けば働くほど、家で子どもとコミュニケーションをとる時間が物理的にも減ってしまいますし、子どもの成長や教育への理解といった土台がなければ、親子関係に影響が出てしまうこともありました」

プロジェクトに参加していた家族を2年ぶりに訪問。「経済的な理由から高校に行けるか心配していた息子のジョンくん(写真右から2人目)は、お母さんのキャロラインさん(写真左)が頑張って学費を賄い、元気に通学していました」(小島さん)

「私たちが目指しているのは、家庭の収入をただ安定させることではありません。その先には、子どものより良い未来というビジョンがあります。子どもが安心して学びつづけられる環境のためには、親の教育への理解と親子の安定した関係性が非常に大切です」

「お母さんの意識が変わると子どもへの声がけが変わります。子どもの学習を応援するようになり、それによって子どもも、その子の未来も変わっていきます。貧困地域であっても夢を持ち、その夢をかなえるためにどんな努力をしていくか。親子で未来を描き、築いていくことができるようになるのです」

「誰しもが持っている可能性を
引き出すことができる支援を」

日本から届いた絵本を手にする子どもたち。「左の子どもが抱える絵本のタイトルは”You Choose Your Dreams(あなたが、あなた自身の夢を選ぶ)”。絵本の読み聞かせを通して、子どもたちの自信を育みます」(小島さん)

「どんな環境であっても子どもたちが将来に希望を持ち、自分を受け入れながら明るい未来を信じて生きていくことができるように。その時にそっと後ろから後押しできるような、友達のような団体、存在でいられたら」と小島さん。

「PLASという団体名は、”Positive Living through AIDS orphan Support(エイズ孤児が前向きに生きられるように)”の頭文字をとったものですが、HIV陽性であることを示す”ポジティブ(陽性)”という言葉を掛け合わせたものでもあります。HIV陽性であっても、それをプラスの力に変え、HIVと共に生きていく支援ができればと思っています」

研修には小さな子どもを抱えて参加するお母さんも。「一生懸命に学ぶお母さんのそばで眠る赤ちゃん。穏やかな寝顔がいつか目にする未来が、前向きに生きられる未来であるようにと願います」(小島さん)

「今ある現実のなかでも、自分には価値があるんだということに気づき、明日への希望を持ち続けられるような支援を続けていきたいと思いますね。

目に見えるのは、もしかしたら小さな変化かもしれません。でも、それまで生きてきた日々を想像すると、その人にとってはものすごく大きな一歩だったりします。人は誰しもに可能性があります。それを引き出すチャンスや環境をつくっていくことが、今後も私たちの役目だと思っています」

団体の活動を応援できるチャリティーキャンペーン

チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は、6/7(月)〜6/13(日)の1 週間限定でキャンペーンを実施、オリジナルデザインのチャリティーアイテムを販売します。

JAMMINのホームページからチャリティーアイテムを購入すると、1アイテム購入につき700円が「エイズ孤児支援NGO・ PLAS」へとチャリティーされ、HIV陽性シングルマザーとその子どもの生活と未来を支援するための資金として活用されます。

「JAMMIN×エイズ孤児支援NGO・ PLAS」6/7〜6/13の1週間限定販売のコラボアイテム(写真はTシャツ(カラー:ダークグレー、価格は700円のチャリティー・税込で3500円)。他にもスウェットやパーカー、トートバッグやキッズTシャツなど販売中

JAMMINがデザインしたコラボデザインに描かれているのは、サバンナを闊歩するキリンの親子の姿。その周りに、親子を温かく見守るライオンや鳥を描きました。

キリンの首は雲を突き抜け、燦々と輝く太陽に向かって伸びています。困難があっても母親と子どもが周囲の温かいサポートを受けながら、大地に足をつけて、夢を持って生きる様子を表現しました。

JAMMINの特集ページでは、小島さんのインタビュー全文を掲載中。こちらもあわせてチェックしてみてくださいね!

「取り残された子どもたちが前向きに生きられるように」。ケニア・ウガンダで困窮する子どもたちとその家族を支援〜NPO法人エイズ孤児支援NGO・ PLAS

山本めぐみ:JAMMINの企画・ライティングを担当。JAMMINは「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週NPO/NGOとコラボしたオリジナルのデザインTシャツを作って販売し、売り上げの一部をコラボ先団体へとチャリティーしている京都の小さな会社です。2014年からコラボした団体の数は360を超え、チャリティー総額は5,800万円を突破しました。

【JAMMIN】
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