2022年には16万人が訪れたという尾瀬国立公園。かつて、尾瀬に水力発電のダム建設の話が持ち上がったのをご存知でしょうか。72年前、ダム建設に反対する人たちが集まってできた団体は、70年以上が経った今でも、「自然と人との共生」を掲げ、日本各地で自然保護活動を行っています。(JAMMIN=山本 めぐみ)

「人の生活と自然が両立すること、そのバランスが大切」

日本自然保護協会の始まりである尾瀬の風景。豊かな自然は、開発が進んでいたら失われていたかもしれない

公益財団法人日本自然保護協会(NACS-J)は、1951年にスタートした、日本の生物多様性の保全に取り組む団体です。「『自然のちからで、明日をひらく』を基本理念に、科学的な根拠に基づいた、中立で透明性のある自然保護活動を推進しています」と話すのは、「自然のちから推進部」の原田和樹(はらだ・かずき)さん(29)。

「近年では、人の暮らしと豊かな自然の両立が大切という意識が主流になってきて、自然保護の概念も少しずつ変わってきていると感じています」と原田さん。

お話をお伺いした原田さん

「調査や研究による科学的な根拠に基づき、自然の中で人がどう生きていくか、人と自然がどう共生していくかも含め、中立的な立場での自然保護の姿勢を大切にしています」と話し、地域の人たちや専門家とも連携しながら、企業や国に意見書を提出することもあるといいます。

「たとえば、風力発電や太陽光発電など再生可能エネルギー自体について、団体としてはポジティブにとらえていますが、生物多様性を大きく破壊してしまうような再生可能エネルギーの建設計画であれば、賛同できません。人の生活と豊かな自然が両立すること、そのバランスが大切だと考えています」

スキーリゾート開発が持ち上がった
群馬県みなかみ町の事例

かつての尾瀬の風景

今年で設立72周年を迎える日本自然保護協会。今は国立公園となっている尾瀬をダム建設計画から守るために、登山家や学者、一部官僚が集まって1949年に作られた「尾瀬保存基成同盟」が、その前身団体だといいます。

「当時の日本は、高度経済成長期の真っ只中。電力が不足しており、水力発電のために尾瀬の自然を壊し、そこにダムを建設する計画が持ち上がりました。そのまま計画が通っていたら、今の尾瀬はダムの底に沈んでしまっていたわけです」

「熱心な活動の結果、尾瀬に関しては自然が守られたわけですが、当時は尾瀬だけでなく、全国各地で同じような計画が立ち上がっていました。『尾瀬だけでなく、全国の開発計画に対しても取り組んでいかなければならない』と、その後も日本各地で活動を継続してきたのです」

群馬県みなかみ町にある赤谷の森で実施した自然観察会の様子

最近では、2017年に「ユネスコエコパーク」に認定された群馬県みなかみ町の事例が挙げられるといいます。

「1980年代のスキーブームに乗って、温泉で知られるみなかみ町に一大リゾート開発とダム計画が立ち上がりました。この計画に反対した地域の方たちから、SOSを持ちかけられたのは1990年のこと。当時、協会として全国のリゾート開発問題に取り組んでいたこともあり、話を聞いて、共に活動することになりました」

「みなかみ町は古くから温泉が有名な地域ですが、温泉は、豊かな自然があるからこそ湧き出るもの。雨水を長い間蓄積して、湧き出たものが温泉です。もし開発の手が入って自然が壊されてしまったら、何十年か先に温泉が成り立たなくなるのではないか。何より水源の豊かな自然が失われることを懸念して、地域の方たちがSOSを発信してくださったのでした」

「相談が持ちかけられた翌月、ヘリコプターでみなかみ町の上空を飛んでいた時、絶滅危惧種である『イヌワシ』が、つがいで飛んでいるのが見えたと聞いています。その後、開発を止めるために、さまざまな調査や活動が始まりました」

「イヌワシは、豊かな自然がないと生きられない動物です。『イヌワシの棲む豊かな森を、しっかりと守らないといけない』とさらに気持ちを強くして、地域の方たちと共に活動を続け、2000年に二つあった開発計画は中止されました」

食物連鎖が途絶えた暗い人工林では、
イヌワシの十分なえさがない

群馬県みなかみ町「赤谷の森」で撮影されたイヌワシの様子。(撮影:上田大志)

豊かな自然の象徴ともいえるイヌワシは、北半球の高緯度地域に広く分布しており、草原などの開けた環境を本来の生息地とする大型の猛禽類です。日本に生息するイヌワシ(亜種:ニホンイヌワシ)は、森林も利用する世界的に珍しいイヌワシで、開けた森があり、えさとなる生き物が十分にいる場所に生息するといいます。かつては九州から北海道に分布していたものの、現在の生息地は本州の山岳地域だけに減少しており、絶滅危惧種に指定されています。

イヌワシの数が減っている理由の一つは「えさの不足と考えられる」と原田さん。

「1940年代以降、戦後復興下で木材が不足し、拡大造林政策によって自然林を伐採してスギやヒノキなどの針葉樹がたくさん植えられました。自然豊かな森が減り、人工林が日本各地に広がったのです」

「木をしっかり活用し、森を管理できていればよかったのですが、やがて海外から安い木材が入ってくるようになり、日本産の木材の需要は減りました。手入れが行き届かず、木々が密集した人工林では、翼を広げると2メートルもあるイヌワシは、獲物を捕らえることができません」

2020年に赤谷の森で巣立ったイヌワシ幼鳥(雄)。地元小学生に「ミライ」と名付けられた。(撮影:上田大志)

「自然の生き物は皆、生態系の中でつながって生きています。イヌワシは生態ピラミッドの頂点に存在する生き物ですが、木の下の植物や生き物たちには日光が当たらず、そこに生息する植物や、えさとなる生き物自体が乏しくなります」

「イヌワシの姿が見られることはすなわち、生態ピラミッドでその下にいる生き物たちもたくさんいる、豊かな自然があるということを意味するのです。イヌワシの存在を豊かな森の指標として、手入れの行き届いていない人工林を、時には伐ることもしながら自然の森に戻し、人の生活も豊かにできるようにと活動しています」

現在は、みなかみ町における自然と人間社会の共生を目的とした「赤谷(あかや)プロジェクト」に関わり、行政と民間、私たちが協働で、生物多様性の復元、持続可能な地域づくりを進めています。

「自然はすべて、つながっている。
生物の多様性を知って」

みなかみ町の豊かな自然。赤谷の森で、豊かな自然を見守るカモシカ

自然と人間社会の共生を目的とする取り組みが評価され、2017年6月に、みなかみ町は「ユネスコエコパーク(生物圏保存地域)」に登録されました。

「30年前にはリゾート開発計画が上がっていた町で、自然と人間社会との豊かな共生への取り組みが認められたのです。自然との共生が町の価値につながり、そこを魅力に感じて、みなかみ町に移住する人も出てきています。みなかみ町のブランドを生かしたものづくりや、地域の子どもたちへの環境教育も積極的に行われています」

「守ってきた自然とその恵みがこの町の観光資源となり、地域の方たちが中心となって、前向きな町おこしが進んでいます。このような事例が、全国にもっともっと増えていくといいなと思います」

1970年代から実施している「自然観察指導員講習会」。「自然を守る人材育成も、大きな活動の一つです」

「SDGsやサステナブルへの関心が高まっている中で、生物多様性の大切さについては、まだ注目度が低いと感じます」と原田さん。


「僕自身、以前は『なぜ自然を保護するのに木を切るの?切らない方がいいんじゃないの』と思っていましたが、自然に囲まれた日本で今起きていることや、山や里、川、砂浜、海…自然はすべてつながっていること知ると、一つひとつの問題を、それぞれぶつ切りで対応しても解決しないということがよくわかります」

「多様なつながりがあるからこその自然の豊かさを知ってもらい、生き物や生物多様性に興味を持ってもらえたら嬉しいです。人の生活もまた自然の一部であり、自然は僕たちの生活基盤。守っていかなければならないものです」

団体の活動を応援できるチャリティーキャンペーン

チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は、4/17〜4/23の1週間限定で「日本自然保護協会」とコラボキャンペーンを実施、オリジナルデザインのチャリティーアイテムを販売します。

JAMMINのホームページからチャリティーアイテムを購入すると、1アイテム購入につき700円が団体へとチャリティーされ、より多くの人に自然体験を届け、自然を知ってもらうきっかけを作るため、家庭の事情から自然となかなか触れ合う機会のない子どもたちをはじめ、一人でも多くの子どもたちに自然体験を届けるための資金として活用されます。

1週間限定販売のコラボデザインアイテム。写真はTシャツ(700円のチャリティー・税込で3500円)。他にもバッグやキッズTシャツなど販売中

JAMMINがデザインしたコラボデザインには、雄大な自然をバックに、イヌワシの気高い姿を描きました。生態系の頂点であるイヌワシが自然を見つめる姿は、豊かな生態系が今まさにここにあり、未来にもずっとつながれていってほしいという願いが込められています。

JAMMINの特集ページでは、インタビュー全文を掲載中。こちらもあわせてチェックしてみてくださいね!

・「自然の力で、明日をひらく」。自然と人とが共に生きられる社会を目指して〜公益財団法人日本自然保護協会

「JAMMIN(ジャミン)」は京都発・チャリティー専門ファッションブランド。「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週さまざまな社会課題に取り組む団体と1週間限定でコラボしたデザインアイテムを販売、売り上げの一部(Tシャツ1枚につき700円)をコラボ団体へと寄付しています。創業からコラボした団体の数は400超、チャリティー総額は8,000万円を突破しました。

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