2020年度に殺処分された犬猫の数は23,764頭(環境省発表)。年々その数は減り、10年前と比較すると10分の1にまで減少しましたが、まだ課題が残っています。岡山で譲渡対象にはならない「殺処分対象」の犬たちを保護して、本来の命を輝かせるべく活動するNPOがあります。(JAMMIN=山本 めぐみ)

殺処分一歩手前の犬をレスキュー

収容された犬。「収容されている仔の瞳は不安と悲しみでいっぱいです」

NPO法人「しあわせの種たち」は、岡山県動物愛護センターの登録ボランティア団体として県の譲渡事業を協働しながら、主に殺処分対象となった犬猫を保護し、新しい里親につなげる活動をしています。2014年に個人で活動をスタートし、2016年にNPOを設立。これまでに約400頭の殺処分対象だった犬猫を保護・譲渡してきました。

「小型犬や子犬、純血種や健康で人馴れした仔は譲渡しやすく、命がつながります。しかし、咬む犬、暴れたり威嚇したりする犬、人馴れしていない野犬、病気やケガのある犬、高齢犬などは収容された際に譲渡対象にならず、殺処分の対象となってしまいます」と話すのは、団体を立ち上げた理事長の濱田一江(はまだ・かずえ)さん(65)。

「殺処分対象の仔たちは、誰かが引き出してやらなければ殺されます。私たちが最後の砦となって保護し、現在20名の預かりボランティアさんとともに、常時30頭ほどを自宅で保護し愛情をかけ、ケアやトレーニングを行い、責任を持って次の飼い主さんへとつなげています」

「譲渡可」「譲渡不可」に振り分けられる犬たち

お話をお伺いした濱田さん。抱いているのは殺処分対象だった「太郎」。今は濱田さんの愛犬として幸せに暮らしている

動物愛護センターに収容された仔たちは、どのように譲渡か殺処分かが判断されるのでしょうか。

「収容されてすぐは、迷子犬の可能性もあるので飼い主さんの連絡を待ちます。昔はたった3日間でしたが、今は2週間の待機期間があります。2週間経ってもお迎えがなければ、その後どうしていくか、検査・審査されることになります」

「全身の健康チェック、飼いやすさをチェックされます。ここで『一般譲渡』『特別譲渡』『譲渡不可』のいずれかが判断され、そこにしたがって動いていくかたちになります。

『特別譲渡』については、何らかの問題はありますが、少し手をかけてあげたら譲渡できますよという行政の判断で、条件付で飼うことのできる仔たちです」

威嚇し咬みつくので、殺処分が決定していた柴犬の「愛」の収容当時(写真左)と、現在の姿(写真右)。「引き出して保護し、今は愛嬌たっぷり、甘えん坊の愛されキャラになりました」

「『譲渡不可』になる最も大きな理由は、咬む犬です。また『この仔は人馴れが困難だ』という判断をされた野犬も譲渡不可とされることがあります。激しく吠える仔や、認知症が疑われたり高齢で五感が衰えているために急に触られたことにびっくりして咬んでしまった仔、こわくて威嚇してしまった仔は、それだけで『この仔は咬む犬だ』とされて殺処分対象になってしまうのです」

「『咬むぐらい凶暴な犬を世に出すわけにいかんから殺処分や』ということです。だけど、本当に狂暴な犬なのでしょうか。物言わぬ仔たちに対して、なぜ咬むのかを察してあげる思いやりが必要なのではないでしょうか。たった一つの命なのだからもっと慎重に判断すべきだと思いました」

こわくて咬んだだけで「譲渡不可」。何の猶予もない犬たちのために

高齢の上、咬みつくとされ殺処分決定になった「じぃ太」。写真右は現在の姿。「心臓疾患を抱えながらも、現在は預かりママのもとで甘えん坊の可愛いおじいちゃんワンコに変身しています」

「犬が咬む理由は、『こわい』が大きい」と濱田さん。

「咬む犬や凶暴な犬というと人馴れしていない野犬をイメージする方も少なくないかもしれません。しかし野犬については、とにかく人がこわくて仕方がなくて、目を合わせることもできずにただ震えていて、それでも人間が触ろうとした時に、唯一身を守る方法として口が出てしまうこともあるのです」

「収容された野犬は、人が近寄ったり触ろうとするだけで、失禁、脱糞します。それぐらい怯えているんです。そもそも、殺処分機があり死と隣り合わせの環境は、犬たちにとっては恐怖でしかありません」

「そこから出してあげるだけで安心して、表情が全く変わります。しかし極限の恐怖の中で、身を守るために咬んだら『譲渡不可』と判断されて殺されてしまう。何の猶予もないんです。なぜ咬むのか、こわさを払拭してあげたら咬まなくなるのではないのかなというところを、民間である私たちが関わることで示していくことも大切なこと」と濱田さん。

「おやつをあげてみたり触ったりしながら、施設の職員さんに『ほら見て、この仔、咬まないよ。凶暴じゃないよ』というのを見てもらう。『この仔、こんなに優しくて賢い仔だよ』ということを限られた時間の中でアピールして、殺処分を回避します」

収容された犬を抱きしめるボランティア(写真左)。「こわくて口が出る野犬の場合は、タオルトレーニングで咬まなくなる仔がほとんどです」(写真右)

「ただ、殺処分を回避して特別譲渡になったとしても、こういった人馴れしていない犬はなかなか引き取り手も見つかりません。私たちは早い時点から『私たちが引き出さなければならない』という視点で、その仔との関わりを考えながら行動します」

「野犬は家族や仲間と集団で生活するため非常に社会性が高く、頭もよく空気を読みます。仲間たちの中で危険を排除し、安心できる環境を作って生きてきたので、危険や安全を察知する能力が非常に高い。なので、一度人を仲間とみなし、『ここは安全なんだ』と認識すると、目に見えて変わっていきます。ベストパートナーになれる存在だと思っています」

殺処分される仔たちを目の前に感じた怒りや無力さ

センターの内部の様子。「初めてセンターに足を踏みいれた時の衝撃は今でも忘れられません。首輪をつけた犬たちも多く収容されています」

濱田さんが初めて動物愛護センターに入ったのは2013年12月。「その時の衝撃は今でも忘れられない」と当時を振り返ります。

「犬舎に足を踏み入れると犬たちが一斉に鳴いて、それが『ここから出して、助けて』というふうにしか聞こえなかった。当時は、一度に何十頭もが殺される殺処分機が週に2回稼働していました」

「実際に殺処分される様子を見たことはありませんが、施設の犬舎には通路を挟むように犬が入る檻が並んでいます。スイッチを押すと自動で檻の前面が奥に動き、犬は檻に押されるように真ん中の通路に追い込まれます。さらに通路も後ろのステンレスの壁が前に向かって動き、犬はどれだけ抵抗しても、その先にある殺処分機に押し込まれていきます」


「殺処分機の中は二酸化炭素が充満し、2〜30分もがき苦しんで亡くなります。死んだ後はそのまま自動で焼却炉に流され、焼かれて骨になります」

「明日殺処分されるという仔たちの部屋では、みんなで体を寄せ合い、静かなかたまりになっていました。この仔たちは自分の命が絶たれることを知っているんだと思いました」と濱田さん。

処分機の中には二酸化炭素が充満しており、2〜30分苦しんだ末に死亡する

「私はそれを見て、身動きがとれなかった。『この仔たちを全員連れて帰ります』と言うと『犬舎にはいっぱい犬がおるんよ。この仔たちは救われても、また新たに収容されて、その仔たちは処分されるんよ。あんたどこまで連れて帰れるん?できないでしょう』とセンターの職員さんに返されました」

「今日この仔たちを連れて返っても、別の日にはまた殺される仔たちがいる。なぜこのようなことが起きているのかという理不尽さへの怒り、自分の無力さ…、しばらくは立ち直れませんでした」

「死んだ方が幸せ」と言われ、生かされるチャンスさえなかった

保護犬の「うー」。「人を見ると威嚇し唸って、手を出すと咬みつこうとする仔で殺処分対象となっていましたが、センターから引き出して家に連れて帰ったその日から、威嚇も咬みつきもなくなり、お笑い系のお茶目な仔になりました。これが本来の姿だったんだと思います」

「当時はセンターの方に何を訴えても、『この状態で、一体どうするん?なんぼ助けたって、どうせ殺さんといけん』という意識でした」と濱田さん。

「挙げ句の果てには『(人馴れしていない)野犬は、殺された方が幸せよ』と。『死んだ方が幸せ』なんて、誰が決めて、あなたたちは何を見てそれが言えるん?って思いました」

その後、動物愛護センターとの話し合いを重ねながら、2015年には岡山県知事に宛てて嘆願書も届けた濱田さん。

「センターとも何度も話し合いを重ねて譲渡事業を少しずつ進めていただき、野犬や病気がある、高齢であるなどの理由で、当初は『問題がある』とされて譲渡対象から外れていた仔たちも、期限付きではありますが『特別譲渡』の枠に入れ、里親募集をしてくれるようになっていきました」

「施設の職員さんもびっくりするほど明るくなった」

収容された犬たちにシャンプーをしているところ。「収容犬たちは生まれてから一度もシャンプーなどしてもらったことが無いかのような状態です。私たちはできるだけ快適に過ごさせてやりたくて、シャンプーのためにもセンターに通っています。人馴れしていない犬でもシャンプーしたら笑顔になってくれたり、ぐんと気持ちが近づくことがあります」

「ボランティアを始めてから最初の3年間は本当に闘いの日々でした。『よう喧嘩したよな』と笑い合える日がくるなんて、今でも信じられないくらいです」と濱田さんは話します。

「目の前にたしかにある命、その仔は懸命に生きているのに『助けてやりたい、引き出させてほしい』と訴えても『もう殺処分決定だから』と冷たく返されたこともありました。『この仔は今、ここで生きていて、目の前で聞いているんですよ!』って、怒りや無力感で身体が引きちぎられるようでした」

「その仔たちのことは、今も思い出しては涙が出るし苦しいです。重い十字架をいくつも背負って、今があるんです。いくら叫んでも訴えてもわかってくださらない、行政の方は処分した方が良いと思っているのだと思ったし、行政を憎みました。でも活動を始めて半年ほどで気づいたんです。『命を殺すことに日々携わる、職員さん方や業者の方々のその精神的な負担はいかほどだろうか』と」

センターから引き出しの日、甘えて職員さんに飛びつく仔。「暗かったセンター自体が、今はとても明るくなった」と濱田さん

「まず一番はセンターに収容された仔たちが生かされるために、行政側の考えや立場も尊重し、信頼を少しずつ築きながら、どう手を取り合っていけるかを何度も対話しました。行政側も努力してくださって、少しずつ良い方向に向かっていきました」

「何より今、センターはびっくりするほど明るくなりました。『こんな犬、一生かけても人に慣れんよ』と言っていた職員の方が、今は一生懸命犬を慣らしてくださって『こんなに散歩できるようになったんよ』と嬉しそうに教えて下さったりして。施設の中で笑顔が増え、皆やさしくなりました」

「一緒に暮らせることが、いかに幸せなことか。相手を思いやる心を、全国に届けていきたい」

「センターに収容中の仔や保護犬にお花をつけて可愛い写真を撮って、たくさんの方にこの仔たちの可愛さを知ってもらおうと始めた『tanetane.smil.project(たねたねスマイルプロジェクト)』。お花をつけるとみんな笑顔になるんです」

「活動を始めた頃、『あの素人は、どうしようもない犬ばっかり引き出す。譲渡しやすい仔を引き出せばいいじゃないか』という批判もありました。確かに素人であるのは間違いありません。でも私は、殺される犬をどうしても諦めきれず、誰にも見向きもされず消されていく命たちを1頭でも多く連れて帰りたかった」

「いちばんつらいのは、あの仔たちですから…。あの仔たちの命に私のつらさなんて関係ない。その思いはずっと変わらずあります。私がやめてしまったら、いちばんつらいあの仔たちはどうなるのか。自分がつらいなんていうのは何の理由にもならないんです」

「毎日彼らからたくさんの力をもらって、笑顔にしてもらっています。一緒に暮らすことで本当に生活が豊かになりました。そんな大きな支えとなってくれる存在と一緒に暮らせるということが、いかにありがたく幸運かを日々感じています」

「自分以外のものに対する『思いやりの心』を持つこと、『命を尊ぶ』ことを、この仔たちが教えてくれました。人間同士でも、また動物に対してや自然に対しても、『自分だけは特別』と思わずに、思いやりの心を持って、互いに輝きながら生きる地球をつくる一つのきっかけ、『しあわせの種』になってくれたらいいなと思っています」

団体の活動を応援できるチャリティーキャンペーン

チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は、「しあわせの種たち」と4 /11〜4/17の1週間限定でコラボキャンペーンを実施、オリジナルデザインのチャリティーアイテムを販売します。

JAMMINのホームページからチャリティーアイテムを購入すると、1アイテム購入につき700円が団体へとチャリティーされ、レスキューした保護犬の医療費や訓練費、また啓発活動のための資金として活用されます。

「JAMMIN×しあわせの種たち」1週間限定販売のコラボアイテム。写真はTシャツ(700円のチャリティー・税込で3500円)。他にもパーカー、バッグなど販売中

JAMMINがデザインしたコラボデザインには、いろんな仔たちのやさしくリラックスした表情を描きました。一頭一頭が尊く輝くいのち、一頭一頭が未来に大輪の花を咲かせる「しあわせの種」たち。そんなメッセージを表現したくて、それぞれのいのちと共に、やさしく咲く花を描いています。

JAMMINの特集ページでは、インタビュー全文を掲載中。こちらもあわせてチェックしてみてくださいね!

「みんな同等ないのち。生かされ、輝く道を」。殺処分対象となった犬たちを保護し、新しい里親につなげる〜NPO法人しあわせの種たち

山本めぐみ(JAMMIN):
「JAMMIN(ジャミン)」は京都発・チャリティー専門ファッションブランド。「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週さまざまな社会課題に取り組む団体と1週間限定でコラボしたデザインアイテムを販売、売り上げの一部(Tシャツ1枚につき700円)をコラボ団体へと寄付しています。創業からコラボした団体の数は400超、チャリティー総額は7,000万円を突破しました。

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