神奈川県横浜市で母やこれから母になる人のために、出産や子育てに関する講座やワークショップ、「第二の実家」と呼べるような場を作り続けてきたNPOがあります。昔ながらのお産が減り、ネットにはさまざまな情報があふれかえっている今、「出産や子育ての孤立化は加速しているのではないか」と現状を危惧します。(JAMMIN=山本 めぐみ)

「生きるとは、触れ合うこと」。「第二の実家」のような居場所を運営

子ども3人背負う。「毎日しっちゃかめっちゃか、今日も生き抜いたことにハナマル!工夫できることも、どうにもならないことも、部活のように先輩から学び、後輩に伝える文化が、ここにはあります」

NPO法人「Umiのいえ」は、「いのち・こころ・からだ・暮らしの学び合いの場」として、出産や子育て、食、健康、住まい、親子、遊び、文化、支援など、いのちにつながるあらゆる講座やワークショップ、語り合いの場を企画・開催してきました。

「団体の理念は『産む・育つを応援する』、ビジョンは『産んでよかった・生まれてよかった・生きていてよかったと思える社会をつくる』。これらの実現のために、こころやからだと向き合う時間を持ったり、環境に負荷をかけない暮らしを学びあう場を運営しています」と話すのは、スタッフの上村聡美(うえむら・さとみ)さん(43)。

お話をお伺いした齋藤麻紀子さん(右)と上村聡美さん(左)

出産や子育てが活動のベースではあるものの、「Umiのいえ」は出産や子育ての有無に関わらず多様な人たちが混ざり合い、関わり合う場だといいます。コロナ禍で対面でのイベントの開催は難しくなったものの、「直接会うことができて、話し、感じることができること、関係が長く続き、互いの悩みや喜び、成長を分かち合える場所があるということがいかにありがたく素晴らしいことか」と話すのは、代表の齋藤麻紀子(さいとう・まきこ)さん(53)。

「私たちは度々『生きるとは、触れ合うこと』というフレーズを口にしてきました。深いところで関わり交わること、五感で感じること…、そういう世界を失くしたくはない。そう思いながら活動を続けています」

「母はいのちの起点であり、すべての根源」

「赤ちゃんだった日々を超え大きくなると、無条件に愛することが難しくなってくる。子どもを通して自分の心に向き合わされる。家の中もぐちゃぐちゃ。泣いて怒って笑う。その繰り返しで母は強くなる」

以前より、産科医療のあり方についても発信をしてきた齋藤さん。

「少子高齢化が進む中、出産や子育てに関しても、人々はどこか効率化を求めているように感じます」と現状に警鐘を鳴らします。


「私たち一人ひとりがそうであるように、赤ちゃんにも、その子なりに魂のありようがあって、生まれてくるタイミングひとつにしても、スピードの早い子もいれば時間をかけたい子もいます」

「しかし、『医療の安全』のもと、平日の日中の分娩が多くなりました。潮の満ち引きや気圧、満月にいざなわれるような自然体で痛みと共にある『待つお産』は、今や貴重かつ希少になってきました。授乳ですら時間を決められていて、かつてあった『授乳はその子のリズム。赤ちゃんがほしがるときに、好きなだけ』という教えも、薄らいでいるように感じます」

「『自分の出産なのに、自分で決められない』という課題は変わらずあります」と齋藤さん。

「抱いて抱いて大きくなった。育児は『抱っこ』の仕方で変わることを実感。抱っこやおんぶが快適にできるようにお伝えしたいと思っています」

「自分で決めたとしても、腑に落ちているわけではない。流行や『これが普通』といわれることに乗るしかない。出産に限らず介護などでも言えることですが、対応や治療になんとなく違和感を持ちつつ、かといってどうして良いのかわからないまま、やがて管理下に置かれコントロールされていってしまうような脆弱さを感じています」

「自分のいのち、自分の人生なのに、自分で決められない。本当にそれでいいのでしょうか。それは、人間の力を奪うことではないか。ちゃんと教え、導く寄り添いがあれば、女性はどうしたいのかを選択する力をもっているはずです」

「医療だけでない、保育園や学校教育においても『何かおかしい』と不安や疑問を感じることがあっても、それを口にすることは勇気がいる。訴えたり闘ったりする方がしんどいと感じる。だから皆、なるべく感覚を無視して不感症になって、それを見ないようにしてきたようなところがあると思います」

「だけど本当に、それで良いのでしょうか。違和感を口にしなければ、医療も教育も、社会の価値観は変わっていきません。子どもたちの世代に、どんな未来を繋いでいきたいか。大人たちが声をあげていくほかにないんです。『それは本当に必要?』と感じることを声に出すことが普通な時代をつくりたい」

子に温もりと安心を与える、圧倒的なお母さんの役割

「子育てはくたびれる。とにかくくたびれる。たまには、お手当てされて横になろう。身体を整えよう」

「母親の役割って地味なんです」と二人。

「抱っこしておんぶして、ご飯を食べさせ、遊ばせ、泣けば走っていって抱き上げ慰め、抱いてゆれて、時間をかけて子どもを眠らせる。予定通りにいかず非効率的で、逆らいようもなく訳も分からず、ただただ、小さな子を守る日々」

「誰に褒められるわけでもない、生産性のない自分を寂しく思う事だってある。でも、人ひとり守り育てるということは、そういうことなんですよね。昼間、誰かに保育してもらったとしても、夜、子どもは母をほしがる。眠るというのは、母。癒えるというのは、母。安心というのは、母なんです」

「平成生まれの人たちが続々と親になる。いのちはめぐり、父となる」

「もちろん、お父さんや周りの人の協力も重要です。でもお母さんは格別です。なぜ格別なのか。それは十月十日、いのちを包んでいたから。私たちは皆、お母さんの子宮の中で細胞分裂して身体を作りました。平らなところではなく、包まれた中で育ちました」

「お母さんの声やにおいを感じながら抱かれることは、赤ちゃんにとっては『ふるさと』そのものです。大きくなってもそれは変わりません。無条件に優しく温かく包まれること、それが『安心』であり『原点』であり、人としての『基礎』なのです。 安心という基礎があれば、子どもは遠くに飛びたつことができます。つまり『自立』です。自分で立てる、その力の根っこにあるのは『安心』なんです」

「子育てがどこか、他力本願になっていないか」

「Umiのいえでは、子どもたちのケンカを止めません。おもちゃの取り合いがはじまったら、大人たちは見守り、泣いたら抱っこしてなぐさめます。子どもたちは、また自然に遊び始めます」

「最近、子育てに関する情報やブームに『あれ?』と思うことが増えました」と二人。

「ネットの情報を批判や否定したいわけではありませんが、『簡単、安い、早い、楽』…、そんな言葉が乱立しています。確かに楽かもしれません。そのような情報がもてはやされるのもよく理解できます。だけど、出産や子育ては、そんなに簡単にはいきません。『楽』の次は『苦』もきます」

「だけど妊婦さんも産後のお母さんも、自分の『担任』がいない。だからSNSで調べて、検索上位にひっかかってくる情報を信じてしまう。産前産後、お母さん自身や子どもの成長の過程を承知して、見守ってアドバイスをする人が周りに誰もいないような状況があります」

「いのちに関わる専門職はたくさんいます。医師、看護師、助産師、保健師、母子保健コーディネーター、育児支援者…ほかにもたくさんの職業人が周産期にはいます。でも残念ながら、その関わりは点です。分断され連携が密ではありません。一人の人を継続してケアするしくみは、今や助産院以外は無いように思います」

「背守り刺しゅうや小さな繕い物から浴衣づくりまで、手仕事の会はUmiのいえ定番。子育てや夫婦の悩みもぶつぶつと、つぶやきながら手を動かす」

「私自身の経験からしても、子どもは、大人の『こうあるべき』とか『こうしなければならない』という概念をぶっ壊してくれる存在です。しっちゃかめっちゃかになって、『なんでこうなの』とか『うまくいかない』ということがたくさんあります」

「だけどそれを経験していくなかで、『自分とは』とか『この子とは』とか『我が家とは』みたいな本質的なところと向き合いながら根っこの部分を肯定的に体得し、強く育てていけるような気がするんです」

「自分の存在をもう一度受け入れ直すためにも、子どものカオスがあるんだと思うんです。だから私たちは、子育てのしっちゃかめっちゃかを肯定して、受け止められるような活動をしていきたいと思っています」

悩みや空間を共有・共感することで、厚みが生まれる

「何度も一緒に遊んで過ごせば、大人と子どもも友達になる。自分の子だけでなく、みんなでみんなの子を見守りあう。我が子ではないけど、くっついてきた子に、自然と触れてたくなったひととき」

「うまくやっている人の、さらにうまくやれている面だけを切り取って目にしてしまうと、どんどん本質から外れていってしまう」と二人。

「そこを否定するわけではありませんが、いのちや自分自身から向き合うことと離れていってしまうようなところがあるように感じます。Umiのいえではさまざまなイベントで、多様な人たちが集まって、それぞれの悩みや感情、過去、失敗…いろんなことを共有しますが、それは自分を相対的に見つめることにもつながります」

「人間の心と体は時間がかかって当たり前。てこずって当たり前だし、手がかかって当然なんです。『子育てがうまくいかない』という声を聞きますが、その時には『うまくいかないから順調ですね』という話をします」

「次世代を担う看護学生・助産師学生さんの実習も受け入れています。若い彼女たちと、お母さんたちの会話も楽しそう」

「皆でシェアしたことが、またその人の養分となって、その人自身が自分と向き合うきっかけになっていきます。しんどい、つらい、その思いを、面と向かって共有して、共感してもらうことは、インターネットで得られる情報と比べものにならないほど厚みがあります」

「悩んで悩んで試行錯誤して、あきらめたりあきらめなかったり、ボロボロになりながら自分のスタイルを見出していく。同じことを繰り返し繰り返し、来る日も来る日も誰かの世話をして、季節と共に生活をしていく」

「そういう地道な積み重ねが、ぎゅるぎゅると根をのばし水脈(気づきや喜び)にぶち当たる。水脈は横にもつながって、同じように苦労を重ねてきた人と、言葉なくとも共感でつながる。それが揺るぎない支えとなるんです。地味であり地道なことこそ、バンザイ!なのです」

「『どうしてうまくいかないんだろう』と悩むんだけど、いろんな人の話を聞く中で、それぞれできないことに対する許容が生まれていく。見えないところで根を張って、風の日も雨の日も倒れずにそこにある、しなやかさが育っていくことを願っています」

団体の活動を応援できるチャリティーキャンペーン

チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は、「Umiのいえ」と5/30〜6/5の1週間限定でコラボキャンペーンを実施、オリジナルデザインのチャリティーアイテムを販売します。

JAMMINのホームページからチャリティーアイテムを購入すると、1アイテム購入につき700円が団体へとチャリティーされ、団体の活動のための資金として活用されます。

「JAMMIN×Umiのいえ」1週間限定販売のコラボアイテム。写真はTシャツ(700円のチャリティー・税込で3500円)。他にもパーカー、バッグなど販売中

JAMMINがデザインしたコラボデザインには、深く根を張り、動じず真っ直ぐに伸びる一本の木を描きました。晴れの日も風の日も、雨の日も雪の日も、時のうつろいを全身で感じながら、そこにしなやかに存在し続ける木。

一人の経験や感情、時間が養分となり、根っことなって大きく伸びていくという意味合いと、愛おしい人たちとのつながりもまた、根っことなり人を大きく強く成長させるという意味も込めました。

JAMMINの特集ページでは、インタビュー全文を掲載中。こちらもあわせてチェックしてみてくださいね!

「世界平和の根っこは、母にある」。お産や子育てを通じ、いのちやこころ、からだやくらしの「根を持つことに戻る」を発信〜NPO法人Umiのいえ

山本めぐみ(JAMMIN):
「JAMMIN(ジャミン)」は京都発・チャリティー専門ファッションブランド。「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週さまざまな社会課題に取り組む団体と1週間限定でコラボしたデザインアイテムを販売、売り上げの一部(Tシャツ1枚につき700円)をコラボ団体へと寄付しています。創業からコラボした団体の数は400超、チャリティー総額は7,000万円を突破しました。

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