所有から共有(シェア)へと言われて久しいが、その動きをまとめた本が8月19日に発売される。『サーキュラー・エコノミー 企業がやるべきSDGs実践の書』(ポプラ社)だ。著者は一般社団法人サーキュラーエコノミー・ジャパンの中石和良代表理事。本書では、ミシュラン、グッチ、アディダス、アップルなど、各業界を牽引する最先端企業によるサーキュラー・エコノミーの事例などを紹介している。作って捨てる一方向型経済から、使い続ける循環型経済を目指すことは、選ばれ続ける会社になるための「成長戦略」と言い切る。発売に先駆け、本書の一部を紹介する。(オルタナS編集部)

著者の中石和良さん

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” open=”no” style=”default” icon=”plus” anchor=”” class=””]いま、私が注目していることのひとつに、モノからサービスへの提供への切り替えがあります。スウェーデンの家電メーカー、エレクトロラックスが始めたロボット掃除機のサービスについて紹介しましょう。

エレクトロラックスはストックホルムに本社を置く、創業100年を超えるヨーロッパ最大の家電メーカー。ノンフロン冷凍冷蔵庫を世界で初めて発売したことでも知られ、日本でも商品を購入することができます。

エレクトロラックスが提案するのが、「掃除機を売る」のではなく、「掃除をするサービスを消費者に提供する」こと。消費者に掃除機をレンタルし、掃除した面積に応じて料金を請求するようにしたのです。

ある一定期間、製品を借りて使うサービスとしては、日本では複写機やIT機器のリースやレンタルが一般に知られています。また、クルマなどをシェアするカーシェアも今ではお馴染みとなりました。

しかし、これらはどれも、「製品自体が高額で購入するにはハードルが高い、もしくは使用頻度がそれほどでもないために、必要なときに借りられればよい」という発想で成り立っています。
 
しかし、エレクトロラックスは掃除機という、比較的購入しやすく、使用頻度も非常に高い製品で、消費者にサービスを提供するビジネスを始めました。この試みがリリースされたのは、2019年です。私は最初「果たしてビジネスとして成立するものなのか」と疑問に感じました。ただ詳細を知って「なるほど、こういうことか」と感心したのです。

『サーキュラー・エコノミー 企業がやるべきSDGs実践の書』(ポプラ社)

考えてみると、私たちは掃除機というモノが欲しかったのでしょうか。カッコ良く、速いクルマには所有する喜びというものがありますが、掃除機は違うのではないでしょうか。「所有」よりも、部屋をきれいにするための「機能」や「性能」を第一に求めていた、エレクトロラックスはそうした私たちの真のニーズに応えようとしたのです。

もちろん、エレクトロラックス側にもメリットがあります。掃除機を売却するのでなく、所有権を自分たちが持ったまま貸すという仕組みにしておけば、丈夫で長く使える耐久性がある掃除機を作り、修理や整備をしながら複数の借り手に長期間貸すことができます。その点において、1台あたりの生産のコストパフォーマンスを高めることができます。

レンタルする掃除機には、インテリジェント・センサーというデータ処理機能やメモリー機能を内蔵したセンサーを付けています。これは掃除した面積を記録するためですが、このセンサーがあることで、その借り手がどのくらいの頻度で掃除をしているのか、掃除をする場所はフローリングが多いのか、どの部屋が多いのかといった情報も一緒に集まってきます。

これがエレクトロラックスにとっては、今まで知ることのなかったユーザー行動のデータとなり、次の製品開発に生かすことができるのです。

つまり、単純に製品を購入してもらうのではなく、サービスを提供することでビジネスが広がっていく可能性を入手することができるのです。

ビジネスの根底には、有限な資源を無駄に使わず、その資源を循環させながらとことん使い続けるという考え方があります。さらに、そこにデジタル技術を組み合わせることで、最大限の効率性と企業メリットを生み出します。

これがサーキュラー・エコノミーの考え方のひとつです。サーキュラー・エコノミーとは、日本でもよく知られるようになったSDGs(持続可能な開発目標)を達成するための実践的な考え方となります。具体的な方法論として、世界の多くの先端企業が意識して取り組み、そのいくつかを著書『サーキュラー・エコノミー』でも紹介しました。

今、誰もが知っている名だたるグローバル企業が、従来の大量生産・大量消費の経済システムに終止符を打ち、こぞってこのサーキュラー・エコノミーへ移行し始めています。と同時に、画期的な新製品や魅力的なサービスが生み出されています。まさに、新たな経済システムへのパラダイム・シフトが世界で起こっているのです。(同書より抜粋して紹介)

『サーキュラー・エコノミー 企業がやるべきSDGs実践の書』(ポプラ社)

【著者略歴】
中石和良(なかいし・かずひこ)
松下電器産業(現パナソニック)、富士通・富士電機関連企業で経理財務・経営企画業務に携わる。その後、ITベンチャーやサービス事業会社などを経て、2013年にBIO HOTELS JAPAN(一般社団法人日本ビオホテル協会)及び株式会社ビオロジックフィロソフィを設立。欧州ビオホテル協会との公式提携により、ホテル&サービス空間のサステナビリティ認証「BIO HOTEL」システムを立ち上げ、持続可能なライフスタイル提案ビジネスを手掛ける。2018年に「サーキュラーエコノミー・ジャパン」を創設し、2019年一般社団法人化。代表理事として、日本での持続可能な経済・産業システム「サーキュラー・エコノミー」の認知拡大と移行に努める。