◆大自然と共に「究極の農場」を作る、8年間の夫婦の奮闘を追った奇跡のドキュメンタリー

殺処分寸前で保護した愛犬のトッド。その鳴き声が原因で大都会ロサンゼルスのアパートを追い出されたジョンとモリー。料理家の妻は、本当に体にいい食べ物を育てるため、夫婦で郊外へと移り住むことを決心する。しかし、そこに広がっていたのは200エーカー(東京ドーム約17個分)もの荒れ果てた農地だった――。時に、大自然の厳しさに翻弄されながらも、そのメッセージに耳を傾け、命のサイクルを学び、愛しい動物や植物たちと未来への希望に満ちた究極に美しい農場を創りあげていく――。自然を愛する夫婦が夢を追う8年間の奮闘を描いた感動の軌跡。(Lond共同代表=石田 吉信)

映画「ビッグ・リトル・ファーム」

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とにかく、自然の美しさに圧倒され、感動させられる作品であった。
この夫婦が作っているのは農場だが、僕にはミニチュア版地球というのか、自然そのものを作っているように思えた。

多様な生物が共生し、絶妙なバランスで循環するその生命の流れは直感的に美的感覚に訴えかけ、感動させるものがあった。

「生物多様性」「食物連鎖」「循環」などの言葉は〈気候変動〉改め、「気候危機」の文脈でよく知っているつもりでいた。サーキュラーエコノミー〈循環型経済〉なども最近よく耳にしていた。

しかし、僕はこのドキュメンタリー「ビッグ・リトル・ファーム」を観て、「生物多様性」「食物連鎖」「循環」というものがどういうことなのか、全然知らなかったことに気付かされた。言葉の意味やその仕組み、体系だけでなく、映像で観て初めて理解できるものがそこにはあった。

アルベルト・アインシュタインが「自然を深く観察しなさい。そうすれば、すべてのものをもっと深く理解できるでしょう。」と妻を亡くした友人に書いたその文の通り、多種多様で複雑な循環が、均衡が、調和が、映画を通じて自然の中にたくさん見出すことができた。

「キーストーン種」というのを聞いたことがあるだろうか?

ある地域の生態系の食物連鎖や食物綱において、「この生物がいなくなると生態系の全体のバランスが崩れてしまう」というキーパーソン的な、重要な種がいる。

具体例で知るとイメージしやすいだろう。
例えば、乱獲や海洋汚染により「ラッコ」が今絶滅危惧種になっているようだが、「ラッコ」が減るとその餌である「ウニ」が増える、そしてジャイアントケルプなどよコンブなどに影響が出る。

そうすると、この食物連鎖の生態系を超えて、そのジャイアントケルプというコンブを住処としていた生物にも影響が出てくる。他にもオオカミ、アフリカゾウ、ヒトデなど。それとキーストーン種で有名なのが「ハチ」だ。

ハチは、ハチミツを作るだけではなく、私たちの食べ物の3分の1の受粉係。このままミツバチがいなくなれば、私たちの食の未来も危ぶまれる。国連環境計画(UNEP)が「世界の農産物の6割以上がハチによって受粉されている」と報告書も発表している。

その大切なハチがネオニコチノイド系農薬によって大量にしんでいる。日本だと田んぼで多くのハチが死んでいるという情報をグリーンピースジャパンの記事で読んだが、ネオニコ系の農薬をカメムシ退治のために使っている。

カメムシにより斑点米(着色粒)というお米に茶色が混じってしまうのが原因のよう。米の等級がその含有量で決まるようである。しかし、斑点米が味にも健康にも影響がない中、野菜の形とか同様、消費者があまりに綺麗なものを求めすぎることがこのような事態を招いている一因なのかなと思う。

「買い物は投票」とよく言われるように、過剰包装の問題と同じく、消費者が求め過ぎないことがこれからの持続可能な生き方として大切なのだと思う。

また、農家さんの手間賃を考えて、少し高いお金を払ってでも無農薬のものを選ぶということをすることによって、農家さんも農薬を使わずにチャレンジしやすいのではないかと思う。ちなみに、ヨーロッパ(EU)ではネオニコ系の農薬はミツバチへの影響により2018年に禁止されている。

日本全体の経済的な面を見ても、国立研究開発法人・森林総合研究所がUNEPの報告書を受けて「花粉を運ぶ昆虫などが日本の農業にもたらしている利益は、日本の農業産出額の8・3%、およそ4700億円に相当する」として、花粉媒介生物の減少は農業生産の減少や生産コストの増加に結びつくとの報告書をまとめているよう。

キーストーン種の話は劇中では出てこないが、自然農園を進める中で、果実を大量発生した鳥が食べてしまったり、大量発生したネズミが木の根をかじってしまったり、様々な問題が生まれる中で、その解決策は「その捕食者が現れること」であった。

そうして、均衡、調和が生まれるのである。そして、それぞれの動物のフンでまた健康的な土や植物が循環する。言葉では本当伝えきれない。

是非ともその調和の様を映像で観てほしいと思う。そのキーストーン種だけでなく、「自然の循環の中で生態系が崩れる」というのがいかに多様な生物に影響を与えるのか、ということをまざまざと感じさせられたのである。

そこで思い出したのは、人間の活動による絶滅危惧種の増加だ。ここも深掘りすると既に長くなってしまったレビューが更に長くなってしまうので、WWFに掲載されていた文章だけ引用すると、「2019年7月19日、IUCN(国際自然保護連合)は絶滅の危機にある世界の野生生物のリスト「レッドリスト」の最新版を公開しました。この最新のリストで、絶滅危機種とされた種の数は28,338種」とのことである。

肉食の需要による工業型畜産の発展やパームオイルのプランテーションなどによる森林伐採によって、生態系が壊されて世界的な問題になっているのは有名だ。

ドキュメンタリーの冒頭、また最後の方に、森林火災のシーンがあるが、カリフォルニアだけでなく、オーストラリアなどでも気候変動による自然発火が問題になっている。

森林だけでなく、海の温度も2019年には最高温度を記録している。海の生態系もサンゴ礁を始め、どんどん崩れていっている。

劇中、ただ食べて眠るという単純なライフサイクルを過ごすだけで、動物も昆虫も微生物も全てに役割と意味があった。

この調和された地球上で、私たち人間の役割や意味は何だろうか?
私たち人間はこれから先の未来、どのように生きていくべきだろうか?
私たち人類の「強欲」と「無関心」は地球全体の生態系を崩し切り、気候変動で人間社会が成り立たなくなるまで留まることはないのだろうか?

それらの問いの答えであろうヒントが、このドキュメンタリーには随所に見つけられるはずだ。
是非、生物存続の過渡期となる2020年代初頭の今鑑賞してみてほしい。

そして、可能であればこの映画を是非とも全国公開してほしいと切に思う。

ビッグ・リトル・ファーム

石田吉信:
株式会社Lond代表取締役。美容師として都内3店舗を経て、28歳の時に異例の「専門学校のクラスメイト6人」で起業。現在銀座を中心に国内外、計22のサロンを運営中。1号店のLondがHotpepper beauty awardで4年連続売り上げ全国1位を獲得。「従業員第一主義」「従業員の物心両面の幸福の追求」を理念に、70%以上という言われる高離職率の美容室業界で低離職率(7年目で160人中5人離職)を実現。また美容業界では未だほぼ皆無であるCSR、サステナビリティに向き合い、実践の傍ら普及にも努めている。instgram
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