第6回 SDGs学生小論文アワード表彰式
最優秀賞は東大・中島さん 「ローカルな結束力」でSDGsに貢献

住友理工は「第6回SDGs学生小論文アワード」を開催し、8月20日にオンラインで表彰式を開いた。小論文のテーマは「企業が持続的に成長するために、SDGs(持続可能な開発目標)にどう取り組めば良いのか?」。コロナ禍のなかで101本の論文が集まり、最優秀賞には、富山県高岡市の伝統産業における企業ネットワークの重要性を論じた東京大学教養学部2年の中島優成さんが輝いた。(堀 理雄)

「地域の力」に注目

第6回の受賞者たち、左上が最優秀賞の中島さん、上段中央が最優秀次席の久保田さん

第6回目となる今回は、社会・環境・経済が大きく変化するなかB2B企業やモノづくり企業がSDGsに取り組み、企業価値を持続的に高めるために何が必要かについて論文を募集。経営戦略の立て方や人事制度の整備、消費者やNPOなど多様なステークホルダーとの関係性など、独自な視点による提案が寄せられた。

住友理工の清水和志社長は「2015年に国連でSDGsが採択されて5年がたち、多くの企業がそれを経営の根幹に据えるなか、今回からアワード名に『SDGs』をつけて開催した。寄せられた論文には我々が気付かない多くの提案が含まれており、真摯に受け止めて経営に反映させていきたい。一緒に社会の発展に取り組んでいきましょう」と話した。

最優秀賞を受賞した中島さんの論文「『ローカルな結束力』をいかした企業集積モデル」では、SDGs第9の目標「産業と技術革新」に着目。イタリアでの伝統工芸の発展を事例に、富山県高岡市の鋳物産業や中小企業の取り組みを論じた。

外部からの人材や他企業・研究機関との連携が持続的な成長に不可欠と指摘。さらに技術やノウハウを伝えるローカルな企業ネットワークは持続可能性に満ちた理想的な形態だとした上で、連携を取り持つ「オーガナイザー企業」の重要性を提起した。

中島さんは「自分自身が地方出身であり、地域の力を前面に出して論じた。企業同士が強調しながらも刺激し合う『ローカルな結束力』がこれからの時代に重要」と述べた。

消費者や「農」の視点も最優秀次席には、慶応義塾大学商学部4年の久保田陸さんが選ばれた。消費者のニーズが多様化し、モノや資源が循環する社会の形成が求められる中で、「無駄」を「価値」に転換する「サーキュラー(循環)型経営志向」が重要だと指摘。それを持続的な成長につなげていくための企業行動を論じた。優秀賞は3組が選ばれた。

東京大学大学院農学生命科学研究科修士1年の岸本華果さんは、農業生産への従事や農産物消費などを通じ、人間と地球を尊重する「農」の視点を取り入れることが企業の持続的成長につながるとした。

奈良県立大学地域創造学部4回生の寺田紫衣真さんは、ひとり親家庭の学習ボランティアの経験から、採用面などを通じたひとり親支援の必要性を指摘。貧困やジェンダー、働きがいなどSDGsの諸課題への企業の取り組みに注目した。

法政大学人間環境学部3年の船橋玲志さん、高橋奏さん、黒澤明広さんは、モノの所有から利用、コト消費へと価値観が変化するなかで、消費者起点のビジネスモデル「消費者かんばん方式」を提案した。そのほか審査委員特別賞には、4組の論文が選ばれた。

未来像のカギはSDGsに

表彰式は初となるオンライン開催

論文の選考は、独自性、客観性、社会性、探求性の4基準で厳正な審査が行われた。審査委員長を務めた高村ゆかり・東京大学未来ビジョン研究センター教授は応募論文について、「SDGsを企業がどうビジネスに取り込むのか、真正面から論じていることが共通点」と講評した。

高村教授は講演のなかで、気候危機やコロナウイルス後の社会に企業がどう対応していくのか、国際的な動きを解説。その上で「長期的な視点から『ありたい未来像』を描き、経営戦略を立てるべき。その手掛かりがSDGsにある」と強調した。

表彰式では第2回アワード受賞者である森翔人さんと鎌田安里紗さんが、グローバルなサプライチェーンの課題に取り組むNGOや持続可能なアパレル業界に向けて活躍する現在の活動を紹介。受賞者の今後の取り組みにエールを贈った。

第6回 SDGs学生小論文アワード by 住友理工 表彰者一覧(敬称略)
最優秀賞
「『ローカルな結束力』をいかした企業集積モデル」
中島 優成(東京大学教養学部2年)
最優秀次席
「サーキュラー型経営思考」
久保田 陸(慶応義塾大学商学部4年)
優秀賞
「『消費者かんばん方式』が導く持続的成⾧への挑戦」
船橋 玲志、高橋 奏、黒澤 明広(法政大学人間環境学部3年)
「『農』のある企業」
岸本 華果(東京大学大学院農学生命科学研究科修士1年)
「企業が持続的に成⾧するために~貧困の負の連鎖を断ち切り雇用の創出も~」
寺田 紫衣真(奈良県立大学地域創造学部4回生)
審査員特別賞
「三位一体型まちづくりモデルの未来創造性」
木下 立也(北海道大学経済学部2年)
「利益の質を高めるハイブリッド・ガバナンス~新しき酒(SDGs)は新しき革袋(経営構造)に盛れ~」
中山 結子(法政大学人間環境学部3年)
「若手人材採用・育成で企業経営の持続性を実現する近未来人事戦略」
森下 瑠里花(お茶の水女子大学文教育学部3年)、森 祐太 (東京大学農学部3年)
「かけがえのない質の創出(Creating Unique Value)」
矢延 崚 (慶応義塾大学環境情報学部1年)、古瀬 達也(京都大学文学部2年)