2020年に向けて導入が進む次世代通信システム「5G」。ネットワークが超高速になるため、動画を読み込む速度が飛躍的に上がり、記事に比べて動画が圧倒的に有利な環境になる。記事のあり方はどうなるのか。経済メディア「NewsPicks(ニューズピックス)」の佐々木紀彦CCO(最高コンテンツ責任者)は、「人を起点にした記事」を作ることが重要になると言う。どんな記事なのか。(聞き手・オルタナS編集長=池田 真隆)

インタビューを受ける佐々木CCO。昨年4月に3年9カ月務めた編集長を退任してCCOに就任した=1月10日、都内で

――5G時代の記事のあり方はどうなるとお考えでしょうか。

佐々木:動画革命が起きると言われていますが、もちろん活字の記事も共存します。ただし、記事を作る際には、文字だけでなく、映像や写真を組み合わせていくことがこれまで以上に大切になります。記事は物事を論理的に伝えるためには効率が良いのですが、その人の情熱や個性などを伝えるには不十分なところがありますので。

例えば日産自動車前会長のカルロス・ゴーンさんが拘留中に体重が10キロも落ちたというニュースがありました。その様子をイラストで伝えたメディアもありましたが、もし写真や映像を使えたならば、それだけでニュースバリューが一気に高まったはずです。文字でゴーンさんの心労を書くよりも断然インパクトがあります。

文字だけでなく映像などを駆使して、読者と最も効率が良いコミュニケーションを取ることがメディアには求められます。

効率を考えるとネットによりがちですが、個人的には直接会って対面で話すことに勝るものはないと思っています。オンラインだけで完結するのではなく、オフラインでの取り組みもメディアには必要です。

――NewsPicksは立ち上げ5年で有料課金読者数8.2万人(2018年9月末時)、2018年1月~9月の売上高は前年同期比93%増の約21億円と急成長を遂げています。「経済ニュース」を分かりやすく伝えることでミレニアル世代(1980年以降の生まれ)などを中心に支持を集めています。分かりやすく伝える秘けつは何でしょうか。

佐々木:経済の語源は中国古典の「経世済民」です。つまり、世を治め、民を救済するという意味です。英語の「エコノミクス(経済学)」の語源もギリシャ語の「オイコノミクス」で、意味は「共同体のあり方」です。それぐらい経済というのは幅広いものなのです。日々の買い物も経済ですからね。

わかりやすく伝えるための一つのカギは、人と紐づけることです。この人が話しているから聞いてみよう、この人の話なら努力して理解しよう、というモチベーションがまず大切だと思います。

NewsPicksでは、アップデートをコンセプトにしたライブ動画番組「WEEKLY OCHIAI」を配信しています。これまでに、資本主義や日本財政、自由などさまざまなテーマを議論してきましたが、普段考えたことがないテーマでも、落合陽一さんが話すから聞いてみたいと思う人が増えています。

好きな人から教えてもらった情報ならどんな内容でも興味がわいてくるはずです。そのような感覚と同じで、記事を書いた人やその記事を教えてくれた人のバックグラウンドを知っていると、コミュニケーションの一環として記事を受け取ることができるでしょう。小さい頃に、好きな先生の担当科目が、得意科目になったのと似ていますね。

――情報の発信者は顔を出していくことが重要なのですね。分かりやすくするために記事の切り口や内容で工夫していることはありますか。

佐々木:全体感を持って伝えていくことが大切です。「鳥の目」と「虫の目」を意識することです。例えば、前期比10%増の売上高を記録したA社があるとします。そう聞くと一見好調のように思えますが、その業界の成長率の平均が2倍だとしたらA社の見方は変わりますよね。

この全体感は、文字数が短いSNSの投稿ではなかなか伝えづらいところがあります。むしろ、全体感を伝えるのに適しているのは書籍なので、今後は本の価値が見直されていくと見ています。実際、米国では紙の本の人気が回復してきています。

ビジネスを通じた社会貢献した人物を表彰する「シーバスリーガル ゴールドシグネチャー・アワード 2019 presented by GOETHE」で受賞した佐々木さん、中央はネクシィーズグループの近藤太香巳社長とビームスの設楽洋社長の代理で登壇した鳥塚寧取締役=1月10日、都内で

―― 一般的に「特ダネ」は「他紙が後追いするネタ」といわれています。そのため、各社は先に抜かれないためにしのぎを削っています。ですが、NewsPicksが配信するコンテンツは独自ネタが多くあり、大手新聞社が考える特ダネとは違うような印象を受けます。NewsPicksでは特ダネをどのようにとらえていますか。

佐々木:新しい事実を追っていないわけではないのですが、明日まで待てば出てくる情報を1日先に出すことにあまり意味は感じません。どちらかというと、ストレートニュース(一つの物事を伝える記事)に力をかけるよりも、当事者の言葉や世の中の動きを深掘りして、洞察した記事が多いですね。いわば、「インサイト」を提供しています。

NewsPicksでは、あらゆる記事に対して、ビジネスパーソンだけでなく、研究者やアーティストなどさまざまな立場のユーザーやプロピッカーが意見します。そうすることで、読者のコメントも一コンテンツになる設計になっているのです。

――2019年に挑戦したいことは何でしょうか。

佐々木:NewsPicksは東京の西海岸(渋谷や六本木など)で影響力を持っています。今後は東海岸(丸の内や霞が関など)のビジネスパーソンにも影響を与えたいですし、経済の世界に研究者やアーティストなど異業種の方々をどんどん巻き込んでいきたい。そして女性にも愛読されるメディアになりたいです。

今後のリーダーの理想像は、プロ―デューサー的な人。つまり、おもしろい人のおもしろい部分を伸ばせる人だと思っています。NewsPicksから日本と世界の経済を変えるエッジが立った人をどんどん輩出していきたいですね。

佐々木紀彦
1979年生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業後、東洋経済新報社で自動車、IT業界などを担当。2007年に休職し、スタンフォード大学大学院で修士業取得。2009年に復職し、『週刊東洋経済』編集部に所属。2012年「東洋経済オンライン」編集長に就任。2014年株式会社ユーザベース「NewsPicks」編集長 執行役員に就任。2015年株式会社ニューズピックス取締役に就任。2018年、編集長を退任し、最高コンテンツ責任者(CCO)に。


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