「セシウムが検出されているものを黙って食わせると思うか」

――放射能の問題はどう捉えていますか。自分の海が汚されたという怒りはありますか。

佐々木:怒りはあるけど、その怒りをどうすることもできない。矛先があまりにも大きい。怒りをぶちまけたって、汚水を他に流すところなんてない。雨が降っているとこに「雨降るな!」と言ってもどうしようもない。

――放射能汚染を心配して、太平洋沖で獲れた魚を一切食べないことにしている人もいます。

佐々木:危ないと言って食わない人がいてもしょうがない。それはそれぞれの問題だから。

でも俺たちも、今日あんたに食わした魚や、今までボランティアの若い人に食べさせてきた魚で、セシウムが検出されているものを黙って食わせると思うか。そんなことしねぇよ。

東北の人も、自分で悪いと知っているものを食うと思うか。みんな命が大事だわ。正々堂々と魚を食わせるし、食っている。ただ、食べたくない人を止めることはできない。人それぞれの考え方だから。

唐桑の寿司屋「まるさん」のお刺身


もしこれから放射能の基準値越えが出たら、どのように対応しますか。

佐々木:もし放射能が出たら、魚の出荷停止を素直に諦めなきゃならねぇんだ。当然な。それはわれわれの義務よ。騙して出すっていうのは、後で自分の首を絞めることになる。国の指針に従う以外ない。自分だけ安全だと言っても、相手があるのだから、それで通用する話じゃない。

■ 生活排水が1日1500トンも海に

――放射能に限らず、環境問題はこれからもどんどん出て来るでしょうね。

佐々木:海水殺菌装置を60万円で買ってある。ポンプで上げた海水を電解して殺菌する機械で、北海道から取り寄せた。今、気仙沼の海には、一次処理しただけの生活排水が1日1500トン流れているのよ。

世の中では放射能ばかりが騒がれてるけど、それ以外にも問題はある。今はまだ国の基準は越えてないけど、見逃せない。

――基準値を越える前から対策を考えているのですね。

佐々木:俺はみんなより10年先のことを考えている。1月からタラが獲れるから、さっそくこれを使おうと思う。今、俺の船で獲れた魚を、ブランド化しようという話が出ているのだけど、そこにも「海水殺菌装置使用」と書いて、堂々と安全を宣言できる。

佐々木さんの船「一丸(かずまる)」。気仙沼で一丸を知らない人はいないと言う。船名の由来は、「何事も1から始まるでしょ、だから一丸


たくましいですね。

佐々木:俺は、なんぼ辛くても挫折なんかしたことないもん。「漁師いつまで続けるんですか」って聞かれても、いつまででもやるさ。挫折ってことを考えたことがないんだ。負けるってことがない。

今回の震災で、「海見るのも嫌だ」って漁師辞めた人もいる。でも俺は、自然を相手にしているんだから、いつかはこういうことが起こると思っていた。いずれ来ると思っていた。津波で車や船の道具を流されて、60歳過ぎて5千万円借金ができたけど、何も諦めない。自然を相手に、負けない力を培ってきた。

■「一丸」ブランドで東京に進出

――今回の震災からどのように立ち直ろうと考えていますか。

佐々木:「どうせ復興するなら良く復興したい」って気持ちでいるのよ。だから、ボランティアや東京からプロジェクトを持ち込んでくれた人たちと、率先してかかわっている。いずれこれが良いと分かれば、他の気仙沼の仲間も追従してくるだろう。今、色々話がある中で、具体的には3つの話が進んでいる。

――どんなプロジェクトですか。

1つは東京の大学生と一緒に、さっき話した「一丸」ブランドの魚を東京の人に産直する販路を作るというもの。2つめは、レストランと提携して「一丸」ブランドを気仙沼で捌いてこっちで食べてもらうというもの。3つめは、島根から電圧の調整で魚の旨味を引き出す「氷感冷蔵庫」を取り寄せて使おうというもの。

被災地だからもう駄目だってわけではねぇんだ。外部の人が入ってくることで、今までに無かった良い動きが生まれている。むしろチャンスが沢山ある。だから若い人に、そんなところで一緒に新しくやっていきませんかって言いたい。

――最後に一言お願いします。

佐々木:太平洋でお魚を獲ってみませんか。相手は太平洋だよ。無限だよ。魚は好きなだけ食えて、酒は好きなだけ飲める。こんないいことないっちゃ。彼女と2人で引っ越して来い。試しに俺の船乗ってみろ。漁師の楽しみも味わえるし、悲しみも味わえるし、地獄も見れるし。

「太平洋は俺の庭。」佐々木さんの自宅から徒歩10秒のところにある海岸



「よし、一回地獄見てみるか!」という人は、佐々木さんの連絡先に直接ご連絡を。筆者も、2012年に漁に同行させてもらう予定になっている。今からドキドキ。

〈佐々木夫一(ささきゆういち)〉
昭和25年宮城県気仙沼市唐桑生まれ。小学生の頃より親を手伝い漁へ出る。5名の乗組員を率いる漁船「一丸」の船頭。宮城県大目流し網漁業委員会委員長、唐桑町小型漁船組合副会長。連絡先:【携帯】090-3121-4776