個人向けレンタルサーバー「ロリポップ!」を開発し、クラウドファンディング「CAMPFIRE(キャンプファイヤー)」を運営するクリエイター・家入一真さん(35)が本日、都知事選への出馬を表明する記者会見を開いた。オルタナS編集部が2012年7月に行ったインタビューでは、「必要なのは、逃げることができる勇気」と語っていた。ツイッターのフォロワー数は7万人を超え、若者を中心にネット上で人気を集め、堀江貴文さんも応援する家入一真という男はどのような人物なのか。(聞き手・オルタナS副編集長=池田真隆)

*この記事は、2012年7月に掲載したものです。

インタビューを受ける家入一真さん


引きこもりから ITビジネスの起業家へ

――家入さんの人生を振り返って頂きたいのですが、中学2年生の頃から高校まで登校拒否になったということで、その間はどのように過されていたのですか。

家入:自宅でずっと、絵を描くこととインターネットしかしていませんでした。絵は油絵やデッサンなどです。将来は画家になりたいと思っていたので、高校には復学せずに大学入学資格検定を取って芸大に進学しようとしました。

住み込みの新聞配達をしながら奨学金を得る新聞奨学生制度を利用して、芸大予備校に通っていました。

また、その頃自分の絵をネット上で公開すると世界中の多くの人からコメントをもらって、それが今までにない刺激的な体験だったのです。当時は、家にいながらネットで多くの人との会話を楽しんでいました。それが、インターネットの魅力に気付いたきっかけです。

――子どもの頃の将来画家になりたいという思いが、現在のアーティストや表現者を育てるサービスの背景にあるのですね。

家入:僕自身、アーティストにはなれなかったですが、ビジネスを通して懸命に頑張るアーティストを支援していきたいという気持ちが根底にあります。

僕は引きこもり中に、絵をネット上で公開したら多くの人からアクセスを受けました。そこで、表現者が、創作したものを公開できる場所を簡単に作れるようにしたら、もっと自由に自己表現できるようになるのではないかと思い個人向けレンタルサーバー「ロリポップ!」を開発しました。

「CAMPFIRE」(キャンプファイヤー)も、クリエイターがやりたいことを実現するためのプラットフォームをつくりたいという想いでサービスをスタートしました。

芸大予備校仲間の多くは予備校で学んだ芸術活動とは違う一般的な仕事をしています。それを見ていると、なんだか切なくなります。彼らに趣味でもいいから創作活動できるような場所を作っていきたいのです。

家入氏の描いた絵


自分自身がメディア化していく

――2011年12月に「Kazma AD」(カズマアド)というノートパソコン自体を広告枠として提供する新サービスを開始されました。このサービスも同様に若い表現者を応援する思いが根底にあるのでしょうか。

家入:最近僕の周辺で起業する若い人たちが増えています。みんなPCに自社や仲の良い会社のロゴシールを貼っています。そこで、もし自分のPCを広告枠として提供したら、買いたいと思う人がいるのではないかと思い作りました。

また、少額のお小遣い稼ぎが出来るサービスがあれば、お金に困っている僕のアーティスト仲間なども救えるのではないかとも思いました。常日頃から僕は物作りする人たちが、メインの仕事で食べていけるようになるまでの支援をしていきたいと思っています。

——このサービスの今後の展開としてはどのように考えていますか。

家入:現在はまだ試作段階です。しかし、2011年の12月初旬にTwitterでリリースしたところ、一日で約40の会社や個人から依頼が来て僕のノートパソコンの枠が全て埋まりました。現在は1カ月単位で交換する形を取っていて、来月分もすでに予約が入っています。

このように、自分自身をメディア化できることを追求していきたいです。今は媒体を絞った方が良いと思いノートパソコンにこだわっていますが、先々はiPhoneケースなどでも良いと思います。将来的には誰でも個人の身体でお金を稼げるような仕組みを作りたいです。

家入さんのパソコン。多くのシールが貼られている


――家入さんのアイデアは、ロリポップ!やCAMPFIREが象徴するように、共感や信頼を集めて個人の存在価値を高めるという点が共通しているように思います。そのようなアイデアを作りだすときの秘訣などあったら教えてください。

家入:サービスを考えるうえで大切にしているのは、サービスを考える前にまずソーシャル上での信頼関係を常に意識することです。それさえできていればフォロワー数に関係なく自分をメディア化することができて、いざサービスをリリースした時に反応してくれます。

そして、最も大切にしていることは、とにかくアイデアをたくさんつぶやくということです。構想段階でも良いのでつぶやいてみて、反応が良ければ実施すれば良いし、反応が無ければ実施しなければ良い。

日本人の若者などは良いアイデアが浮かぶと、どうしても隠してしまいがちですが、1個のアイデアに固執することなく、どんどんつぶやいてみれば良いと思います。パクられるのを恐れてしまう程度のアイデアは、どこかにすでに存在しているでしょうし、革新的なものでは無いと思います。

つぶれる前に「逃げる勇気」も必要

——これまでに画期的なサービスを開発してきました。家入さんの活動の動機を教えてください。

家入:僕は結局、人が動く動機はネガティブな感情だと思っています。私の場合は、引きこもりの時のコンプレックスがあり、人に認められたい思いがあります。それが今の仕事につながっているかもしれません。

結果的に、高校まではコミュニケーションを取るのが苦手でしたが、今ではTwitterなどのフォロワー数約2万5千人が表しているように、幸運にも多くの人と繋がることができました。

——著書を「逃げてもいいんだよ」というフレーズで締めくくっていますが、その真意を教えてください。

家入:そのままの言葉通り、「嫌なことがあったら逃げてもいい」ということです。最近では責任感が強いあまり押しつぶされてしまう人も多くいます。だからこそ、押しつぶされそうになる前に、「逃げる勇気」を持ってほしいと思います。

現在は激動の時代です。特に2012年は去年の震災の影響で経済的にも精神的にも立ち直っていかなければいけない年です。そして、震災で見直されたように生き方の価値観が今まで通りではなくなってきています。

ビジネスでは、そういう価値観の変化が起きている時はチャンスなのです。動き出すには格好のタイミングです。おそらく、この数年間は今流行りのソーシャル事業がたくさん出て、それと同時にたくさんなくなっていくのではないしょうか。

何かを仕掛けるには絶好のチャンスだからこそ、あえて今「逃げる勇気」も持ってほしいのです。その代わり逃げるときは全力で逃げないとだめですね。Bボタンを押されている感覚で逃げるように。

*この記事は、2012年7月に掲載したものです。


家入一真
1978年 福岡県出身35歳
株式会社paperboy&co.ファウンダー
株式会社partycompany Inc.代表取締役社長
株式会社ハイパーインターネッツ代表取締役
株式会社partyfactory代表取締役社長

2001年、株式会社paperboy&co.の前身である合資会社マダメ企画を設立し、
個人向けレンタルサーバー「ロリポップ!」の提供を開始。
2008年12月、株式会社paperboy&co.ジャスダックに上場。2011年退任。
2009年4月、株式会社パーティカンパニー設立。都内に飲食店を6店舗運営
“悪ふざけ文化創造企業” をスローガンに、人が集まる場をつくり出している。
2011年1月株式会社ハイパーインターネッツ設立。
すべてのクリエイターへ贈るファン獲得と創作活動支援のための、
マイクロ・パトロン・プラットフォーム “CAMPFIRE”を立ち上げる。
2011年7月株式会社partyfactory”を設立。
クリエイターやスタートアップ起業家を支援するベンチャーキャピタルを始動。

著書に『こんな僕でも社長になれた』(ワニブックス・電子書籍)
http://www.amazon.co.jp/こんな僕でも社長になれた-家入-一真/dp/4847017099
Twitter:https://twitter.com/#!/hbkr
Blog:http://ameblo.jp/ieirikazuma
CAMPFIRE:http://camp-fire.jp/