旅の行き先は、カンボジアの孤児院やハーバード大学主催の社会起業大会――バカンスではなく、「学び」を目的にした旅行であるスタディツアーが若者を中心に盛り上がりを見せている。費用は安値なパッケージツアーと比較して高値だが、「現場を体感できることで自分探しにもつながる」と付加価値を見出している。(オルタナS副編集長=池田真隆)
旅行業大手のエイチ・アイ・エスでは2009年、スタディツアー事業に特化した社会貢献関連事業部を設立した。同社が提供するスタディツアーの行き先は、アジア、アフリカ、ヨーロッパなど7大陸に広がりを見せている。1週間ほどの滞在で、13~15万円程のツアーが中心となっている。毎年参加者は増え続け、売上も大きく伸ばしているという。
スタディツアーデスク事業責任者の小林健一さんは、「学生を中心にお客様は増加し続けているが、同じツアーに参加する方は少ない。テーマにあわせて様々なツアーに興味を持つ方が多くなっている」と話す。さらに、高校からも、修学旅行をスタディツアーにしたいという依頼もある。
フィリピンのゴミ山やラオスのスラム街など、その国の「暗」の部分を現地で働く日本人やNGO職員の案内のもと見学するが、文化が発展した都市など「明」も体感する。参加者に対比して考えてもらうことが狙いだ。
若者がスタディツアーに行く背景には何があるのだろうか。社会学者の見田宗介さんは、「若者たちは『リアリティー』を求めてカンボジアなどの海外へボランティアに出かけている」と分析した。
経済成長を遂げて、物質的に豊かになった社会では、欲しいモノが貨幣との交換ですぐに手に入るようになった。モノがない中で、「つくる」行為をしなくなったことで、リアリティーを感じられにくくなったという。
リアリティーを求めることで、自分探しにつながるといわれる。若手社会学者の古市憲寿さんは、「現代の若者は生きているという実感を欠いている人が多いので、ボランティアを行う。社会貢献を通じた自分探しをしているのではないか」とオルタナS編集部の取材(2012年10月)で答えた。
リアリティーに加えて、途上国での体験が、「思い込み」を打破することもある。小林さんは、自身の常識を疑わざるを得なかったバングラデシュでのある体験を話した。
「世界最貧国という意識でバングラデシュのスラム街を訪れたとき、そこに暮らす子どもたちの明るく、輝く様な笑顔に驚いた。貧しさ=不幸といった固定観念が崩れ、幸福とは物質的に満たされた中で感じるのでなく、それぞれの価値観の中にある事を実感した」(小林さん)。
発展途上国の現状や人々の暮らしに触れる事で、「原体験」を得る人も多いと言う。
リクルートキャリアが発行した「就職白書2013」では、就職活動生の一番の悩みは、「志望動機が書けないこと」だった。自分のやりたいことが分からず、その結果、早期離職にもつながっている。
2月18日、総務省は15~34歳の若年層人口に占めるフリーター割合が6・8%と前年より0・2ポイント増えたと発表した。これは調査を始めた2002年以降で最も高い。
スタディツアーには、アイデンティティーの認識や自分探しに役立つ効果があるといわれている。であれば、この状況を改善する切り札となることが期待される。