児童養護施設に保護されている児童への学習支援を行うNPO3keys。創設したのは、2011年に史上最年少(社会貢献部門)で社会貢献者表彰賞を受賞した森山誉恵さん(24)。有名大学を卒業しながらも、一般企業へ就職するという道を選択せずに、NPO創設という決断をした森山さんに、その決断の背景を聞いた。(聞き手・オルタナS副編集長=池田真隆)

NPO3keys代表の森山誉恵さん


——森山さんが児童養護施設と出会ったきっかけを教えてください。

森山:大学2年生の時に、たまたまウェブサイトで児童養護施設への学習支援ボランティア情報を見つけたことがきっかけでした。当時は、インターンしていた企業で新規ビジネスの立ち上げや、所属していた学生団体でビジネスコンテストを企画するなど活動はしていましたが、自分がやりたいことが明確になっていませんでした。

ウェブサイトで見つけたボランティア先の児童養護施設が近所だったことや、家庭教師のアルバイトもしていたので、やってみようと決めました。

——実際に教えてみてどうでしたか。

森山:すごく衝撃的でした。当時の私にとって、社会問題とは途上国で起きているもののように、どこか遠くで起きているものだと捉えていました。しかし、日本でも親の経済的な余裕や精神的な余裕のなさなどが原因で育児を放棄したり、虐待を受けるなどで、3万人もの子どもが施設で暮らしていることを初めて知りました。

私が担当したのは中学生だったのですが、教えたのは小学校低学年レベルの内容でした。その子は、高校や大学に進学する意味を見出せていませんでした。私に「自分は勉強ができないから、期待しないで」と言い、本当は力があるのにもかかわらず、自分の可能性を狭めている印象を受けましたね。

そういう子たちの現状を目の当たりにして、「ほうっておけない」と感じて、児童養護施設への学習支援を行う学生団体3keys(NPO 法人3keysの前身)を大学3年生の4月に立ち上げました。

友人たちが続々と企業から内定を頂いている様子を見ると、揺れはじめた

——早朝に大学に行き、夕方は学習支援を行い、夜はアルバイトをするハードな生活を送ったそうですね。

森山:そうですね。その時は体力的にも精神的にもきつくて、孤立してしまいました。

学習支援はイベントを作るのとは違って、わかりやすい目標に向かっていく形ではなく、継続支援という形なので、ゴールを見失いやすかったです。日々、ルーティーンワークが続きますし、無給だったので、メンバーのモチベーションの維持が上手くいきませんでした。

メンバーからは「これをして何になるのだろう」と思われ、私も上手く答えることができず、自分の力不足から6人いた創設メンバーは次第に離れていきました。
でも、私は現状の課題を解決したいという一心で一人でもどんどん進んでしまい、振り返ると誰も残っていない状況になりました。



——そのような状況の時に、同世代は就職活動を始めていましたが、森山さんはそのまま学習支援活動を継続することを選択しました。

森山:結局、ワンマンプレーになっていましたが、施設からの信頼を感じはじめてはいましたすでに5、6施設からオファーがきていましたので社会的にも期待されているのだと感じていました。

しかし、インターンをしていたので会社を作ることや売り上げを上げることの難しさを自覚していて、こんな私でできるのか不安もありました。そして、周りの友人たちは続々と企業に内定をもらいだして、揺れはじめた時期でもありました。

——それでも活動を続けていくことに決め、学生団体からNPOへと変更した背景には何があるのでしょうか。

森山:諦めたくなかったという思いが強いです。活動を辞める理由づけはいくらでもありました。でも、それで辞めてしまったら、現状は何も変わらないという考えがありました。

これだけ問題が山積みになっていて、なのにお金にならないという理由で放置されているのは、今の社会を表しているのではないかと感じて、憤りなどもありました。

だから、あまり前例の無いこの分野でしっかりとやっていくことで、他にも同じような分野の問題で頑張っている人へ目を向けるきっかけになるのではないかという思いもありました。

テストで98点を取ってパニックになってしまう子どもも

——森山さんが現場を通して感じられている問題点は何でしょうか。

森山:施設に保護されている子どもは18歳になったら半強制的に施設を出されて自分の足で歩んでいくことになります。実家というセーフティネットもありません。

そして、施設を出て、ホームレス状態になってしまう子や離職してしまう子が多いです。そのような子どもたちをケアするのは施設を出てからではなく、施設にいるときに力をつけるべきであると思っています。餌を与えること以上にまずやられなくてはいけない事は、餌の釣り方を教えること。だから、学習支援を続けています。

また、私が施設で感じた課題では、母親的なかかわり方が求められている職員の方々だけでは、子どもたちが社会に出て自立をするという観点が抜けているのではということ。母親的な関わりとは、子どもの今を受け止め「あまたはあなたのままでいいんだよ」という姿勢。一方で父親的な関わりとは、子どもの良さを伸ばし、時には厳しく律し、厳しい社会に出ていくために必要なことを育てるという姿勢だと考えています。

でも、施設の職員さんは6人の子を1人で見ることもあり。そこまですべての役割を求めるのは厳しいのが現状です。なので、私たちが関わることで、そこをカバーできたらという思いもあります。

——児童養護施設の子どもたちに指導するうえで気をつけている点などはありますか。

森山:児童養護施設に行く前は、勉強は自己責任論だと思っていましたが、必ずしもそうではないと思うようになりました。これまでの家庭環境や、施設で暮らさなくてはいけない現状などは、子どもたちを不安定な精神状態にしてしまいます。そんな中、勉強に専念できたり、自分の将来を前向きに考えられなくなってしまう気持ちも理解できるようになりました。社会人ですら、身内に不幸があったら仕事に身が入らないことはあると思います。そんなことが日常的に続いていると思うとイメージしやすいかなと。

だから、子どもたちの表面的に表れる行動を理解できるように、子どもたちの背景を理解するための研修などを、子どもたちの指導につくチューター(学習ボランティア)に行っています。例えば、テストで98点を取ったのに、2点足りないということが原因でパニックになってしまう子どももいます。過去に、あと2点が取れなかったことで親から虐待を受けていたことがトラウマになっているのです。そういうことを事前に知っていると、教える側も焦らず対応しやすくなります。

——現在、「やりたいことが分からない」という若者たちの声を良く耳にします。森山さんから「やりたいことを見つける」アドバイスをお願いします。

森山:一番自分の心が動くものにチャレンジしてほしいと思います。

たぶん、みんなはもう既に興味のあるものを持っているんじゃないかなぁと思うことがあります。でも、それをやったら社会から置いていかれてしまうと思うことが、やりたいことを見えなくしている気がします。少なくとも私はそういうことが一番自分を惑わしたように感じます。見栄や、社会的地位を抜きにした選択をした時に、好きなことが見えてきました。

でも、自分が好きなことをやることが正しいことなのか、社会的な地位などを基準によって選んだ方が正しいことなのかはわかりません。私自身、まだ選んだばかりですし、社会で生きていく上で、社会的地位というのはれっきとして重要な指標ですから。

ただ、自分のやりたいことをやりたいと思うのであれば、ひたすら自分の心に正直になること以外、ないんじゃないかなと。正解はないと思うので、それも含めてどういう生き方をしたいかなんじゃないかなと思います。



森山誉恵:1987年11月22日生/慶應義塾大学卒/虐待や育児放棄などで児童養護施設で暮らす子どもたちに、学習が負の体験ではなく、成功体験になるための支援をするNPO法人3keys代表理事/現在12の施設と提携し学習支援サービス提供/2011年社会貢献者表彰受賞/twitter:@3keys_takae/Facebook

ブックオフと3keysが連携をして、古本やDVDなどの寄付を通じて、児童養護施設にいる子どもたちの学習費用をサポートする「Book For Kids」が開始しました。

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*本記事は2012年4月に掲載されたものであり、年齢や日時は全て当時のものです。