「その窓に未来を描く」――。そのスローガンを持つのが、窓の卸会社マテックス(東京・豊島)だ。高い断熱・遮熱性能を持つ「エコ窓」の普及促進活動や、従業員の生き生きとした姿で話題の中小企業である。今回はそんなマテックスの松本浩志代表取締役社長に話を聞いた。

松本浩志
米国のビジネススクール、サンダーバード国際経営大学院を卒業後、日本の大手電機メーカーでDVDの営業や商品企画を行う。その後2002年に祖父が創立した株式会社マテックスに入社、2009年から現職。

聞き手)オルタナS特派員=板里彩乃、大下ショヘル、串橋瑠美、中野拓馬、北村勇気、樋口楓子
写真)オルタナS編集部=大下ショヘル

■ 価格競争の中での気付き

松本社長が企業のあるべき姿について考え始めたのは、大学院卒業後務めていた大手電機メーカーでの仕事中だった。

大学時代、米国のビジネススクールで経営学を学んだ松本社長は、その学んだ知識を現場で生かしたいと考え、就職先に日本の大手電機メーカーを選んだ。しかし、そこでの販売活動は、常に1円でも安く製品を製造するためにどうすればいいかという価格競争の中にあった。ここで「この価格競争を続けて、果たして企業がみんないい形で残っていくことは可能なのだろうか」と疑問を持ったという。

■ 必要な無駄、必要な非効率

大手電機メーカーで抱いた疑問は、後に父からマテックスの社長の職を譲り受けてからも松本社長に大きな影響を与えた。効率を上げることや生産性を高めることは大切だが、それだけを追求してしまうと必ずいつか組織に歪みがでる。「だからこそ、必要な非効率、必要な無駄をある程度確保すべきだと思う」と言う。

「必要な無駄」と「悪い無駄」の違いは、「不器用さ」と「ずさんさ」を区別することで判別できる。「ずさんさ」は改善していかなければならないが、「不器用さ」は時に武器になるという。完璧な人間より少し欠けていて人間味のある人の方が人々に受け入れられやすい。松本社長は「大いに不器用な企業でいたい」と話してくれた。


■ 社員が自分の仕事に誇りを持つ

マテックスの大きな魅力の1つに、社員の前向きな姿勢と明るさがある。

松本社長は「社員のモチベーションが上がるときは、自分たちの仕事がどれだけ社会の中で大切なものなのかというのを認識したとき」と語る。そこでマテックスでは、首都圏に10カ所ある全営業所で「経営理念浸透カフェ」という場を月に一回設けている。

ここに毎回社長自らが出向き、社員と自分たちのしている仕事がいかに素晴らしいかを語り合っているという。そこで松本社長は、「仕事の大切さ」、そして「社員一人ひとりがどれだけ不可欠な存在であるのか」ということを社員に実感してもらうことを大切にしている。

「社員一人ひとりがそれぞれ役割を担っているから会社は動いていけるものだと思う。利益や効率ばかりを追い求めていると社員一人ひとりの顔は見えなくなってしまう」(松本社長)

マテックスの社員は仕事を「作業」としてとらえてはいない。「家を買う」というお客様にとっての大きなイベントに、窓を通して携わる機会としてとらえることで、一人ひとりが責任感を持って仕事に取り組むことができる。

「中で働いている社員が思わず自分の仕事を自慢したくなってしまうくらい、自分の仕事に誇りをもって生き生きと仕事をしている会社がモテ企業なのではないか」と松本社長は語っている。

営業推進部の堤千春さんは同社の良さについて、80年の歴史がありながらもコツコツと積み重ねていくことを大切にし、今なお進み続けている点、そして企業理念を社員全員が共通認識としてもっている点をあげた。社員が共通の理念を共有することで、ぶれない理念を持ち業務に集中することができるという。

そして営業推進部として、高い遮熱・断熱性をもつ環境にやさしいエコ窓の普及を促進する自身の仕事に楽しさとやりがいを感じているそうだ。そしてエコ窓の普及などのソーシャルビジネスに挑戦する会社の姿勢を誇りに思っている。

■「B to B」から「B with B with C」へ

マテックスは窓の卸であるため、普段直接消費者と接する機会が少ない。だが、意識の上では「B to B to C」、つまり常に消費者を意識した経営をしているという。

消費者は窓についてよく理解していないことが多い。例えば、冬場の室内で暖められた空気の58%は窓から流失してしまい、夏も熱い日射熱を73%も窓が室内に伝えてしまっている。昨今様々な環境負荷を低減させる取り組みが行われているが、日本のほとんどの建物は、窓による問題を抱えている現状を放置したままだ。

松本社長は「私たちはまず、窓が抱えているその問題を一人でも多くの人にお伝えすることが大切な役割なのではないかと捉えています」と話す。

その言葉のとおり、マテックスでは「エコ窓普及促進会」を立ち上げ、そこで消費者に向かって窓の抱える問題点やその解決の方法として、「エコ窓」の情報を発信するポータルサイトを開設している。

更に、これからの時代は「B with B with C」の意識を持っていきたい、と松本社長は話す。これは、売り手の言い分だけで一方的に商品をPRするのではなく、消費者の求めているものを的確につかんで商売をしていくことを意味する。直接の商売相手が消費者でなくとも消費者を意識した経営をしていかなければ将来も残る企業にはなれないという。

企業活動は、社会の中で役に立っているから生かされてきたことであり、市場や社会がもっと健全になるにはどうすればいいかを考えていれば自ずと結果はついてくる。実際、マテックスは、近年増収増益を確保している。

マテックスは社員一人ひとりがその原動力となり、会社が動いている。そしてその会社は、商売相手の事業者を通り越し、消費者、そして社会をも見据えている。モテ企業を測るモノサシは、企業の規模ではなく、その企業のベクトルがどこに向き、そしてそれをどう実行しているか、なのではないだろうか。(オルタナS特派員=板里彩乃)


マテックス株式会社
エコ窓普及促進会


1)「必要な無駄」「必要な非効率」を大切にしている
2)社員が自分の仕事に誇りを持つ
3)「B to B」ではなく、「B with B with C」を意識
4)「エコ窓」普及で、窓を通じた社会貢献を実践