伊藤忠記念財団は2014年から、公益社団法人シャンティ国際ボランティア会と連携し、「東南アジアに絵本を贈ろうin東北」を行っている。同活動は、カンボジアなどの東南アジアの子どもたちに、翻訳シールを貼った日本の絵本を届けるもの。絵本に翻訳シールを貼るのは、伊藤忠商事の社員に加えて、東日本大震災で被災した子どもたち。絵本は楽しさだけでなく、識字率の向上にもなる。情報を得ることで、職業の選択肢が増え、処方箋を読めるようにもなり、子どもたちを危険から回避させることにもつながっている。(オルタナS副編集長=池田 真隆)

絵本に翻訳シールを貼り、自分の名前も記入する

絵本に翻訳シールを貼り、自分の名前も記入する

2月4日朝、1年分の本が集まった倉庫に、絵本を寄贈した企業関係者やボランティアスタッフ21人が集まった。港へ運ぶ2トントラックへ、約1万2000冊の絵本を詰めた段ボール163個をリレー形式で運んだ。届け先は、カンボジアやミャンマー、ラオスなど東南アジアの図書館・学校。

届ける絵本は、日本国内で出版されたもので、現地の子どもたちが読めるように翻訳シールを貼っている。絵本の寄贈、そして配送作業、さらに、このシール貼り作業もボランティアの力で成り立っている。この絵本を届ける活動を主催しているのは、シャンティ国際ボランティア会。同団体は1999年からこの活動を始め、累計20万冊の絵本を届けた。

約1時間をかけて、大量の絵本をトラックに詰めこんだ

約1時間をかけて、大量の絵本をトラックに詰めこんだ

「一冊の本を読んだからといって、いきなりテストで100点を取ることにはならないが、その一冊の本があることで、将来を考えることに役立っている」――シャンティ国際ボランティア会の担当者は絵本を届ける意義をこう語る。

現地の子どもたちにとって、将来就きたい職業は、先生もしくは農家が大半を占めているという。理由は、身近にいる大人が、学校の先生か農作業をする親しかいないからだ。

絵本の情報を得ることで、読み書きができるようにもなり、選択肢が増える。「本を好きになることで、学校に行く回数が増えている」。本を読むことで、家に帰り、親に読んだ内容を話す。すると親も気になって、学校に見に来ることもあるという。

■東北の小中高生200人もシール貼り

財団は被災地支援活動として伊藤忠商事の株主及び伊藤忠商事からの東日本大震災の被災地支援寄付金を原資として、被災地で子どもの図書を望んでいる学校に子どもの本100冊セットを寄贈している。

「東南アジアへ絵本を贈ろうin東北」は、40年続けている「文庫活動」に対する助成事業にこれまで助成をした団体などの協力を得て行っている。岩手県大船渡市の大船渡高校や越喜来中学校、日頃市小学校、そして、柿の木文庫(福島県白河市)などから200人が参加した。

絵本には翻訳シールに加えて、作業をした人の名前も記入している。柿の木文庫では、活動に参加したことがきっかけで、手がけた絵本の国について関心を持ち調べた子どももいるそうだ。

絵本を贈られた現地の子どもたちは気に入った本を何度も読み返すため、ストーリーや主人公の名前を覚える。それに加えて、翻訳シールを貼った人の名前も印象に残るようだ。「東南アジアの子どもたちが、『スズキさん』や『サトウくん』という日本人の名前を覚えていると聞いている」(公益財団法人 伊藤忠記念財団 助成事業部課長役 岩沢雄一郎氏)

社員ボランティアは2014年に約500冊の絵本にシールを貼った。各社で有志の社員10から20人程度が集まり、活動を行う。毎週集まるところもあれば、年に数回というところもあり、自由だ。社員が本を自宅に持ち帰って、作業することもできる。自宅で作業した社員は「子どもと一緒に作業することで家族のコミュニケーションが深まった」とも話す。

シール貼り作業は、伊藤忠商事の東京本社、中部支社、九州支社、関連会社などで行われている

シール貼り作業は、伊藤忠商事の東京本社、中部支社、九州支社、関連会社などで行われている

■「単純なシール貼り作業ではない」

社員ボランティアに参加している伊藤忠商事九州支社管理部・上野美智子氏は、「ボランティア活動とは言いながら、普段子ども向けの絵本に接する機会がないのでどんな絵本が来るのか楽しみながら行っている。」と話す。

助成事業の担当者の岩沢氏は、このシール貼り作業は、社員の皆様にとっては、ボランティア活動を楽しみつつ、人間関係も深める機会になったり、東日本大震災で被害を受け、様々な支援を受け続けている子どもたちにとっては、この活動が「自分も誰かの役に立っている」という復興へ向けて自信と意欲を高めるきっかけとなることを願えるなど、様々な力を持っていると感じている。

[showwhatsnew]