自然に恵まれた長野で、自然に負荷をかけない素材を開発し、染色にこだわったファッションを展開しているブランドがある。それが「ECOMACO(エコマコ)」だ。

代表でデザイナーの岡正子さんは国内外で講演や展示会、ファッションショーを行い、ビジネスでも2009年に国際ビジネス賞の「スティービーアワード賞」のビジネス女性大賞も受賞した。

岡正子さん


ECOMACOで主に使用されている素材、コーンファイバー(ポリ乳酸繊維)はトウモロコシを原料にデンプンを乳酸発酵してできる繊維だ。石油などの化石資源由来ではないために、廃棄しても微生物の栄養源として使用され、最終的には水と二酸化炭素に分解される。さらに弱酸性で肌に刺激が少ない。

この生分解性を持つカーボンニュートラルな素材を基本にし、長野のウール、シルク、長野以外の麻、オーガニックコットンやサトウキビ、和紙などのグリーン原料で生地を作っている。

染色は、5月に咲く菜の花、バラ、シャクヤク、秋にはブドウ農園のしぼり滓(かす)を使うなど、約7色、地元とコラボレーションを行っている。一つ一つの洋服は、長野の美しい自然の色を表現したものだ。

コーンファイバーの原料のトウモロコシは、アメリカから輸入している。「すべての原料を地元で収穫できれば一番良いが、生産を考えると無理がある。人工的に作る繊維にはやはり大きなプラントが必要」という。

染色についても、天然染料に化学染料が混ぜられているものもある。それでも大量廃棄と環境に与える負荷を最小限にしようとする心配りは、十分伝わってくる。

例えばECOMACOが打ち出している「グリーン・ウェディング」は、グリーン素材に加え「おくるみ」や子供服へのリメイク、挙式後に染めなおして新しいドレスにすることも可能で、よりモノを大切にすることに重点が置かれている。

人生に一度だけ着るウェディングドレスを無駄にせず、環境だけでなく自分の心と体、未来の家族にまで配慮されたものである満足感は、大きいものになるだろう。

そしてECOMACOの残布を使ってモザイクをデザインしたポーチなどの小物は、現在、障害者施設で作られている。それらの小物はどれも本当にかわいい。今後は、親子で残布を使った小物を作るワークショップを企画していく予定だ。

子供にとって、母親が手を加えて作ってくれたモノは、純粋にうれしい。それらの「作ったモノがかわいくて魅力的で、元気がでる」ことで思いが伝わっていくのだ。

岡さんは、杉野学園 ドレスメーカー学院の系列校である長野のOKA学園 トータルデザインアカデミーの2代目校長でもある。初代は今年90歳の誕生日を迎えた岡さんの母親だ。

小物に使われる色鮮やかなハギレと洋服

2011年4月には本校の院長に就任した。着物から洋服へと移行する時代を生きた杉野先生の教えや言葉が今も深く心に残っている。本校の伝統をふまえ、新しい風を入れる「構想力」が期待されている。

技術の習得は女性の自立にもつながるのだ。幼い頃に父親を亡くし、母親がドレスメーカー学院で服作りを 学んだ。母と同じ学院に入学し、同じ様に学んだ。

「ご縁って何だろう、絆って何だろう、経験って何だろう」と考えてきた。技術を伝える教師とビジネスの両方を経験し、ECOMACOの理念はエコロジーの教材にもできると気づいた。

ECOMACOが大切にしているクチュリエさんによる刺繍やパッチワークの技術、染色を連携している京都の西陣織やしぼりなどの伝統技術が、衰退してしまう危機感も感じている。「何でもモノがあふれる時代、使い捨てが当然で縫い物教室も少なくなった」。

技術の担い手である母親の技術も伝えられない。昔は普通にできた、モノを直すということはクリエイティブなことだ。

だからこそ、家庭科の授業の必要性は大きいと感じている。岡さんは、「手で作る、手で直す、手で愛情を伝える、手で想いを伝える、がエコロジーの一つの側面ではないか。これらの手仕事をカルチャー的なところまで広げていくことが自分のやるべきこと」だという。それもやはり、長野を拠点としたモノ作りが、自然に「包まれている」という感覚から生まれたものだろう。

長野はECOMACOの生産拠点であり、自らが生活する場だ。「自然とともに生きる、自然の中で生きる、感性を自然の中においておきたい」という強い思いがある。

オーガニックコットンのオフホワイトは、美しいものである。しかし、自然は色に満ちている。それを実感できる場所で暮らしていくことが、デザイナーとしての岡さんには重要だという。(オルタナS特派員=奥田景子)


*本記事は2012年5月に掲載されたものであり、年齢や日時は全て当時のものです。