フィリピンのごみ山スラム街に暮らす人々へのインタビュー第4弾。


フレディ・モラリオスさん(43歳/男性)

職業:惣菜販売
家族構成:妻(再婚)・娘夫婦とその子ども3人・息子(同性愛者)・養子
生誕地:サマール地方
居住地:スモーキーマウンテンⅡ

― 略歴 ―
貧しいココナッツ農家の家庭に生まれる。小学校5年生の時に落第を経験。その後リベンジするもついに進級を果たせなかったため退学。その後、家の手伝いを本格的に始めたが、大土地所有制のために土地を持たない小作農民は搾取され生活もままならなかった。20歳の時、単身でスモーキーマウンテンⅠへ移住を決意。スカベンジャー(ゴミ拾い)として働き始める。
2005年、陰のう水腫(睾丸部に水が溜まる病気)を発病し肉体労働が難しくなったため、ボンバイと呼ばれるインド人の金貸しから40日間20%という高利で資金を借用し、惣菜販売のビジネスを開始。
2007年、昨年から交際していた現在の妻と入籍。


―― 今までの人生の中で最も悲しかったできごとは何ですか?

「 子どもを亡くした時です」

フレディさんには実の子どもがいない。一緒に暮らしている2人は再婚相手の連れ子である。彼の実の娘と息子はそれぞれ5歳と2歳の時病気のため亡くなっている。
娘の死因はデング熱だった。デング熱を媒介する蚊は熱帯地方広域に生息するが、マニラ首都圏内では特に不衛生な場所でのみ見られると言われている。死亡することは滅多にない病気だが、治療が遅れた場合やいく度も感染を繰り返すことで致死率が上がる。フレディさんの娘も高熱が続いていたが受診はせず、普通の風邪と同じ手当を行っていたところ手遅れとなってしまった。

「悲しみを忘れてしまいたかった」

子どもを失った衝撃を受け止めきれなかったフレディさんは、その後2年間薬物におぼれる生活を送ったという。
貧困スラムの問題として薬物の存在は根強い。ほとんどのコミュニティで薬物入手の経路が拓かれている。公には極秘にやり取りされている一方で、その方法を住民の誰もが把握しているのが実情だ。薬物利用は都市部の重労働者だけでなく、農村地区で仕事を持たない若者の間でも深刻な問題となっている。

フレディさんも知人経由で薬物を手に入れ、乱用を始めた。使用していたのは覚せい剤。一回分で300ペソ。現役スカベンジャーの約6日分の収入にあたる高額な薬物を、ほぼ毎日乱用していたという。吸引直後は精神がハイになり、何もかもを忘れることができた。家庭のお金を吸着しては妻と言い争うばかりの日々。おかしな言動を繰り返す彼のことを、周りの人間は指を差して笑っているだけだった。

「すべてはこの子が変えてくれた」

フレディさんを薬物の世界から救ったのは、4歳になる男の子ジェイだった。母親が死亡し、実の父親にも見捨てられた彼は、9ヶ月の時に養子としてモラリオス家にやってきた。脳と心臓に大きな疾患を抱えているため、歩行も会話も行うことができない。けれど夫婦は、彼の病気を承知の上で引き取ることを決めた。

「この子はすでに特別な子だから、できる限りのほどこしをして守ってあげたいと願うんだ」

よく笑い、大きな声を上げるジェイ。彼の歓喜や嫌悪は手に取るように伝わってくる。小さな命の存在が100%自分の手にかかっているという実感は、その手放しの信頼に応えたいという意志をフレディさんの心に育んだ。子を失くした親と親を失くした子のギブアンドテイクが、薬物乱用という地獄からひとりの人間を救い出したのだ。


――「人生」をあなたの言葉で表現すると何ですか?

「貧しいものはより貧しく、豊かなものはより豊かになる仕組みだよ」

このコミュニティ内での生活はどんどん厳しくなっている、とフレディさんは言う。電気や水や交通費といったインフラから、食費や衣服などの物価まで上昇の一途だ。

スモーキーマウンテンⅡ内では、夕方の6時から明け方の6時まで電気を利用する事ができる。料金は一晩50ペソ(100円)。スカベンジャーの日収に相当するため、電気を利用しない家庭も多い。また昼間も電力が必要な家庭は、違法配線をしている家と契約し電力の転売を受ける。フレディさん宅は公共からも違法組織からも電気を利用しているため、月に約2800ペソが電気代として消えている。

惣菜販売の収入は低く、日に120から200ペソ程度にしかならない。病気のため力仕事が一切できなくなってしまったフレディさん。水の調達は業者に依頼し、食材の買い出しは妻に頼っている。それでも1日3食のご飯が保証されるため、スカベンジャーなど食を得ることが前提となる労働に比べれば、圧倒的に条件は良い。

かつてスカベンジャーとして働いていた頃、日当はいい時で500ペソにもなったと言う。けれど湾に接して設けられていたゴミ山が閉鎖され、新たなゴミがすべて大型の船に乗せられ浮島に運ばれるようになってからスカベンジャーの仕事はぐっと難しいものになった。住環境の衛生面は確かに大きく改善されたが、船の上での作業では時間も限られており、農村部から都市部への人口流入が加速していることもあって、一つのゴミに対する競争率は昔とは比べ物にならなくなった。中には街中を走るダンプカーに飛び乗りそこでゴミ拾いをする者もおり、その変化の中に生活の厳しさが伺える。

「どんなに一生懸命働いても、現在の生活レベルから脱出することは一生叶わない。なにもかもがその日を生きるための努力だ」

彼ら夫婦は7年前に借りたお金を、未だに返済し終えていない。