「20代の投票率が上がれば政治は変わる」――選挙が近くなると、テレビや新聞などでよくこのコメントが聞かれる。しかし、NHKを辞めた堀潤氏はこの意見に対して、「マスコミの嘘」と断言する。投票率と政治機能の改善は関係しているのだろうか。(オルタナS副編集長=池田真隆)
20代の投票率は低く、3~4割台を維持している。6~7割台が投票する60代以上の世代と比べると差が大きい。世代間の投票率の差はOECD平均12ポイントだが、日本は2倍以上の25.2ポイント(2005年)だ。
テレビのコメンテーターは、この数字を背景に、「政治家は選挙で勝つために高齢者向けの施策を考える傾向にある。だから、20代が投票に行かないと、若者に不利な社会となってしまう」というマーケティング的発想で分析する。
確かに、若者が投票に行かないことで、経済的損失を被っている一面もある。今年7月、東北大学大学院経済学研究科の吉田浩教授と、経済学部加齢経済ゼミの学生らが、「若者の投票率が下がると1%につき若年層(49歳以下)は13万5000円の損をする」という研究結果も発表した。
「経済的にも損だし、年金問題、未就労問題など若者向けの施策も出てこない。だから選挙に行って、変えよう!」と、投票日が近づくにつれて呼びかける声が増す。
しかし、若者の投票率は上がらない。国民的アイドルを使ったキャンペーンをしても響かない。では、どうすれば現状を変えることができるのだろうか。オルタナS編集部の取材で見えてきたのは、「投票日までの期間」に目を向けることだ。
■選挙で政治を変える時代は終わった
NHKを辞めてフリージャーナリストになった堀潤氏は、「変えるためには、投票日に行くまでの日常生活の中で熟議し、社会運動や政治運動にかかわること」と指摘する。
「メディアは、投票に行けば、国は変わると嘘ばっかり言い続けている。世の中の仕組みは法律の設計から官僚たちが考える。顔が変わっても、構造は変わらない。政治家が若者たちに目を向けるようになれば、社会が変わるというのは幻想である」(堀氏)
国会議事堂で高校生100人と国会議員が議論できるイベントを企画し、若者と政治を近づける活動をする「僕らの一歩が日本を変える。」の創設者青木大和氏(慶應義塾大学法学部政治学科1年)は、堀氏が指摘した、「日常生活から政治的議論をする」ためにも教育のあり方に疑問を投げる。
「現在進行形の政治は誰も教えてくれない。学校の『政治・経済』で習うのは、議員定数などの事務的なことだけで、例えば、政党の色や議員一人ひとりの考え方などは教えてくれない。だから、ニュースを見ても分からない」(青木氏)
さらに、社会学者で『ネット選挙 解禁でもたらす日本社会の変容』(東洋経済新報社)の著者西田亮介氏も今年8月、さとり世代の若者を主人公に描いた映画『HOMESICK』(監督・廣原暁)について取材したとき、政治教育について触れている。
「政治教育のカリキュラムに現在進行形の政治をどう捉えるかという授業はまったくない。政局を捉えるフレームワークを持たない状態で、突然投票年齢になったら政治と向きあわなければならない。たとえば『歴史』では第二次世界大戦までで、現代史は深くやらない。『政治・経済』では三権分立などの原理原則を、『現代社会』では『人権』や『環境』などのイシューごとに分けて受けるだけ。そこでは自民党と民主党の議席数をどう考えるのかなどの問題はない。18歳までこのような教育を受けてきて、20歳になって投票権を持っても、どこに投票したらよいのか分からないのも無理はない」(西田氏)
港区議会議員でNPO法人グリーンバード代表も務める横尾俊成氏も、「選挙で政治を変える時代は終わった」と話す。著書『「社会を変える」のはじめかた』(産学社)の中では、「強いリーダーを待っていても何も変わらない」と書かれ、政治の構造が変わらないと、リーダー一人の力では何も変えられないと訴えている。
「国と地方議員の関係がピラミッド構造となっている。国会議員一人を当選させるには、数人の東京都議会議員の応援が必要で、都議会議員一人を当選させるには、数人の区議会議員が必要となる。基本的には、大きな党に所属していないと国会議員にも首相にもなれない。だから、会派の先輩と意見が違っても、妥協しないと上にはいけない仕組みとなっている」(横尾氏)
■投票切り口に政治に関心を持って
これらの意見から、「投票率を上げれば、政治が変わる」というわけではないことが見えてきた。日常から、政治的・社会的な話をすることで、政治に接し、投票のときに、「顔が見えるから」「名前を知っているから」ではなく、「政策」をもとに投票先を選ぶ人が増えれば良いのではないだろうか。
口では簡単に言えるが、実際はどのようにして若者は政治に関心を持つのだろうか。若者向けの投票率向上を目指し活動する学生団体ivote(アイヴォート)を創設し、現在は、NPO法人YouthCreate(ユースクリエイト)代表の原田謙介氏は、「まず投票に行ってもらうことで、自分が投票したこと自体や、投票した政治家に関心を持つきっかけをつくっている。その政治家が今後どのような動きをするのか、少しは気になるはず。投票を切り口に、政策の内容にも関心を持ってもらうことを狙っている」と話す。
さらに、アメリカをはじめ進んでいる、政治の情報を市民に公開する「オープンデータ」については、「すでに政治に関心を持っている層だけに響く方法で公開しても変わらない。今、必要なのは、若者の意見をすいあげる仕組み」と話した。