ソーシャルメディアが発達したいま、これからの出版ビジネスのあり方を考えるというテーマで講演が行われた。登壇したのは、ファッション&カルチャー誌NYLON JAPAN(ナイロンジャパン)編集長の戸川貴詞氏と、『もしも高校野球の女子マネージャーが、ドラッカーの「マネジメント」を読んだら』(ダイヤモンド社)の編集を担当した経歴を持ち、現在はピースオブケイク(東京・渋谷)代表取締役CEOの加藤貞顕氏。
同イベントはワンモアが運営する「GREEN GIRL(グリーンガール)」が主催した。グリーンガールは、「みんなでかわいいを実現する」をコンセプトに生まれたウェブサービスで、その世界観をフェイスブック上で表現する電子雑誌である。クリエイター、アーティスト、イベントプランナー、バイヤーの女の子と一緒に企画したイベント・グッズのチケットを、「ソーシャル・パトロン・プラットフォーム」というシステムを通じて販売している。会場は渋谷のコワーキングスペースco-ba(コーバ)。当日は女性社会人を中心に約50人ほどが集まった。
加藤氏は「出版業界では積極的に電子書籍化できていない現状があるが、日本でも5年以内にほとんどの人がタブレットを持つ時代が来る。タブレットに適したデジタルコンテンツである電子書籍の売り方を、考えなければいけなくなってきた。現在行われているような紙のコンテンツをそのままネット配信する方法では、単価が低くなり出版社の利益が出にくい。当たり前だが、紙と電子書籍では売れるコンテンツも違う。例えば 紙では250ページの本も、デジタル化すれば1000ページになり、売れ行きは伸びない。 また電子書籍は実はappstoreのランキングなど、販売チャネルが限られるため、販売先書店周りなどの営業で売れ行きが伸ばせない」と述べた。
加藤氏は今、タブレットやスマートフォンを意識したコンテンツ配信サイトの開発を手がけている。サイトはコンテンツ配信だけでなく、作り手同士も繋がるプラットホームの機能もあり、クリエイターたちにとってもメリットをもたらす仕組みを目指している。
戸川氏は「これまで出版業界の流通システムでは、売れ残った雑誌は廃棄されてきた。このシステムは、20年前と変わっておらず、時代や読者の意識と逆行しているとも言えるかもしれない。この点では紙の雑誌出版ビジネスは変わらざるを得ないだろう。半分売れ残る雑誌よりも、100部刷って100部売れる雑誌に価値があるのではないだろうか。出版ビジネスは最大化を目指すのではなく、より読者=顧客の満足にフィットしたものをつくる『最適化』を目指すべきだ。出版ビジネスが変わるためには、作り手側の意識も変えていかなければならない」と述べた。
これからデジタルコンテンツの需要はさらに高まり、クリエイターにとって正念場となりそうだ。そしてコンテンツを消費する側が優れたコンテンツを選ぶことで、これからのデジタルコンテンツがより新しく、よりオシャレになっていくために必要不可欠となる。
作り手と消費者双方によって、デジタルコンテンツは多様で豊かになるのではないだろうか。(オルタナS編集部=河合和香)
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