書籍を製作する過程では、原稿を最初に印刷した校正紙(ゲラ)が大量に消費され、著者や編集者、校正者が原稿内容を確認した後はゴミとして処分される。年間で約8万点の新刊が出版される現在、出版社は膨大なゴミを生み出している。
そこで、作家の手書きの赤字が入ったゲラの裏紙を「魅力ある素材」として再利用することで、1冊のメモ用紙として商品化した「ゲラメモ」が売り出されている。
企画したのは、都内で活動する編集者の羽塚順子さん、デザイナーの國松繁樹さん、編集者の平原礼奈さんの3人からなる「PRe Nippon」。福祉事業所の問題解決と、その価値を社会に生み出す活動を行うソーシャルデザイン・プロジェクト。メンバーそれぞれがデザイン、ライティング、企画開発などの職能を持つプロボノ集団である。
メンバーの一人、羽塚さんは、去年の秋に福島県南相馬市で障がい者の自立訓練に向けての支援活動をしているNPO法人さぽーとセンターぴあの青田由幸・代表理事と出会った。同NPOでは震災の影響で障がい者の仕事を失っていた。
「何か仕事を生み出す企画がほしい」という青田代表理事の訴えを聞き、「ゲラメモ」の製作を始動した。ゲラメモは手作りの自由帳。捨てられるはずだったゲラという素材を使い、失われゆく職人技術で製作される。
日本の伝統技術である和製本四つ目綴じを職人からPReNipponメンバーが学び、福祉施設の職員に伝え、施設に通う障がい者がその技術を身に付けるというリレー形式で技術が伝えられた。障がい者も職人技術を身に付ければ、かかわれる仕事が増加する。
ゲラメモの販売収益は障がいのある人たちの工賃として還元されるため、一時の復興支援ではなく、永続的に東北に職と利益を還元でき、施設の事業にもなる。
東京・福島間の交通費、綴じ紐、表紙の紙代等の初期経費は、損保ジャパンからの助成金を活用できた。
初めて完成した数冊のゲラメモは、偶然にもベストセラー作家の新刊ゲラで制作することができた。4月に完成し、渋谷の書店SPBSで販売すると、納品した冊数は5月末までにすべて売り切れたという。現在、SPBSでの販売は既に終了し、インターネット販売と、検討中の数店舗での販売に動いている。
「某有名マンガ家さんにも打診中で、出版社との契約書も交わし、作家ブランドの品として販売していきたいと思っています」(羽塚さん)
「ゲラメモ」は、著者が自ら原稿を直した筆跡が透けて見える。書籍1点につき1つしかないゲラから作られているため、ファンにとっては超プレミア的価値がある。A5版の40ページで、一部700円(外税)。多くの人気作家が新刊発売のたびに、このプロジェクトに参加することが期待される。(今一生)
●ゲラメモのfacebookページ
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