アイテム一つひとつにストーリーがあり、セクシーでエシカルを実現したファッションブランド「INHEELS(インヒールズ)」。若年層の女性をメインターゲットにしているため、値段も安価に抑えている。商品に込めたストーリーの真意とは何か、創業者の二人に伺った。(聞き手・オルタナS副編集長=池田真隆)
■バッグ製造で、カースト制度最下層の人々への差別なくす
——使用する素材や販路は、お二人が実際に足を運び、環境的に負荷が少なく、社会に貢献できると判断したサプライヤーと契約し、服を販売しています。そのストーリーを消費者に伝えるために工夫していることはありますか。
大山:なるべく説教臭くならないように伝えようと心がけましたね。
岡田:そうそう。「この商品の背景には、こんなストーリーがある。だから買わなくてはいけないのよ!」という言い方はしたくなかった。なんとなく、デザインがかわいいから買って、気づいたら生産者の人たちとつながりを感じていたという具合で良いと思っています。
——実際、どのようなストーリーが商品には込められているのですか。
なぜ、皮製品を作っているかというと、皮は元をたどれば動物の死体です。死体の毛をはがし、肉をはがす作業や、異臭を放つ有害物質を扱う皮の加工は低カーストの仕事とみなされているからです。
でも、バッグの作り方を教え、製造することによって彼らを取り囲む環境に変化が起きました。村の人びとの生活水準をあげるだけでなく、今まで皮作りしかできないと見なされていたジャワジャ村へ海外からバイヤーが訪れるようになり、周囲の見方が変わり、彼らに尊厳を持って接するようになってきました。
——このバッグの裏側にはそのようなストーリーがあったのですね。他の商品はどうでしょうか。
大山:このArantza(アランツァ)という洋服は、南インドで作った生地を、ネパールの首都カトマンズにあるフェアトレード工場で縫製しています。工場がこの仕事で得た利益は、貧困地帯であるネパール東部のkhotang(コタン)という村の支援に使われています。
村で初めての歯科クリニックを建てたり、勉強したい学生に奨学金を出しています。ここの工場のディレクターであるダンさんが本当に情熱的な人で、メールがあまりに興奮しすぎて「!」だらけになって返ってくることもあります(笑)。
■女性はファッションには妥協したくないはず。種類を増やし安価を実現した。
——そのようなストーリーがそれぞれの商品に込められている服を販売することで、何を成し遂げたいのでしょうか。
岡田:服やバックを買う時に作られた過程を一瞬立ち止まって考えてみる機会を提供したいと思っています。通常はお店で購入して、着なくなったら捨てる流れだと思います。でも、その服を一生懸命に作っている人たちがいます。その作っている誰かを意識してほしいのです。普段のショッピングでの購入が回り回ってどのような影響を与えているのかと一度考えてみてほしいです。
大山:私たち二人は、もともと金融の仕事をしていました。そこでは利益追求を第一に考え、一日に数億円動かして企業買収を成功させ、クライアントに最大限の利益を生み出すことが全てでした。しかし、ある時、ふと立ち止まって考えてみると、「お金を貯めて、それで結局何が残ったのか」はっきりと答えられるものがなかったのです。その違和感を感じて、金融の仕事を辞めました。
利益追求だけではなく、モノの裏側にあるストーリーを大切にした今の事業から学ぶものは多いです。世の中には、お金だけでは解決されないことが一杯あると知りました。特に今では、心の豊かさは、人や環境とのつながりからくるのだと実感しています。
——エシカル発祥の地ロンドンで約2年間修行を積んでいます。ロンドンと日本では、エシカルの考え方や捉え方に違いはありますか。
大山:ロンドンでは、エシカルは生活の中に入っています。日本のようにエシカルとあえて言わなくても、それが当たり前のこととして受け入れられています。
岡田;それにロンドンでは消費者でエシカルを求めている人がすごく多いです。なので商品の種類がたくさんあります。一方、日本では消費者の数がまだ少ないです。なぜ、少ないかと言うと、エシカル意識を持っていないからではなく、単純に商品の選択肢がないからだと思っています。
女の子だったらファッションには妥協したくないはずです。だから、若い女の子でも手が届く値段で、かつデザイン性に優れたエシカルファッションが増えていけば、自然とエシカルは浸透していくはずです。私たちもその一翼になりたいと思っています。
■インヒールズのコンセプトが生まれた背景には、六本木での夜遊びが影響
——お二人はもともと、エシカルや環境意識が高かったのでしょうか。
岡田:いえ、実はそこまで詳しくありませんし、環境意識も高くないと思っています。環境に関して真面目に勉強するような人とは真逆のタイプなのです。数年前までは遊ぶのが大好きで、夜な夜な六本木のクラブに繰り出し、夜遊びしていました(笑)。
二人でお酒を飲みながらサルサダンスを踊り、始発帰りの生活を繰り返していましたね。だから、全然優等生ではないのです(笑)。
大山:私なんてロンドンで開発学を学ぶために大学院に通っていましたが、サルサダンスばかりしていたので、「何のためにロンドンに来たのか」と、怒られたこともあります(笑)。
——そうだったのですか(笑)。それは以外ですね。
岡田:でも、そういう経験がなかったら、インヒールズは生まれなかったと確信しています。エシカルかつセクシーというコンセプトは、私たち自身が着たい服を想像したときに生まれました。
ちなみに私の姉はレゲーのダンサーをしていますが、頭はモヒカンで服装はド派手な格好をしています。科学繊維大好きのように見えますが、実は化粧品や購入する服まで自然派にもの凄くこだわる人なのです。
だから、渋谷の街で遊んでいるド派手なメイクをしたギャルなども、実は性格は優しく、社会や環境のことに対する思いやりを持っていると私は思います。ノギャル(農業をするギャル)などがそれを表しているのではないでしょうか。ド派手なメイクは自分をアピールする表現の一つなのです。
——なるほど。今では、漁業をするウギャル。エネルギー問題に関心のあるエネギャルもいます。若い女性の環境への関心は高くなってきています。
岡田:そのような若い女性たちに買い物を通してモノの裏側を知ってほしいと思っています。エシカルを説明する際には、児童労働や環境破壊など説教じみたネガティブな面を強調されることがありますが、実は結構楽しい面もあるのです。
毎朝、服を選ぶときにコーディネートだけなくストーリーも選べます。着ている服のストーリーをシェアすることで、生産者の方たちへ想いを馳せてくれればうれしいです。
大山:私は、はっきり言って「エシカル」という言葉はなくてもいいと思っています。言葉に縛られすぎて、堅苦しくなる傾向があるからです。日々の生活で、ライフスタイルを決めるプロセス一つひとつに他者への思いやりを持てば、自然とエシカルの社会に近づいてきます。
エシカルとは何か悩んでいる人たちには、「硬い話は後でいいから、みんなでこの服着てパーティーに出かけようぜ!」って言いたいですね。
岡田:そうそう。エシカルであってもファッションとは楽しめるものだから、楽しまなきゃだめよ。楽しんだ結果、人や環境とのつながりを感じて、他者への思いやりのある行動を起こすようになればいいですね。
「INHEELS(インヒールズ)」・・ロンドン発のエシカルファッションブランド。インヒールズという名前は「ハイヒールを履いて」という意味。ハイヒールを履きながらでも、着こなすことができるセクシーでエシカルな服を、安価な価格で実現している。購入はオンラインショップから。
■INHEELS期間限定ショップオープン■
日時:6月23日(土)、24日(日)
営業時間:11時〜20時
場所:〒155-0031 東京都世田谷区北沢2-27-15 フラットしもきた1階レンタルギャラリー*下北沢駅北口を出て右に進み、横浜銀行を左に曲がって2つ目の角を左。隣の白い壁に黄色い着物を来た女性の絵が描いてある建物です。
岡田有加:
慶応義塾大学総合政策学部(SFC)卒業後、大手外資会計事務所系コンサルティングファームにてM&Aコンサルタントを勤める。2010年4月渡英、ロンドンの夜間学校でファッションデザイン、パターンカッティング等を学ぶ傍ら大手フェアトレードファッションブランド・ピープルツリーにてホールセールエグゼクティブを勤める。2011年INHEELS起業。
大山多恵子 :
米スミス大学で学位、ロンドン大学SOAS(School of Oriental and African Studies)にて開発学の修士号を取得。外資系投資銀行でのトレーディング、又金融業界にて日本及び英国を中心に公的機関、機関投資家への営業を担当。その後、起業準備として人気デザイナーズブランドAnnonyousリテール及びホールセール部門勤務を経て、2011年INHEELS起業。