タイトル:電園復耕~大通りからそれて楽しく我が道を歩こう

なぜ人を押しのけて狭き門に殺到するのか?自分を愛し迎えてくれる人たちとの人生になぜ背いて生きるのか?
この書き下ろしは、リクルートスーツの諸君に自分の人生を自分で歩み出してもらうために書いた若者のためのお伽話である。(作・吉田愛一郎)

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◆森を抜けて

末広は小川で手を洗い、携帯電話で水道屋に水が噴き出している旨を説明しながら先頭に立って歩いた。いつの間にかバースデーが末広を追い抜いて露払いの役目を始めた。きっといつでもそういう役目なのだろう。

啓介は「My name is Keisuke」と言うと女は「I ‘m Liz」と言った。リズはグリニッシュを啓介はイースターを引いて末広の後を歩いた。先頭を歩くバースは時々末広の方を振り返り耳を伏せ、尾を振って嬉しそうだった。何かしゃべっているようだ「春は楽しいね」と言っているのかも。モミの林を切り開いた山道にはモミの臭いが立ち込めていた。日が当たらないので雪はまだ馬の蹄が埋めるくらいの深さだった。末広は「蹄なんか何か洗う事なんかなかったんだ」と苦笑いして言った。「雪できれいになってしまう」

小川で洗った蹄は雪溶けの泥でまた汚れ、残雪を歩くとまた鼈甲細工のようにきれいになった。しばらくモミ林を歩くと道の東側が開けた。山が裂け、遥か下には雪解け水が轟音となって流れていた。音はさらに高まり、30メートルほどの高さの滝が眼下に現れた。

シジュウカラやもっと小さな小鳥たちが藪に入ったり出たりするが轟音で笹鳴きが聞こえない。さらに進むと行く手には大きな岩がいくつも出現した。岩の上には去年の落ち葉が積み重なり、杉苔がその湿気を保存している。バースデーは岩を左に曲がって避けると谷から離れるように歩いた。

末広がそれについて、啓介とリズと馬達はそれに続いた。林はだんだんナラやクヌギの量を増し、地面は一面の笹薮となった。少し進むと笹薮の先に木造の西洋館が出現した。何枚かの長い板が腰板として縦に張られ、二階部分がテラスになっているようだ。

末広が馬を放せと言うから啓介とリズが馬の頭絡から引き綱を外すと、馬はすぐに笹を食み出した。末広がかまわずその建物の小さな木戸を開けて中に入るので、引き綱をぐるぐる振り回していた啓介と、それを腰に巻き付けていたリズも彼に続いた。暗い木の階段を末広に続いて上がると、急に明るくなって、彼らはさっき見たテラスに出た。そこは洒落たレストランだった。大きなガラス張りの引き戸があって、部屋の中の暖炉で、薪が赤く燃えていた。末広は暖炉のそばのテーブルにドカッっと腰を下ろすと啓介とリズを右手をしゃくって手招きした。

「バースはどうした?」末広に聞かれ、啓介はしまったと思った。バースデーの事を忘れて裏の扉を閉めてしまったのだ。啓介が階下に戻ろうとすると「There she is」とLizが言うから表を見ると金色で長め毛が光るバースが表の道路に面したエントランスからこちらを見ている。

裏を閉められてしまったので、表の通りにまわったのだ。リズが席をたってバースを迎えに行くと、尻尾をちぎれるほど振ったバースがドアが開くと同時に飛び込んできて末広の横に座った。若くて美人のウエイトレスがバースに笑いかけて末広に注文を聞いた。テラスの向こうでは馬が二頭、笹を食んでいるのが見えた。

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文・吉田愛一郎:私は69歳の現役の学生です。この小説は私が人生をやり直すとすればこうしただろうと言う生き方を書いたものです。半世紀若い読者の皆様がこんな生き方に興味を持たれるのであれば、オルタナSの編集スタッフにご連絡ください 皆様のご相談相手になれれば幸せです。

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