これからの日本で必要とされる会社、長く生き続けることのできる会社ってどんな会社だろう。そんな“モテ企業”が持つべきモノを探すのが「モテ企業の条件」。
消費者からモテる企業、取引先からモテる企業、労働者からモテる企業、そして社会からモテる企業。そんな企業がこれからの世界で生き残っていけるのだと思う。財務や経営ノウハウも大事だけど、どんな“手段”で生きるか、の前にどんな“目的”を持つべきだろうか。「モテ企業の条件」ではそのヒントを様々な経営者や現場で活躍する社会人に聞いていきます。
第4弾は、グーグル日本法人元社長がつくる日本の文化を海外へ発信する株式会社アレックス。
日本の国際競争力低下に問題意識を持ち、「日本から世界へ新しい価値提供を行う」ことを目的に、2010年にALEX(アレックス)が設立された。同社は、インターネットを活用して日本の優れた製品を世界へ広め、販売している。ソニーカンパニープレジデント、グーグル日本法人社長を経て、アレックスを立ち上げた辻野晃一郎社長兼CEOに話を聞いた。
聞き手)オルタナS特派員=樋口楓子、中野拓馬、大下ショヘル
写真)オルタナS編集部=大下ショヘル
■ 最初から世界へ
アレックスは、日本の伝統工芸品などを販売するオンラインサイト「ALEXIOUS(アレクシャス)」を運営している。サイトでは、金箔をあしらった小物入れや、江戸切子の細工を施したグラスなどが、作り手へのインタビューや映像とともに紹介されている。選定基準は、「日本人が頑張って新しい価値を生み出しているもの」だ。
これまでの総取扱商品は240点以上にものぼる。サイトには世界200カ国・地域からのアクセスがあり、約30カ国の人がサイトを通じて商品を購入している。
辻野社長は、「日本人は作るのは上手だけど商売が下手」と言い切る。だからこそ、日本に埋もれる素晴らしい商材を、全国を飛び回って探しているのだという。
アレクシャスが狙っている市場は海外だ。インターネットでつながる20億人を潜在顧客としてとらとらえるためにサイトは英語で表示している。このような戦略を打ち出した裏側には、2つの問題意識があった。
1つめは、日本企業が国内市場を攻略した後に、海外進出しようとしている点だ。
「日本企業は今まで、日本の1億2000万人がそれなりの購買力を持つ巨大なマーケットであることに甘えてきた。一方で、韓国企業は国内需要が小さいので、最初から世界をマーケットとする発想がある。アレックスは、内需先行型ではなく、インターネットでつながっている人すべてをターゲットにしている」
次に、日本人が日本の価値に気付いていない点だ。
「日本人は自分たちが生み出したものの価値が分かっていない。欲が無いのか、本当に価値がわからないのか。目の前のわずかなお金に目が眩んで手放してしまうか。いずれかの理由で、日本ですごいものを生み出しても世界マーケットを築けていない」
■ 英国のオークションで根付に3500万円の高値も
ゴッホの名画の背景に浮世絵が登場するように、日本の伝統工芸品は海外に流出したからこそ評価されるようになったという見方もある。日本人が評価している以上に海外で高く評価されている工芸品の数々。辻野社長は、「それほど日本人は自分で生みだしたものの価値に気付いていない」と指摘する。
例えば、着物の帯につける根付は、繊細な技巧が施された工芸品だ。しかし、コレクターのほとんどは外国人で、国外流出が続いている。ロンドンの競売では、江戸時代の根付に約3500万円の高値が付いた。国際根付協会は、1975年に米国で生まれ、現在31カ国のメンバーからなる。
「日本人は戦後の西洋志向やコンプレックスが根底にあり、日本で生まれたものの価値を理解できていない」。アレックスは、ビジネスを通じて日本の良さに気付けない日本人に警鐘を鳴らしている。
■「いまの日本は創造ではなく、模倣だけ」
アレックスの行動指針はユニークだ。「10年早く、10倍速く」「群衆の叡智の積極活用」「天真爛漫」、そして「20世紀的にならない」。辻野社長の口からは繰り返し「20世紀」という言葉が出る
20世紀の最後に日本が誇った分野といえば家電である。「最近ではスティーブ・ジョブズが考案したものを模倣するだけになっている。本当にやるべきことは、全く新しいものを創ること。日本はそれができなくなっている」
いつから日本人は革新的な製品を生み出せなくなったのか。辻野社長は「インターネット後」だと断言する。「インターネットが出てきて、クラウドがインフラとして確立され、日本は時代の変化に追随できなくなった」
インターネット上にデータを置いておけば、どこにいても取り出すことができる便利なクラウドは家電の定義を変えた。家電はもはやインターネット上から得た情報を映し出す「クラウドの窓」だ。
日本中が注目する東京スカイツリーにも違和感を覚える。
「スカイツリーに誰も違和感を感じないのか。あれは電波塔で、20世紀的発想。今や、シリコンバレーでは、放送波を見ない人が増えて、インターネットでネットフリックスなどを見ている。インターネットが登場してから、確実に世の中は激変している」
急激に変化する世の中で、着実に先を見据えて邁進する辻野社長は、生き方のヒントを教えてくれた。それは「演繹的に生きる」ことだ。
「多くの人は、積み上げ型(フォアキャスティング)の人生。演繹的というのは『日本はこうなるはずだ』『自分はこうしたい』という未来のビジョンを明確にして、そこから遡って、自分の行動を決めていく。つまり、バックキャスティングということ」
辻野社長は、「坂本龍馬やソニー創業者の盛田昭夫氏の生き方も演繹的である」と語る。将来を見据え、今日するべきことを認識する。それだけで毎日の生き方が少し未来志向になりそうだ。
■「志、理念がある会社を選べ」
バブル崩壊後に生まれた若者が就職活動をする時代になった。大企業志向や安定志向が根強く残る一方で、相次ぐ大企業の業績不振は多くの若者を悩ませる。外資系企業の躍進を目の前にして、日本に誇りを持てなくなっている若者も多い。
企業には創業期、成長期、安定期、衰退期の4つのフェーズがある。「いま、みんなが入ろうとしているブランドが確立された大企業は安定期、もしくは衰退期かもしれない。フェイスブックやグーグルが数年前は無名だったように、将来性のある名もない会社はたくさんある」
そうはいっても知らない会社に入るのには、少し不安も残る。辻野社長が考えるモテ企業の条件は「創業時の志や理念、思いがはっきりしている会社」だという。
「創業者がなぜ会社を興したのか。WhatではなくWhyが中心にくる会社」。自ら会社を創業し、思いや情熱を会社に込めてきたから言えることだ。
アレックス設立趣意書の中にはこんな文章がある。
「日本の国力向上と日本国民の生活文化の発展に貢献し、同時に、諸外国には日本の商材を紹介、導入することにより、それぞれの国家の繁栄に寄与する」。設立時から世界視野ということがよくわかる。
「世界は多様だから面白い。それぞれの国の特徴や自国の素晴らしさ、自国の課題をちゃんと理解して、それをジグソーパズルのように当てはめていくことが、本当のグローバリゼーションだと思いませんか」。
辻野社長は、「創業時の志を実現し目標を達成するためにも、まずはアレックスを軌道に乗せることが目標だ」と意気込む。
「満ち足りているとハングリーさを失うが、それは自分次第だと思う」。常に先を行く経営者の視線はひたすら真っ直ぐに、自分の使命をとらえている。
アレックス株式会社:http://www.alex-x.com
1)初心を忘れず、創業時の志を大切にする
2)日本を愛し、日本と世界のためのビジネスを創造する
3)時代を先読みし、最先端をいく