経済成長を目指しても貧富の差は埋まらないことが、オックスファムの報告書でまとめられている。その内容を国際開発メディアganas記者の長光大慈氏に寄稿してもらった。





主要20カ国・地域(G20)のなかで、欧州連合(EU)とサウジアラビアを除く18カ国のうち14カ国の国内所得格差が1990~2010年の20年間で広がっていたことが、国際NGOオックスファムの報告書で明らかになった。報告書は、国内の格差問題は社会不安につながるため経済成長の足かせになりかねないとして、保健医療や教育など格差解消に資する政策に力を入れる重要性を指摘している。

経済発展から取り残されたベネズエラ東部に暮らす先住民族(ワラオ族)のコミュニティー

「G20に取り残されて」と題するこの報告書(英文)によると、この20年で格差が縮まったのは18カ国中4カ国のみ。国内の所得格差を測る指標「ジニ係数」(格差は0に近いほど小さく、1に近いほど大きい)が最も改善されたのはブラジルで、0.05良くなった。以下、韓国、アルゼンチン、メキシコの順。

格差が最も拡大したのは、00~08年の国内総生産(GDP)成長率が平均7%で推移したロシアだ。ジニ係数は0.2以上悪化した。次いで、中国(0.1以上悪化)、日本(0.05以上悪化)、南アフリカ(0.05以上悪化)がひどかった。

報告書の内容についてオックスファム・ジャパンの山田太雲アドボカシー・マネージャーは「G20のほとんどが経済成長を優先してきた。しかし貧困層の収入は低下し、富裕層との格差は広がった。先進国のなかで格差が是正の方向にいったのは韓国だけ。これは、経済成長の果実(恩恵)が貧困層には届かないという実態を映し出している」とコメントする。

報告書の共同著者であるオックスファムのカロライン・ピアース氏は「すべてのボート(人たち)が経済の上げ潮に乗れるというのは『神話』にすぎない。実際にはその過程で沈むボートがある。貧困問題を本気で解決したいのなら、経済成長政策だけでは不十分。貧困層の所得を向上させ、環境破壊の影響から彼らを保護する政策が必要だ」と強調する。

世界の最貧層の半分以上はG20に住んでいるといわれる。格差の是正を求める「オキュパイ(占拠せよ)運動」が世界80カ国以上に伝播したことは記憶に新しい。この源泉となったのは不平等に対する人々の憤りだった。格差対策が打たれない限り、たとえば南アでは、向こう10年で貧困人口が100万人以上増えるとの試算もある。

対照的に、経済の成長と所得格差の低減というダブルの政策を推し進めたブラジルでは絶対的貧困層(1日当たり1.25ドル=約97円未満の収入の人たち)の数が約1200万人減った。全人口に占める貧困層の割合も9人に1人から25人に1人未満へと大幅に下がっている。

G20に名を連ねるのは、日本、米国、英国、ドイツ、フランス、イタリア、カナダ、ロシアのG8に加えて、韓国、中国、インドネシア、インド、サウジアラビア、メキシコ、オーストラリア、ブラジル、アルゼンチン、トルコ、南アフリカ、EUの20カ国・地域。オックスファムの報告書では、サウジアラビアは比較可能なデータが不足しているとして、調査対象から外れた。


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