福島県郡山市で行われている被ばく量の高い場所からの集団疎開を求める裁判が第二審の仙台高裁で大詰めを迎えている。第一審では却下された本件だが、裁判所側が低線量被ばくの危険性について、改めて見直す考えを示している。

集団疎開を求める裁判への協力を呼びかける弁護士の柳原敏夫さん=8月17日国会議事堂前


第一審は昨年6月に開かれた。福島県郡山市で暮らす14人の小中学生が原告となり、被曝量が極めて高い郡山市を相手に、安全な場所への集団移住を求めた。

申し立てをした経緯には、子どもたちの安全な場所へ移動し、教育を受けたいとの想いがある。郡山市中心部は、チェルノブイリ避難基準で強制的に避難させられる移住義務地域(年5ミリシーベルト以上)に該当する極めて危険な状態であった。(参考:『土壌の核種分析結果(セシウム134、137)について』文部科学省2011年9月2日)

一審中には、今まで明らかにされてこなかった事実が続々と明らかになった。

1・子どもたちは3月の事故から8月末までの積算値だけでも7.8〜17.2ミリシーベルト(年12〜24ミリシーベルト)に達するような環境で学校教育を受けていること

2・郡山市中心部の子どもたちは、今後、チェルノブイリ事故時のゴメリ地区(同地区は郡山市と汚染度が同じ)で発生した次の健康被害が予想されること
(1) 5〜6年後から甲状腺疾病と甲状腫瘍の双方が急増し、9年後の1995年には子ども10人に1人の割合で甲状腺疾病が現れた。
(2) 甲状腺がんは、甲状腺疾病の10%強の割合で発病、9年後は1000人中13人程度となった。

3・ゴメリ医科大学学長のバンダジェフスキー氏が、チェルノブイリ事故後に死亡した人を解剖して臓器ごとにセシウム137を測定した結果、子どもたちの心臓病多発の原因がセシウム137の心臓への高濃度蓄積によるものであることを指摘し、ふくしまの子どもたちも内部被ばくにより、今後、同様の心臓病多発が予想されること(医師の松井英介氏の意見書)。

このような事実が明らかにされたにも関わらず、12月16日に行われた一審判決では、郡山市は上記の主張に「不知」と答え、申し立てを却下した。

市は、「転校の自由があるのだから危険だと思う者は自分の判断で引っ越せば良い。安全な場で教育を受ける権利を侵害したのは東電であって自分たちではない。だから、子どもたちを安全な場所に避難させる義務は負わない」と反論したのだ。

この結果について、担当弁護士の柳原敏夫氏は、「原発誘致へ賛成していない子どもに自己責任を求めるこの判断は、裁判による世直しという子どもたちの期待を裏切り、原発事故の加害者である国と自治体による凶悪な人権侵害行為である」と話す。

国会議事堂前で呼びかけをする柳原さんたち。21時を過ぎても続けられていた。


しかし、今年4月、事態は大きく転換する。二審が行われている仙台高裁では、裁判期日を入れることが決められた。10月以降に判決が下されるが、被ばくの危険性について、真剣に取り組む可能性が生まれていると、担当弁護士の柳原氏はいう。

決め手になったのは、二審の中で明らかにされた福島県が実施した福島県民健康調査の内容であった。その検査は、今年4月26日に、郡山市など13市町村の3万8000人の子どもたちを対象に行われた。

3万8000人のうち35%に、「のう胞(ただれ=炎症あるいは細胞の性質の変化)」が発見された。ちなみに、チェルノブイリ事故から5〜10年後に行われた子どもたちの健康調査で、同じような被害が見られたのはわずか0.5%だけだった。

この健康調査の結果も踏まえた上で、仙台高裁は動いているが、「裁判所が低線量被ばくの危険性に触れるには、『市民の声』による後押しも必要になってくるはず」と担当弁護士の柳原氏は話す。

そこで、柳原氏を中心に「ふくしま集団疎開裁判」を独自で立ち上げた。ネット上で陪審員を募り、放射能の危険について訴えている本件についての判断を集めている。

日本語サイト以外にも、英語、韓国語、ロシア語など8カ国語に訳されており、世界中から本件についての意見を表明できる。作家である大江健三郎さんも、この動きに対して賛同のコメントを寄せている。

「放射能関連の裁判では、裁判所が判決を下すことをためらうケースが多い。しかし、市民の声が集まれば何が正しいのか自然と明らかとなり、裁判所に正しい判決を下させる後押しとなる」と柳原氏は話す。(オルタナS副編集長=池田真隆)


ふくしま集団疎開裁判