2001年、渋谷の路上で「元気でいこう」と大声で歌っていた19歳の女性がいた。歌手になることを目指し、故郷・佐賀のさびれた町からヒッチハイクで上京した吉村妃里(ひさと)さんだ。

 映画『ドコニモイケナイ』のワンシーン

映画学校の実習のテーマを模索中だった島田隆一さんとスタッフたちは、彼女の話を聴くうちに彼女の虜になり、約半年間、彼女を追いかけて撮影した。

妃里さんは、路上で出会った同世代の若者の名前を次々に自分のノートに足し続け、その数は200人を超えていた。

やがてタレント事務所にスカウトされ、ウィークリーマンションをあてがわれたものの、事務所とケンカして追い出され、1回会っただけの女性のアパートに転がり込む…。

そうした不安定な暮らしの中で、彼女は突然、統合失調症を発症し、緊急入院。帰郷を余儀なくされたため、映画の制作も中断してしまった。その後、監督を含む制作スタッフたちは映画学校を卒業し、それぞれの人生を歩み始めた。

だが、9年後、島田さんは「映画監督になる」と意気揚々としていたかつての自分に決着をつけるため、再び妃里さんに会おうと佐賀へ向かい、長編ドキュメンタリー映画を完成させた。

それが、『ドコニモイケナイ』だ。島田さんにとって監督デビュー作になる。妃里さんを取り巻く友達・兄・母親の姿も撮影しながら、自分の夢を自分で決められず、自分らしく生きることの恍惚と不安に揺れる現代日本の若者の心情と残酷な現実を見事に浮き彫りにした。

11月24日(土)から渋谷のユーロスペースでレイトショー上映される(連日21時10分より)。(今一生


●映画『ドコニモイケナイ