ずらっと並ぶ57冊の本。茨城県内で活躍する「もの作り」の職人やアーティストら57人を1人1冊つづにまとめたものだ。茨城県つくば市のギャラリー「MEMORIES」では「茨城のつくり手 つくりっぽ」展が開かれ、陶芸家、イラストレーター、菓子職人など多彩な「つくり手」たちが本の形で紹介され、展示されている。
本を作ったのは大川弘恵さんだ。茨城県土浦市で生まれ育った大川さんは武蔵野美術大学を卒業後、自身でアトリエを開いて子供たちに絵画や工作を教えてきた。
そして再び武蔵美の通信教育課程でデザインを学び、卒業制作として考えたのがこの「つくりっぽ」だった。「つくりっぽ」という言葉は、昔から茨城の方言で水戸の人を「みとっぽ」と呼んでいたことから「つくり手」を意味する言葉として大川さんが考えた。
本の中身は「つくり手」のインタビューや作品紹介など、1冊1冊に魅力が凝縮されている。最後のページには連絡先が掲載され、来場者が読んで気に入った「つくり手」の連絡先を携帯で撮影する姿も見られたという。
取材は2年間。57人を相手に大川さんが複数に分けて丁寧に取材を重ねた。記事を書くだけでなく、写真、製本すべてを1人で手がけている。制作費用は自腹。
最初は1人の陶芸家から取材を始め、そこから知り合いの「つくり手」を紹介してもらい、さらに知り合いの知り合い・・・と、大川さんへの信頼が実を結んで徐々に取材先が増えていった。
しかし、昨年起こったひとつの出来事が前進してゆく大川さんの足を止める。取材がひと段落した2011年、東日本大震災が発生。茨城も大きな被害を受けた。
「この時期に、作品展が行える状況ではないのでは?」と思い悩んだが、ある日、出来上がった本を持って取材した陶芸家を訪れると、喜んで「楽しみにしているよ」と言葉をかけられ、このことが後押しとなって作品展開催へとつながっていった。
この作品展には被災した茨城を元気にしようという大川さんの気持ちも込められている。
作品展のギャラリーのオーナーで、彫刻家の鳥山豊さんも大川さんの取材を受けた一人だ。「最近は女子が元気だなーとつくづく感じます。失敗をおそれず、あきらめず・・・大川さんは、変化する環境の中でもまだまだ面白いことを続けていきそうな気がします」とエールを送る。
今、大川さんは結婚して静岡県に住んでいるが、今後も茨城の新しい「つくり手」たちを取材し、2回目の作品展を開催したいと考えている。
さらに機会があれば、新天地・静岡県内の「つくり手」たちの取材にも挑戦してみたいという。「つくりっぽ」展は今月14日(日)まで。13、14日は大川さんも座廊の予定。(オルタナS特派員=水野恵美子)
作品展「茨城のつくり手 つくりっぽ」
開催場所「Cafe & Gallery MEMORIES」
詳細
大川さんの主催の造形教室「アトリエぽれぽれ」