東日本大震災が発生してから1年半。今後被災地と関係を築く上で企業が被災地支援に対する理解を社内外から得るためにはどのような方法を取るべきだろうか。日本フィランソロピー協会の第276回定例セミナー「企業の被災地支援に対する社内外の理解促進のために」では、継続できる支援を目指して積極的に活動している企業の代表として、味の素とソフトバンクモバイルの2社が事例を発表した。

講演する味の素CSR部部長沖田憲文氏


被災地からの生の声を届ける味の素の事例

2011年6月に、今後3年間、中長期的に被災地復興に関わって行くことを宣言した味の素は、地域と従業員で手づくりの復興支援活動を実現している。

味の素CSR部部長沖田憲文氏は、復興支援について「復興には5〜10年かかるので、味の素は10年後も必ず何かしらの形で関わっているはずだ」と長期ビジョンを語った。

その実現のために、「味の素の復興支援予算は限られている。お金よりも手間ひまをかける方が長続きするのではないかと考える。双方がありがとうと言える支援ではなく、お互いに『ぐっとくる』ような活動を考えていきたい」と話す。地元が主体で、味の素がそれを横で支える存在になっている状態を取り、最終的には地元組織に託し、地域完結型のケアを目指すという。

現地により近いところで、現場の声を聞くことが、支援を継続させる秘訣だという。味の素では、2011年8月より、現地に駐在スタッフを派遣している。最初の1人は、何をやるか全く決めず、現地密着でやっていこうということだけを決めて、CSR部から派遣された。

こうした現場密着の中で、心と体のケアという課題が浮き彫りとなり、参加型健康栄養セミナーを実施することとなる。

地元の社会福祉協議会やNPOなどのパートナーと共に、知恵を出し合い、様々なプログラムを提供している。例えば、陸前高田市では、男性は仮設住宅にこもって出てこないという課題に対し、「男と子供の料理教室」、仙台市では栄養士を目指す学生向けのセミナーを行った。

社内共有については、できるだけ被災地からの生の声を聞かせることを大切にしているようだ。被災地からのメールやお客様相談センターへの電話、海外グループ会社従業員のボランティア参加者の声を社員と共有しているという。

こうした生の声を聞いた社員は、自社製品を毎日使ってくれていたことに喜びを感じ、自分たちの仕事の原点に触れるような機会に遭遇するという。「自社の根源的価値、『食』の力を再実感するきっかけとなったのが大きかった」と、沖田氏は話す。

社員の意識を持続させるソフトバンクモバイルの事例

ソフトバンクが目指すCSRとは、「事業を通じて社会貢献をすることでユーザーから共感を呼ぶ持続可能なモデル」である。

このモデルを達成するためのキーワードは4つある。「ZERO-CSR」、「コーズマーケティング」、「情熱+仕組み」、「可視化」である。

中でも、ZERO-CSRとはソフトバンク独自の言葉で、儲かりも損もしないモデルのことだ。電子回覧板としてのデジタルフォトフレームの提供や、アプリ技術者支援など、ソフトバンクのCSRのほとんどがZERO-CSRである。ZERO-CSRではない唯一の活動は、チャリティホワイトだけだ。

チャリティホワイトとは、登録したユーザーからは毎月10円を、そしてソフトバンクも10円を寄付し、合わせて毎月20円を東北の子どもたちに支援する仕組みだ。10月21日時点で、41万4千人が参加する仕組みとなっている。この取り組みにより、継続利用意向が上昇し解約抑止効果やファン獲得効果=経済効果を得ているという。

この発案者は、ソフトバンクモバイル人事総務統括総務本部CSR企画部部長池田昌人氏。実は震災があるまでCSRを知らなかったという。そんな池田氏をCSRの世界に引き込んだのが震災だった。「行動の全ては震災のショック・恐怖が活動の原点。私の人生を変えた東日本大震災」と池田氏は語る。

チャリティホワイトを発案した池田氏


社内理解促進のためには、「システムサポート」と「社会に貢献するビジネスアイディアコンテスト」の2つが大きな効果があったという。

システムサポートについては、チャリティホワイトプランに加盟するかを確認しなければ手続きを進められないよう、窓口のシステムを変更した。これを導入してから加入率がぐっと上がったという。

社会に貢献するビジネスアイディアコンテストは、既に二回実施され、アイディア約500案、400名ほどの社員が参加した。これは成功予測の100名を遥かに上回る数だった。

このアイディアコンテストで生まれた「情報システム本部」からのアイディア、「金額指定可能な音声通話募金」は2012年9月から実施されている。通話料を寄付する形は今まであったが、金額を指定できるのは日本の携帯電話業界では初の仕組みだ。

「出たアイディアを実現することで社員のモチベーションになるので、急いで実現させることが大切」と、池田氏は話す。コンテスト参加者には完全非売品のチャリティホワイトのお父さんバッジを用意するなど、社員の意識が衰えないような仕組みづくりも今後更に拡大させていきたいという。

それぞれの企業で工夫がこらされていたが、一番のポイントは、「自分たちの仕事が社会の役に立つことに繋がっていること」を実感させることではないだろうか。そのためにはどんな手段があるか。ここにそれぞれの企業のユニークさがでてくるのだろう。(オルタナS編集部員=山田衣音子 *取材協力日本フィランソロピー協会)