米大統領選で、現職のバラク・オバマ大統領が再選を果たした。オバマ大統領といえば、選挙キャンペーン期間中に、LGBT(レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダー=性的少数者)の人権を守る重要性を何度となくアピールしてきたのは記憶に新しい。LGBT差別が激しいのはアフリカだが、世界一の大国・米国でも、いろんな意味でLGBTに対する注目度が高まっている。



選挙戦さなかの6月、オバマ大統領は「LGBTの権利は人権であることを理解するからこそ、私たちは世界中のLGBTの人々の権利の推進と保護のために国際社会との協力を続ける」と言明した。この発言の裏には、苦戦を強いられていた大統領選をにらんだ「票取り」の計算が働いたのは想像に難くない。なにしろ、米国の人口の7%はLGBTといわれるからだ。

これに先立つ形でヒラリー・クリントン国務長官は2011年12月、LGBTの人権保護に取り組むNGOを支援する国際基金を設立すると発表した。米政府は300万ドル(約2億4000万円)を拠出すると約束し、他国にも基金への参加を呼びかけている。

今回の大統領選では財政の立て直しや失業率の改善が焦点となったが、そうしたなか、米国ではLGBTを顧客とするビジネスに着目する動きが見られ始めた。

そのひとつが、インターネットを介した販促キャンペーンだ。LGBTはインターネットでの交流を好む傾向があるという。ゼネラルモーターズ(GM)は、仕事をもつLGBT が多く参加するウェブサイト「dot429.com」との共同で、車の試乗キャンペーンを打った。

米国のLGBT市場規模は推定8350億ドル(約67兆円)にも達する。2010年の韓国の国民総所得(GNI)である約1兆ドル(約80兆円)に迫る数字といえば、この巨大さがわかるだろう。1人当たりの年間消費額に換算しても5万1000ドル(約400万円)と、米国人の平均を大きく上回っている。その理由は、LGBTは独身またはDINKS(子どもをもたない共働きの夫婦)が多いこと、また都心で仕事する人が大半で消費が自ずと増えるという事情もある。

とはいってもLGBTに対しては、年配者や宗教に敬虔な人など、米国でも寛容でない人は少なくない。西海岸のワシントン州が2012年2月に同性婚を認める法案を可決した際、シアトルに本社を置くスターバックスはいち早く「支持」を表明したが、これに反対する全国結婚組織(NOM)は、スターバックス商品の不買運動「ダンプ・スターバックス」をインターネット上で展開した。この出来事は米国でのLGBT差別の根深さを浮き彫りにした。

米国のNGO「中傷と闘うゲイ&レズビアン同盟」(GLAAD)によると、「82%以上の米国人にはLGBTの知人がいる」「LGBTでない人の42%が“アンチ LGBT商品(LGBT差別につながる商品)”の購入を避ける傾向がある」という。時代の流れとしてLGBTがかつてよりも社会に受け入れられつつあるのは事実だろう。

少なくとも米国ではいまや、LGBTは選挙やビジネスで無視できない存在になった。重要なのは、こうした風潮をLGBT差別の解消につなげられるかどうかだ。「フェアトレード」の認証のように、「LGBTフリー製品」(たとえばLGBTへの差別反対を宣言する企業の製品)が市場に出回り、それを消費者が支持するという構図が生まれれば、国際協力も絡んだ大きなムーブメントになるかもしれない。(寄稿・開発メディアganas=依岡意人)


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