明るい店内で「いらっしゃいませ」の声が聞こえる。
場所は、福島駅北側にある複合型ショッピング施設の一階の特設販売所。学生服姿の高校生たちが、背筋を伸ばして立っている。カラフルな布地の小物を手に持ち、身につけ、声を出し商品をアピールしていた。人の流れが多いその一角に、子ども連れの家族や買い物にきた婦人、夫婦が足を運ぶと商品を指さして高校生たちに質問をしている。
ここで行われているのは、福島復興をモチーフとした商品の販売会。ビジネス教育プログラム「Learning from Helping」に参加した高校生たちが企画立案した商品を自分たちで販売していた。
並べられた商品は3種類−ウェットスーツ生地を使った携帯入れの「アマフィー」、同じくブックカバー、そして、人型をした木工バランスパズルの「ラッキードール」。商品を販売して得られた利益は、福島の復興や福島の子どもたちのために使われる予定だ。
全ての商品のどこかしらに福島の子どもたちが描いた絵がワンポイント施されている。原色豊かなひまわり、もも、野菜……。「子どもの絵には力があるから、復興の要として取り入れよう」という意見が通った。
全て高校生が自分たちで、商品企画、価格設定、事業計画書、商品デザインを引いた。工場との交渉・発注も行い、商品の質にこだわってやりとりも繰り返した。「思っていたよりもすてきな商品に仕上がった」とアマフィーを企画したチームの佐藤陽平さんは話す。
対面で販売してみて分かったことは多い。お客さんに商品のことを伝えることの大切さと難しさ。声のかけ方一つ、目線の置き方などのちょっとしたことの違いにも気づきがある。いろいろな工夫の中、自分が発案した商品が売れたとき「とても嬉しかった」と「ラッキードール」を作ったチームの松本恵実さんは笑う。
このプロジェクトに参加した高校生の中に、原発の避難区域内に学校があり転校を余儀なくされた子たちがいた。明日も学校に行くのが当たり前だと思っていた日常が急に変わってしまったのだ。
「実のところ目的は、『お金もうけ』ではなく、あくまで、高校生たちの教育と支援です」と今回のプログラムを支援したNPO法人マイビジョンの石黒さんは話す。昨日まで当たり前だったことが、今日当たり前にできなくなってしまっている。そんな不連続の中で生きていかなければいけない高校生たちが自立していけるように、彼らの成長を支えたいという思いがある。
ある高校生は、今回のプロジェクトに「自分が少しでも福島を支援できるなら」という思いで参加を決めた。でも、その本人が買ってくれた人からの「がんばってね」の一言に元気をもらい、「復興のために」と買ってくれた人の気持ちにふれて心が温まる経験をした。人を支えたいという想いが、巡って自分を支えてくれる……そんな学びがあったのだと思う。
写真・文=岐部淳一郎
*この記事は「東北復興新聞」から転載しています。
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