幅1メートル、奥行き2メートルほど。長方体の釜の中でお湯が茹だっている。その中にカゴいっぱいのわかめの塊を放り込む……。採り立ての深い茶色が、深い緑色に変わると、巨大な金属製の網カゴでお湯から引き上げる。それを隣の水タブに移し替えたら、手で洗う。水しぶきが朝日を反射させて加工場の中に淡い光を落とす。



洗い終わったわかめは塩蔵され、一日置かれた後、切断・パッキングを経て、出荷される。水産加工場の、春の朝の日常だ。

木村水産は、三陸海岸沿い・石巻市北上町十三浜にある水産加工業者だ。昭和50年に創業し、今は2代目。春はめかぶとわかめ、夏は生ウニ、冬はあわびと、三陸の豊かな幸(さち)を全国に届けてきた。この日は、地元の漁師からわかめが工場に運び込まれ、市場出荷用の加工が行われた。つい前日に震災後初の入札が行われたばかりのわかめだ。

復興への一歩。だが、厳しい現実もある。工場をフル稼働させる十分な運転資金が手元にないことだ。

震災で海水ポンプ、排水ポンプ、排水管が全壊し、水槽中のあわび約400キロ、冷凍庫にあっためかぶ約700キロが全滅。破損した設備を1000万円かけ修理したものの、肝心の原料を仕入れる資本までは捻出できなかった。工場が残っているということで罹災認定されず見舞金は出ていない。銀行からの追加融資も断られた。それでもできる範囲でやってきた。

工場があり、人もいる。ノウハウもある。課題は、「仕入れ」。「春のめかぶで操業できれば、その売上で、夏のウニ、冬のあわびを仕入れることができる」と木村傳孫(ただひろ)代表取締役社長は話す。

ある人の勧めを受け、WEB上で個人から資金を募るセキュリテ被災地応援ファンドに「めかぶファンド」と称して希望をつなげた。最初は思うようには集まらなかったが、それも4月には2000口、1000万円が集まった。品薄ということもあり、仕入れ値が例年の2倍近くまで上がっている状況だが、これで一歩進められる。

工場が稼働すれば、人が雇われ、地域経済が廻り始める。投資する個人の思いが集まり、希望の歯車を動かし始める。


写真・文=岐部淳一郎


この記事は「東北復興新聞」から転載しています。


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