遠くまで見渡せる公園。青空は広く、初夏の芝生も青々としている。4月初旬、この日は暖かな陽気。

丘の形をした白いトランポリンで跳びはねたら、次は、赤い網がかけられた球形のジャングルジムに上る。迷路になっている網の中をくぐり抜け、てっぺんから顔を出したら、女の子は「わたしのかち〜」と誇らしげに笑った。




福島の親と子供を応援するプロジェクト「ふみだすふくしま」の、ちびっこ遠足隊。朝9時に福島駅に集合し、8人の子どもたちを車に乗せて宮城県県南のみちのく公園にやってきた。3〜6歳の未就学児童を対象にした移動保育だ。

福島県内の放射線量が高い地域では、子どもたちは外で存分に遊べない。「放射線問題の対策で言われてきた多くが県外避難です。でも、ほとんどの人が生活や仕事のために『逃げられない』んです。多くの親が、それが子どもの人生に大きく影響してしまうかもしれない不安を抱えているんです」。と遠足を運営する上國料(かみこくりょう)竜太さんは話す。子を持つ親であり、保育園を経営していた上國料さん自身もさまざま悩んだ末、線量の低い地域に子どもたちを連れて行く移動保育を始めた。

里川では縁に座って靴先を濡らして、古民家ではおじいさんにベーゴマ、竹とんぼ、おばあさんに折り紙を教えてもらった。見たことのないおもちゃを見て戸惑うのは最初だけ。誰かが楽しそうにやっているのを見たら、「ぼくも!」と遊び方を学んでいく。くったくのない笑顔とはこれを言うのだと思う。

「これがベストではないかもしれません。でも、子どもたちが思う存分に遊べるよう、親の不安が少しでも和らぐようにと思うんです」と上國料さんは話す。子どもに向けるまなざしが優しい。そしてその表情は子どもと遊ぶときはじけるように好奇心に満ちる。

陽が少し傾いて、あたりが赤味をおびてきた頃、一人の泣き顔が見えた。最初、ひっこみがちだった男の子だ。「まだ、遊びたい」とだだをこねる。ボランティアの大学生はかがみ込むと「また、来ようね」と頭をなでた。男の子は素直にうなずくと、手を引かれ、長く伸びた影の方に向かってゆっくり家路に歩き出した。


写真・文=岐部淳一郎


この記事は「東北復興新聞」から転載しています。


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